monster 3
九州小林学園、福岡県博多市の東部に位置する私立高校。入学式から3日たった今日、俺はここに入った。
昨日ひとしきりに泣いたから、スッキリしたぶんもあり、今日の目覚めはとても気持ちよかった。布団も敷かずに畳の上で寝ていたけど、過酷な環境には慣れているせいか、(家にいるときも叱られたときは倉庫に閉じ込められたし、九條翔に飼われていたときも檻の中で寝ていた)あまり筋肉痛とかにはならなかった。
俺は教室になに食わぬ顔をして入り、俺の名前が書いてある席に座った。
この時期で転校生はあり得ないし、教員からしてみても入学式に来なかった不真面目な生徒というふうにとらえるだろう。
今が八時五十分で、既に学校に来ているクラスメイトから奇異な目で見られているのはきっと同じような理由だろう。
髪を少し伸ばした中肉中背の眼鏡が聞いてきた。学ランが何となく似合っていない、冴えないという言葉が似合う、そんな奴だ。
「お前誰だよ?」
随分と不遜な言い種だった。友達が減りそうな言い方だなと思いつつ、俺は少し考え、
「頭怪我した不良だよ」
と、悪ふざけのつもりで言った。こういうやり取りが久し振りなせいか、顔が少しにやけているのを感じる。きっと今の俺は下らないいたずらを考えたときの姉貴と、まったく同じ顔をしていることだろう。
からかわれたと思ったのか、中肉中背のそいつは「答えになってねーよ」と返した。
「じゃあ、お前の方から教えろよ。知ってるか、挨拶は自分の方からするもんなんだぜ」
「ああ、そうだった。悪いね君」
喧嘩腰だった。そんなに茶化したのが気に食わなかったんか。
「オレは井上弘人っていうんだけど、知らねえかな?」
「知らねえな、悪いけど今日初めてここに来たから、誰々が何々さんってのがわかんねえんだ」
どうやらこの井上という眼鏡男は随分名の売れた奴であるらしく、俺が知らねえと言うごとにイライラしている。プライドの高い傲慢ちきな野郎であるらしい。俺が中学のときにもいたな。こんな奴。あっちからしてみてもおんなじだろうけど。
「そういうお前こそ誰だよ!オレはお前のことをまったく知らないんだからな!」
怒った声で井上が言った。俺の何がこいつの怒りを買ったんだろう。オレは半分呆れながら、
「大神涼介。入学式サボった大馬鹿野郎だよ」
と返した。