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新次元紀行  作者: 木戸攘夷
第11章 三千世界コアストレージ
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(1)

 それはおよそ2年前に遡る。


 やたら乾燥した地下書庫を想像してもらえばいい。広大な多層平面書庫。

 多層とはいえ天井が見えるわけではない。


 天井は果てしなく突き抜けている。目を凝らせば星が見えそうなほどに。

 フロア自体が薄く発光している。


 棚状のスペースには金属の直方体が規則正しく並べられている。これは原子レベルで切りそろえられた金属。

 角に触れればダイヤモンドナイフ以上によく切れる。直方体同士がうっかり触れてしまえばもう二度と離れることは無い。

 盗み出そうものなら外気に触れたとたん酸化を始める。爆発するかのように燃え始める。


 人が直接触れても同じだ。肌に直接触れたとたん肌と結合し、肌の水分を糧に高温の熱を発し始めだろう。

 連鎖の反応で人体程度であれば5分もすれば燃え尽きる。


 金属の直方体には膨大な量のレイヤ情報が書き込まれていた。


 書庫の奥行きは肉眼では確認できない。人にして無限の広さ。

 情報を量子配列として記録する直方体が保管される空間。それを人間の解像度に合わせた電子空間。

 管理者の仮想インターフェイス空間。


 果てしない空間。これが別名冥府と呼ばれる三千世界のコアストレージである。


 そこにトルクはドナウと歩いていた。


 トルクの飼育するエージェントがこの空間で数時間前に全滅した。

 エージェント”ラプラタ”。銀色のアロワナ。ラプラタという名のローグランメインフレームの分身達。


 コアストレージの情報再配列に切り刻まれたことが直接の原因だった。


 情報と情報は見えない。触れない赤い糸で全て結ばれている。情報が錯綜したり、混乱し始めると情報再配列が発動する。情報の赤い糸が実体化し高速で収縮、再配置し始める。


 それにラプラタは巻き込まれた。

 何かがこのフロアに侵入しセキュリティに引っかかった。情報を混乱させたトリガーが存在したのだ。

 ラプラタは危険を感じると情報の中に退避する。退避することさえ出来ずに切り刻まれている。


 (再配置情報のタイムスタンプとラプラタのエラ裏のログが一致する。やっぱり数時間前の再配置でやられてる)

 「上のフロアに移ろう。ドナウ」

 「にゃ~あ」

 「心配しなくても大丈夫。セキュリティに引っ掛かるくらいだ。侵入者もやられてる」

 (でもなぜラプラタは危険を回避できなかったのか?)


 トルクの頭は疑問符でいっぱいになった。

 (最も早く発動すタイミングはコンマ数秒。発動条件は衝撃。爆発とか衝突とか。それならラプラタが回避できなかったのもうなずける)


 トルクは果てしない書架を見やりながら何かに思い当たった。

(・・・まさかラプラタを駆除するためにわざと侵入者が発動させた?・・・ならばドナウの心配ももっともだ。侵入者がまだ生きていて同じ目に遭う可能性がある・・・)

    

 上階もその上も同じだった。無惨に切り刻まれたラプラタ。そしてラプラタのみ。

 原因者の痕跡は見つからない。

 (だめだ。みんなやられちまってる)


 「帰ろうドナウ。ぐずぐずしてると番犬に出くわしちまう」

 フロアに数十匹の凶暴な番犬がいる。

 ケルベロスともフェンリルとも云われ、出会ったものは生きては帰れないと噂される。

 まあ、フロアが広すぎるために滅多に出くわすことはないが。

 「にゃ、にゃっ」

 ドナウが正面を向き身構える。


 「えっ、どうした。びっくりさせるな。何もないじゃないか」

 「にゃっ」

 ドナウが今度は後ろを見る。

 トルクが突然の悪寒を感じる。なにかこう触ってはいけないものに触れた後に感じる違和感。肌の先端から未知のものが伝わって来るような・・・

 トルクはゆっくりと振り返る。


 そこには実体のない陰だけが通り過ぎていった後だった。人の、いや、人ではない。頭に角のついた陰が書架と書架の間の通路をゆっくりと通り過ぎていく。


 トルクとドナウにはそれを見送ることしか出来なかった。

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