monster 1
あまり思い出したくないことなので、この事を語るのは心苦しいのだけれど、俺は魔術に関わった。
先月の事件、俺の目の前に現れた男は「人類が滅びかねない事態」と称した。
初めて知った『呪術』は大切な人と一緒にいられるというおまじない。そのおまじないは、人から人へ感染する恐ろしい呪いに変貌した。
呪いを解くために、俺は血を血で洗う闘争に身を繰り出した。
何度頭を破壊されただろうか。
何度内蔵を引きずり出されただろうか。
何度身内を殴っただろうか。
何度一撃必殺の攻撃を繰り返しただろうか。
気も遠くなるようなたった一夜の戦争は、俺の家族にとてつもない傷跡を残した。
この世の地獄の極限を見た。
そして、今も地獄が続いている。
サクラサクこの時期、憎たらしい黒尽くめの男はニヤニヤしながら言った。
このニヤニヤ笑っている男こそ俺の事件を解決させた仲介者・九條翔である。
常に次元大介みたいなダークスーツを着ている30代前半ぐらいのおっさんで、どんな事件でも解決させるという凄腕の探偵であるらしい。
「喜べ、クソガキ。お前さんを学校に連れて行ってやる。ありがたく思え」
鉄格子(もとい檻)ごしにそう言った。
「どういう風の吹きまわしだよ」
「どうもこうもねーよ。仕事のじゃまになってきたから、出てけっていってんだ」
「家はどうすんだよ」
「借りてきてやった。家賃くらい俺様がはらってやる」
「学校はどうなってんだよ!俺が頑張って合格した北高なのか?」
早口で捲し立てると、頬に蹴りが入った。凄く痛い。歯が何本か飛ぶかと思った。
「うるせえな、ギャーギャー騒ぎやがって。知ってるか?ただうるせえ男は嫌われるんだぜ。今のご時世、青春は叫んだり吠えたりしないらしいからな。
俺の若い頃はスラムダンクが流行ったからな、どいつもこいつも『ウホォーー』て叫びまくってたもんだからうるさいったらありゃしねえ。俺の昼寝の邪魔すんな!って叱り飛ばしたくて仕方なかったね」
このおっさんは高校時代、部活も入らずに昼寝ばかりしていたらしい。灰色の青春というか、濁りきった青春というか、歪んだ青春というか・ ・ ・
「ま、黙って九州小林学園に行けっつー事だ。夏美にはもう連絡してあるから、さっさと風呂入って、三十秒で支度して、さっさとこっから出てけ」
俺はビックリした。だって、いきなり九州なんとか学園に行けって言われて、『夏美』に連絡したとかなんとかって、わけわかんねーよ。
「ちょっと待てよ!九州行けって言われてもわかんねーよ!て言うか何で九州なんだよ!全部こた・・・「黙りな」
九條翔は、いつのまにか取り出した巨大な拳銃を俺の口に入れていた。
「吠えるな駄犬」
九條翔は、安全装置を外す。
「山犬風情が、主に噛みついてんじゃねえぞコラ」
ドスの効いた低い声と、威嚇するような鋭い眼光に、俺は恐れをなし、すぐに言いなりになった。