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新次元紀行  作者: 木戸攘夷
第1章 ローグラン
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(1)

 上がり過ぎた平均気温。強すぎる紫外線。乾いて荒れ果てた大地。失われた動植物。


 人類は電力供給でシステムという名の国家を維持している。

 人類の務めは電力供給が殆どだった。電力さえあれば概ね総てのことは可能だ。

 野菜は培養室で光を浴び、畜産は機械化され、工場は全自動で動き続ける。風や雨さえも電力を必要とした。

 つまり人類は異常気象と食料問題とエネルギー問題をあらかた克服した。


 かのように見えた。


 エネルギー効率が決して100%にならないように何かしらの綻びが生じることは避けられない。

 決してなくなる事のない国家間のいざこざ、そして貧困と汚染。未だに化石燃料を使い続ける軍隊。

 直径5mを超える情報ケーブルが世界中に張り巡らされ、何もかもが高度に情報化された。その気になれば世界中の人間と恋愛が出来る。

 紙幣が事実上廃止されたのは遠い昔。限られた保存区域のみで使用されている。


 人間は皆当然のようにIDで管理されていた。人は情報の総てを把握する。情報は総てに把握される。そんな世の中だ。


 風化合成樹脂の埃が舞い散る通りに人通りはない。強すぎる紫外線のせいで人は太陽を嫌った。

 金属という金属は街灯から信号機まで持ち去られ、相当の昔から機能していない。

 残っているのはかろうじて矩形を保つコンクリートと堆積した風化合成樹脂の微粒子。

 上がりすぎた平均気温。乾いて荒れ果てた大地。失われた動植物。人々が現実を見失い、放棄した現実。

 逃避されつつある現実が存在した。


 巨大都市チャネルローズから北へ約1,500km、ローグランと呼ばれるゴーストタウン。

 大地の凹みに落ち込むように数百のビルが集合していた。総てのガラスが砕け散ってすでに無くなっている。

 一番高いビルでさえ、上から半分ぐらいしか地上に出ていなかった。

 犯罪者、自由人、貧乏人、思想家がローグランに住みつき、政府からも半ば見放されていた。


 昔、このローグランは地上に出ていた。

 100万程の人が住む健全な町だった。数十年前に起こった大地震で町と旧式の原発を支える強固な岩盤ごと深い所では数十メートル陥没してしまった。

 幸い原発はセーフダウンしたものの、町は壊滅的な打撃を受ける。

 町はだだっ広い荒野に囲まれ、おまけに数年に一度、ローグランを湖に変えるほどの洪水が襲う。

 そして政府は完璧にローグランを見放した。


 ここは現実の世界。荒廃した未来の世界。そして23世紀。


 こんなに住みにくくなった世の中でも、一生懸命生きている住人がいる。

 ドロップアウトしている人々をアウトローと言うならばこの町、ローグランに住む人々は全てがアウトロー。


 アウトローの中でもハブノッツと言われるIDを持たない人々、世界の何処かで密に行われる強制付与=浄化作戦から逃れた人も極稀に存在する。

 浄化作戦では「Death or Grant」世界の網羅性に安心し、網羅されないものは危険分子とみなされる。

 危険分子の処分方法は誰も知らない。

 そしてハブノッツは日陰と裏道を好みコミュニケーションを避け、ゴーストタウンに潜む。

 そして決して自らそれを名乗りはしない。

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