探偵少女と雨の森 /1-2
雨の森を歩くこと数十分。涙目になりながら探偵少女は地図とにらめっこしていた。何でこうなるのよと雨宿りしている木に八つ当たりした。
「ああ、もう。大切な帽子も鞄も水浸しよ。下着までぐしょぐしょになっちゃって」
気持ち悪いなぁ、と少女は呟いた。それに対して、いっそ全裸で歩けば気持ちいいんじゃないですかと男がにやにや笑う。
「あんたは気楽でいいわね」
「そりゃあ、探偵さんを信じてますから」
その言葉に少女は顔を赤くした。明らかに動揺したのを隠すかのように男に背を向けて一生言ってろとだけ答え、再度地図を見つめなおす。
さっきからそれらしい目印はあるのだ。道に出来た二本の太い轍。これは明らかに人が車で踏み入っているという証拠だ。この轍をずっと追っていけば必ず何かがあるはずである。しかし歩けど歩けど何も無く、やまない雨は気力と体力を奪い続ける。こんなところで野垂れ死ぬなんてかっこ悪いこと出来るはずないと少女は気合を入れなおした。
「先に進むわよ」
少女の言葉に男は了解、と答えて立ち上がった。
さらに歩くこと数十分。少女はすっかりやる気をなくし、その場に座り込んでいた。気まぐれでの行動力はすさまじいものではあるが、やる気がなくなったとたんにこれだ。男は探偵少女の悪いくせを十分に理解しているつもりではあったが、まさかここに来て生きて帰ることまで放棄してしまうとは。
「もうやだ。歩きたくない。疲れた。助手、おんぶして」
「さっきまでの勢いはどこに行ったんですか」
まあ別にいいですよ、と男は少女を背負って歩き出した。少女の体は予想よりも遥方に軽く、予想ほど苦にはならなさそうだ。
「助手」
「なんですか」
「・・・ありがと」
普段からこのくらいだったらかわいいのに。男はそう思いながら再び歩き始めた。何度同じ風景を見ただろうかと錯覚するほどのうっそうとした森が続く。
足元の二本の轍だけが、二人の心の支えであった。