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開戦 Ⅱ

3 開戦 Ⅱ


 海の上を黒い浮遊艦隊が進撃する。

 その数は1000を超えて大空を覆い隠す。

 その中で一際大きな艦の中で石崎は指示を出す。

「あの連中と戦争するのには、まずあそこを襲うのが仕来たりだぜ、それも何も告げずに突然襲うのも仕来たりだ。だから宣戦布告はまだ行わない、そして今度は前の戦争と違ってあの火山諸島を制圧する。あの南の楽園の島を恐怖で支配してやろうじゃないか」

 群青の悪魔がその指示に意見を述べる。

「しかしあそこは奴らの太平洋艦隊の総司令部なのですぞ、あのデカ物が20もいてあそこを防衛しています。それをどうされますかな?奇襲をかけてもすぐに防御されますぞ」

 石崎は笑いを作ると、

「作戦の仔細を告げていなかったのはみんなをビックリさせようと思ったからだ。50隻ほどの浮遊艦を宇宙空間に飛ばしてある。かなり高質量に改良してな、それが重力加速によって三万を超える時速でデカブツに襲いかかる。どうでもいい連中がその艦を操縦しているのさ、それは最初に軍団にいた大人達だ。みんなの為に死ねるのなら喜んで死ぬと言っていたぜ、それは全軍団員にも言い渡してある。この軍団の鉄束なのだ。その時速三万キロの奇襲からこの作戦は開始される。その時に奴らの恐怖が始まるのだ。さて朴よ、基地を守る悪魔が骨のある奴だといいんだが、悪魔の大統領は一体何匹の悪魔を飼っているのかな?」

 群青の悪魔はその大胆な攻撃方法に驚嘆しながら答える。

「私が知る限り100名はおるでしょう、私より暗き紺青の悪魔もいますゆえ、より暗いほどその力は強いのです。あの場所は最重要な場所故、かなり強力な悪魔がいるでしょう、私の予想では青黒き三兄弟がいると思います。トニーストーン、ジョニーストーン、ハリーストーン、紺青の悪魔と濃藍の悪魔、そして紺色の悪魔、その3名はダークブルーブラザーズと呼ばれております。兄弟なのは事実なのです。悔しいが奴らは私より強いのです。ダークブルーにもランクがあるとお見知りおきを」

 石崎は笑みを作ったままそれに答える。

「暗い色にもランクがあるのか?まあ俺には関係ないが、しかしそれならかなりの抵抗が期待できるな、戦いはそうじゃなくては面白くないぜ、殺し合う事に意味があるからよ、そろそろ約束の時間だぜ、全速力で戦場に駆けつけようぜ」

 戦闘開始の時間は自国の時間で午後12時と決められている。しかし石崎は明日に向かって攻撃する事になるのだが、

 黒い大艦隊は音速を超えて飛翔する。

 それが起こす衝撃波が轟音を辺りに響かせる。

 軍団旗と国旗を濠風に翻して大洋を一気に敵地に向かう。



 夕暮れの景色を楽しむ紺色の悪魔は告げられる突然の異変にその雰囲気を壊される。

「大変です、レーダに機影を確認、かなりの高速で接近しています」

 もう南国のトワイライトを楽しんでいる余裕はない、その何者かの攻撃に対処しないといけないのだ。

「それは機影か?どこから来た?その数は?仔細を報告しろ!」

 基地を守る為のシールドのスイッチを入れながら紺色の悪魔はそう叫ぶ、

「かなりの高質量、それが宇宙空間から飛来して来ています。その速度は推定で三万五千キロ、あと数秒でここに到達します」

 対処するには余りにも短すぎる時間、都市部を全てシールドで守る暇しかない、

 高速で飛来する火の玉が島を守るように配置された浮遊要塞に襲いかかる。

 その速度と質量で要塞のシールドを紙のように突き破りその全てを海の藻屑に変えて行く、

 その落下の衝撃で起きた高波が白い砂浜を呑み込んで、そしてシールドで守れなかった地域を全て瓦礫に変えて行く、

「艦隊出現!呪われた国の国旗を掲げています」

 その大惨事を茫然と眺めている暇は無いようだ。

 紺色の悪魔は戦争が始まったとそうさとる。



「今頃奴らはびっくり仰天しているぜ」

 停泊する敵の艦隊を攻撃する様子を満足げに見つめて石崎は笑いを作る。

「この時代に完全な不意打ちを仕掛けられるとはさすがですな、その巧妙さには感服いたします。これで制空権は得たも同然ですな、あとはどう楽しむか、それだけですな」

 群青の悪魔の賛辞に目を細めると石崎は、

「とりあえず悪魔の大統領の住みかの白い家にメッセージを送りつけてやろうぜ、俺達をもっと憎んでもらわないと困るからな」

 群青の悪魔はその命令を実行するために高速艦を一隻宇宙に向けて飛ぶように指示を出す。

「さて太一、基地と都市はシールドで守られているぞ、奴らはあそこに立て篭もって援軍を待つつもりだぜ、あの連中に安全は無いと教えるのにどうすればいい?」

 子供は考える。一番面白い方法を、そして思いつくと、

「まずゴーレムを投下しよう、そしてわざとシールドを破壊出来ないふりをする。まず揺さぶりをかけるんだ。それから基地にはゴーストマネキンを市街地にはマンイーターを投下する。それが恐怖の夜の始まりになるんだよ」

 その計画に石崎は満足そうに頷く、石崎は別に人命は尊重なんてしていないが恐怖を演出するその小道具が大好きなのだ。

 浮遊艦から巨大な物体が投下されて行く、それは全てこの国の自由の象徴の女神の姿をしている。

 その数十体の巨大な自動機械は動き出すとシールドを破壊するために攻撃し始める。

「シールドの種類と機能がわかったよ、発生装置の所在も確認したよ、あんな物いつでも壊せるよ、どうするの、王様?」

 腕を組んで石崎は考えるそして笑いを作ると、

「どうするかは悪魔の大統領に決めさせようぜ、援軍を寄こすなら奴らには人質になってもらう、そうじゃないなら楽しむだけだ。今頃メッセージが届いるだろうからな」

 そう告げる目はしかし期待で輝いている。



 ジョージストーンは異音を聞いて目を覚ます。

 そしてその正体を確認するために窓に歩み寄る。

 外の庭園には異物が散乱している。

 確認しなくてもそれは死体だと判断出来る。

 ダークグーリンストーンが出現して死体の正体を報告する。

「御休みの所恐縮ですが非常事態が発生しました。ばら撒かれた死体はあの戦いで捕虜になった同胞の死体であります。突如出現した浮遊艦がこれを投下したのであります。お前を殺すとのメッセージが同時にばら撒かれております。それはこれであります」

 それを手渡されたジョージは怒りに震える、

 キルミーと書かれたメッセージには忘れられないマークが描かれている。

「国家安全保障対策会議を行う、メンバーを招集させろ、それから太平洋司令部と連絡が取れるか確認しろ!」

「サーイエッサー」

 そう返答するとダークグーリンストーンは姿を消す。

 ジョージはメッセージを握り潰すと投げ捨てる。

 そして怒りを鎮めると服を着替えながら冷静に考え始める。

 たぶん太平洋司令部は今頃壊滅しているだろう、もう援軍を派遣しても被害がさらに広がるだけなのだ。

 だから本国の防衛に徹底するべきだ。

 葉巻を咥えながらそう決断する。

 そしてその方が自分には都合がいいとV字に笑う、

 憎しみは更に大きくなる。

 その矛先を得てさらにその悪意は大きくなる。

 後はそれをコントロールすればいいだけだ。 

 それは恐怖にも打ち勝つ力になるだろう、

 悪魔の大統領はこの思わぬ事態を歓迎する事にする。

 そしてステッキを突いて寝室を後にする。



「援軍は来ないみたいだぜ、奴らは見捨てられやがったぜ」

 笑いを作りながら石崎はそう告げる。

「それじゃあ計画は実施だね」

 楽しそうに子供がそれに答える。

「さっそくゴーストマネキンとマンイーターを投入しようぜ、ゴーレムに陳腐なシールドを破壊させろ、そして俺達も観に行こうぜ、敵の能力者を叩き殺してやる。奴らに本物の恐怖を見せつけてやろうぜ」

 その命令で投下されるのはこの国の正義のヒーローの姿をした人型のロボット兵器と巨大な爬虫類や恐竜達、そして触手をくねらせる怪生物、さらに巨大なゴリラまでいる。それはこの国の恐怖映画に登場する怪物達を模した自動機械、そのモンスターは都市にそしてヒーローは基地を目指して動き始める。

 シールドを破壊したゴーレムは偽装を解いてその姿を曝け出す。

 巨大な想像上の悪魔に変身したそれは粒子砲を放って兵器類を破壊し始める。

 突き進むヒーローは敵の兵士を殴り殺してその装備を奪い始める。

 そして倒した兵士の姿に顔を変貌させる。

 奪った装備には識別装置もある。

 だから基地を自由に歩き廻り仲間だと思った兵士達を次々と撃ち殺して行く、

「せめて体に埋め込む仕組みにすればいいのに」

 太一は敵の死体を蹴って嘲るようにそう言って笑う、

「悪魔の帝国の装備はかなり貧弱だな、機装兵すらいないなんて、手ごたえがなさすぎるぜ」

「その代りにあんな物がいるよ」

 太一が指差す先には小型の蜘蛛のようなマシンが多数出現してレーザー光線を放って来る。

「あれは遠隔か自立型か?」

 暗黒の障壁で光線を防いだ石崎が太一に尋ねる。

「たぶん自立式だと思うな、遠隔だとオペレータが多数必要になる。それに兵士達の生体データーを識別しているよ、それと一致しない者は全て敵だと判断される」

 いちいち相手していられないとばかりに石崎は暗黒の結界を作りそれで皆を囲む、

「お手軽な大量生産品か、奴ららしい発想だな、質より量で攻めてきやがる。しかし今度はそれに負ける訳にはいかないぜ」

 結界を解いて暗黒の魔人を創り出し、それで襲い来るロボット兵器を打ち壊しながら石崎は命令する。

「マシンイーターを投下させろ、あんな物はあれの餌になるだけだ」

 随行する群青の悪魔は艦隊に無線で即座に命令する。

 浮遊艦から投下されるその物体は動き出すと蜘蛛型マシンを文字通り喰い始める。

 マシンには無反応な敵の蜘蛛型マシンは喰われ続けそしてマシンイーター呼ばれるその物体は取り込んだマシンを元に巨大化して変形して行く、

「物質変換機を内蔵した対マシン用の怪物さ、マシンを食べる度に巨大化して変形して行くよ、対無人兵器用の切り札さ、これで邪魔なマシンはみんな食べてくれる。もう安心だね、早く驚く悪魔達の顔を見に行こうよ」

 石崎と太一、そして群青の悪魔と青銅の騎士は敵の司令部と思われる建物目がけて歩き始める。

「奴ら三兄弟はそれぞれAランクの能力者、それが合わさればSランクにもなりますぞ、なにぶん御注意を、しかも兵士ではなく元は犯罪組織の幹部達、悪辣さでは並みいる悪魔よりかなりの者達、対面すればその理由もわかるはず」

 群青の悪魔がそう忠告する。

 しかし石崎は笑いを作ると、

「それは楽しみだぜ、奴らが逃げる前に是非御対面と行きたいな、少しでも俺に抵抗出来たら見逃してやるか」

 そう言って司令部と思われる100メートルぐらいのビルを見上げる。

 結界で守られたそのビルは入って来いと言わんばかりに入口だけが結界に穴が開いている。

 その娯楽施設に石崎は笑みを作ったまま踏み込んで行く。



 街は恐怖で溢れている。

 映画館やテレで見たホラー映画の様な出来事が起きているからだ。

 突然出現した怪物が人々を襲いそして食われていくのだ。

 発砲する銃弾も何の抵抗にもならない、

 市街を守備する兵士の重火器も何の役に立たないのだ。

 パニックに陥る住民達に容赦なく怪物が襲いかかる。

 しかし食われるのはなぜか大人達に限定されている。

 怪物達は震える子供には興味を示さず大人達を襲い続ける。

 逃げ隠れる大人達だけが怪物が延ばす触手に捕えられそして食われる。

 その恐怖に支配された街に隊列を組んだ一団が進撃して来る。

 その隊長格の少年が一団に告げる。

「さあ、救いに行こう」

 その黒い軍団は闇の中を恐怖に震える弱き者を求めて方々に散り始める。

 仲間を増やす為に散って行く、

 恐怖の仲間にする為に微笑みながら闇を歩く。



 仕掛けられた罠を簡単に突破して石崎達はビルの屋上に辿り着く、

 そこには3人の男達が待ち構えている。

 その3人の白人の青年達は憎しみと怒りにその目を光らせる。

「服従するつもりは無いみたいだな、まあその方が俺は楽しめる」

 そう告げると石崎は暗黒の剣を創り出して構える。

「恐怖の王に加担などするものか、我らの主は1人だけだ。我が父は暗黒などに組みしないと決めたのだ。我らは父を魔王と呼ぶと決めたのだ」

 一番年長者らしい男がそう告げるとマシンガンを創り出して石崎に向けて構える。

 他の2人もそれぞれ武器を創り出してそれに倣う、

「武器の具現化は奴らの能力の一つなのです。そしてその威力は計りしれない、暗き青は三つ重なれば更にその暗さを増しまする。貴方様には茶番でも私達には死活なのです。だから戦わず傍観するのを許して頂きたい」

 群青の悪魔はそう告げると子供と騎士を背後に庇い後退して行く、

「見ろよ兄貴、馬鹿の裏切り者の暗い青は臆病者だぜ、暗黒の陰に隠れていやがる。群青の悪魔の名も方無しだな、あいつの方から先に料理してやろうぜ」

 一番若い男がそう言うとマシンガンを群青の悪魔の方に狙いを変える。

「おい、お前、誰の許しであいつらを殺すと言うんだ。あいつを殺すのは俺だと決めている。それは誰にも邪魔させないぜ、誰でも強い者を見れば臆病になって当然だぜ、それがわからない馬鹿はお前の方だぜ」

 石崎は笑う、作り笑う、しかしその心は本当に可笑しくて笑っている。

「死ね暗黒野郎!」

 その言葉に触発された紺青の悪魔ことトニーストーンはその作り笑いめがけてマシンガンを掃射する。

 出現した暗黒の障壁がその弾丸を全て防いで無効化する。

「ガッデム!」

 攻撃が届かない事に怒る悪魔は武器をハンドグレネードに変えてぶっぱなす。

 しかしその威力も全て暗黒の障壁に遮られて狙う相手には届かない、

「兄貴あれをやらないとこの化け物に敵わないぜ!」

 あせる弟を見下した2人の兄は仕方なくその要請に応える。

 三兄弟は合体して暗き青の魔人に姿を変える。

 6本の腕にそれぞれ武器を持つ6つの目を持つ魔人の姿に、そして武器を全て大口径の拳銃に変えると暗黒の障壁のその一点めがけて一斉に弾丸を発射する。

 全ての力を無効化する否定の障壁も怒りと憎しみに肯定されたその力を完全に無効化出来ずに石崎は弾丸を受けて吹っ飛ばされる。

 苦痛も無くダメージもあまり感じない、弾丸の威力はかなり弱められていたからだ。

 しかし暗黒の障壁を打ち破った存在に石崎は満足の笑みを作る。

 戦う相手は強くなくては面白くないからだ。

 起き上がると直ぐに暗黒の鎧を纏って青の魔人の前に出現する。

 そしてその腕を一本斬り落そうとするが、しかし武器を剣に変えた別の腕に阻止される。

「へえ、この剣でも斬れねぇ物があるとは驚きだぜ、一本の矢でも三本束ねれば折れないと言う事か?大した能力だと感心してやるぜ、しかし三人揃ってようやくのその大悪魔の力、この俺には通用しないと思い知れ」

 そう告げて石崎が創り出したのは無色で多色の魔人達、その絶望の魔人達は拳を振り上げ暗い青の魔人に襲いかかる。

 青の魔人は六本の腕に様々な武器を創り出して絶望に抵抗するが何の効果も与えらない、そしてその絶望に触れる度に怒りと憎しみが恐怖に変わっていく、

 その恐怖の前に能力を維持出来なくなった3人は、元の姿に戻って震えながら黒い剣を突き付ける作り笑いの男を驚愕して見つめる。

「安心しろ、俺を楽しませてくれた褒美に殺さないでおいてやるぜ、ただし2人だけだ。3人で話し合って殺される奴を決めろ」

 そう告げられた三兄弟は震えながらお互いを見つめ合う、そして頷き合うと紺色の悪魔が語り出す。

「死ぬ時は3人一緒だと決めてある。恐怖の王よ、だから俺達を皆殺しにしろ」

 石崎は作る笑いを大きくすると、

「俺の褒美がいらんだと?せっかく大きな憎しみと絶望を与えてやるというのに辞退するのか?それほど俺は憎まれているのか?ならその憎しみをもっと大きくしてやろう」

 石崎は三兄弟の腕を一本ずつ切り落とす。そして笑みを大きくすると、

「お前らの親玉に伝えておけ、俺をもっと憎めとな、だから全力でかかって来いと、そうじゃないと張り合いがないからな、お前らの腕は曝し物にして飾っておくぜ、わかったらさっさとあの乗り物に乗ってトンズラしやがれ」

 腕を斬り落とされた三兄弟はよろよろと屋上に突き出た砲弾状の構造物に向い歩き始める。

 ビルの屋上に高速艇が到着して石崎は皆に乗るように指示を出す。

 それに乗り込みながら群青の悪魔が愚痴るように石崎に尋ねる。

「なにゆえあのような奴らを生かしておくのでしょうか?」

 石崎は愉快そうに笑いを作ると、

「あんな連中でも俺は愛しているんだぜ、そして強い奴は更に愛される資格を得るんだぜ、それが不服ならお前が奴らを殺してみろよ、なら奴らの征伐はお前の仕事にしてやるよ、奴らは片腕になったんだぜ、お前でもそんな奴らなら殺せるだろう?」

 その言葉に群青の悪魔は艇内で平伏する。そして感謝の言葉を述べて称える。

「有りがたき事、勿体無き事、そのような大義を申し受けられるとはこの悪魔には身に余る光栄でありまする。その御前にあの者達の首を必ず献上すると約束いたしましょうぞ、この戦のうちに必ずにと」

 石崎は平伏する悪魔を見下すと、

「期待はしないがそれも楽しみにするぜ、暗い青同士の戦いだ。より暗い方が勝者にならないと証明しろよ、それは臆病に逃げた罰でもあるんだぜ」

 群青の悪魔の渡るタイトロープは更に細くなる。

 しかしそれが楽しくて堪らない、思わず歓喜の声を上げたくなる。

 しかし突然の大音響がその叫びを止めさせる。

 2つに倒壊する司令部のビル、そしてそこから出現する物が轟音を響かせ空に舞い上がって行く、

「時代物のロケットに乗って退散するとは呆れた連中だな、あんな物で逃げられると本気で思っていたのか?加速するのに時間がかかり過ぎてすぐに標的になってしまうぜ」

 それを見つめる石崎は呆れたようにそう語る。

「戦状のデーターを取る必要があるからあれはしばらく着陸しないよ、たぶん衛星軌道を周回するよ、そして奴らが悪魔の大統領にメッセージを伝えるまで撃ち落とせない、悪魔はやはり悪辣で強かだね、そしてこれから先が楽しみだね」

 飛び去るロケットを見ながら子供ははしゃぐ、

 その楽しい事は今始まったばかりなのだ。

 この子供はその楽しさを与えてくれる宝物なのだ。

 だから石崎はその愛すべき子供の肩を抱いて地上を見下ろす。

 恐怖に襲われるその光景を見て、そして満足の笑みを作る。

 妹の軍団には南半球の大陸の攻略を任せてある。

 そして最も黒い白の超悪魔には大洋の各基地の殲滅を命じてある。

 全てに恐怖を与える為に、

 その恐怖の象徴が金に5つも輝く旗艦が見えて来る。

 やがて世界はそれを見るだけで震えるだろう、

 暗黒の軍団は恐怖の軍団なのだから、

 だから忌み嫌われて憎しまれ、そして恐れられて当然なのだ。

 それは自分が世界を愛していると言えるたった1つの理由だから、

 それでしかそれを証明する手段はないのだ。

 だからこの戦いは勝敗にはこだわらない、

 いかに恐怖を与えるか、それだけが課題なのだ。

 南の楽園の5つの島はその恐怖に今包まれている。

 それは恐怖の王にとってまさしく楽園に見えるのだ。

 それが楽しくて堪らない、

 笑えないから心で笑う、

 そして次の恐怖を考える。

 それも大事な楽しみなのだ。



 悪魔の大統領を囲む国家安全保障会議は白熱している。

 あの民族を蔑む呼称が会議の席に飛び交う、

「収容所の奴らを見せしめに皆殺しにするべきだ!」

 その意見に同意する者は多い、

 しかしジョージストーンは首を縦に振らない、そして提案する。

「皆殺しにするのは勿体ないと思わないかね?それよりいい方法がある。収容者を一定の人数ずつ各都市に放逐するのだ。国民に復讐する機会を与えようではないか、そして彼らにも逃げのびる機会を、それが一番自由で平等だと思わないかね?我々は何よりも自由を尊重しないといけないと思うがこの提案に異存はあるかね?」

 大統領の提案は拍手でそれに応えられる。

「捕え又は殺害した者には国家から報奨金を出そう、そして逃げる奴らが国民に危害を加える度にその中により弱い者を加える事にしようではないか、戦う兵士達にも敵を殺す度に報奨金を与えよう、その為には増税が必要だが国民は全て納得すると思う、この国は資本主義だから沢山殺せば沢山儲かる。それは当然の事なのだよ、大統領権限でその法案を可決しようではないか、国家緊急事態宣言中だからその権限は私にある。異存がないなら次の議案に移ろうではないか、欧州連合との正式な同盟の議案だ。技術をもっと供与してもらう必要がある。恐怖の帝国は生意気にも数の少なさを技術力で補おうとしている。それに対抗するだけの手段を準備しておかないといけないからな、我が国には優秀な科学者も大勢いる。馬鹿な猿を懲らしめる事はそれで出来るだろう、我々が掲げる旗は何としても守らねばならんのだ。懲りずに再び挑んできた黄色い猿に思い知らしてやろうではないか、この旗は永遠に掲げられるべきだと思わないかね?」

 全員は起立してその旗を称える詩を合唱し始める。

 皆が称えるその旗はしかし今は黒く染められている。

 赤も青も白も全て黒い色に染められている。

 歪んだ自由の象徴を称える詩が木霊する。

 その詩を聞く大悪魔は満足そうにV字に笑う、

 私の、私による。私の為の政治が始まるのだ。

 人の苦しみを快楽と感じる大悪魔はだからこの戦争を歓迎する。

 勝敗など関係ない、苦しむ顔が見たいのだ。

 それは敵でも味方でも関係ない、

 誰が苦しんでも同じなのだ。

 だから今は本当に満足しているのだ。

















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