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新次元紀行  作者: 木戸攘夷
第10章 二世紀前の動画チップ
36/42

(1)

 ファントンへ出発する一日前に遡る。


 真夜中にローグランの端末にかじりつくトルク。


 「奴はとんでもねぇバケモンさ。ファントンの63番街裏路地の喫茶店で人間をミキサーにかけてボロネーゼとかスムージーにして振舞ってるって噂だ」

 「ホントかよ。人の噂はとかく誇張されがちだ」

 「あんたらと違って俺たちゃ昔ながらの友情ネットワークで拾ってるからな。まあ、噂って言っても居場所はほぼ間違いない」


 「すごいなそりゃ。イメージとかは取引されてないのか」

 「イメージなんてあるわきゃねえ。やつのイメージがあればむしろ買いたいぐらいだ」

 情報屋のブルガリは劇画調アニメーションで簡単に答えた。


 ブルガリはモニタの中で変に緊張感のあるジャグリングを繰り返す。

 「それはそうと喫茶店でミキサーにかけて?もっとわかり易く表現してくれないかなぁ。殺してるとか、食べてるとか、調理してるとか」

 「それはすまない。つい表現がソウルフルになっちまう。まあ、間違いない。あんなにトレースしやすい殺し屋も珍しい。目立つからな」


 「目立つ?派手なのか」

 「頭から角が生えてるって噂だ」

 「それって俺が教えた情報だよな」

 「だったかなあ。覚えちゃいねえ。それでも奴を始末しようとするやつはいない。ヤツの角を見たやつで生き残った人はいないって話だ。それほどクレイジーだってことさ」


 「分かった、分かった。答えになっちゃないがな。それからコーラマバードの件はどうなった」

 「おいおいその名前はこの前禁句だって言ったよな。盗聴でもされてりゃあどうなっても知らないぜ。ローグランだろ、そこ」


 「どうなるんだよ」

 「そりゃよう・・・消されるんじゃないのか・・・」

 劇画調アニメーションが取りこぼしたククリナイフがフロアに突き刺さる。アニメーションも自動でククリナイフをクローズアップした。

 劇画調ブルガリの頬から汗が流れ落ちて柄に当る。


 「なるほどな・・・」

 「ちょ、ちょっと待て、なるほどってどういう意味だよ。今、俺がビビってるって思ったな。思ったんだろ」

 「いや、なんでアニメがジャグリングしてるかわかったよ」

 視線の動きで動揺を察知されないために他ならない。

 交渉や話し合いは動揺を気取られたら負けだ。


 「シット!ローグランなんかと繋ぐんじゃなかった。」

 ブルガリはトルクの冷ややかな言葉に言い訳する気も失せてしまった。


 「実際マスターはどうなんだよ」トルクはマスターと言い直す。

 「まあ、マスターは無理だ。あんなの見つかる訳がねぇ」

 ブルガリが話を引き戻す。

 「やっぱりかそうか。だと思ったよ」


 「国家機密より厄介さ。奴らのセキュリティはハンパねぇって話だ」

 「セキュリティがあるってことは存在しているってことだな」

 「だが核心に少しでも近づいた半端な奴らは漏れなく消されちまうって話しさ」


 「だいぶ尾ひれがついてないか。地下ノートとか歴史書にはしっかり名前が書いてある」

 「テキストだけだろ。イメージがあるならむしろ高く買うぜ。マスターが何人いるが知らねーが、アドレスとイメージが一致してるのはマスターアルナンだけさ」

 「そりゃそうだ。国連本部には必ずいるだろうよ」


 「生ける伝説だしな。そのレベルはもう肉体はなくなって生体液の中で脳みそだけがワイヤリングされてるってもっぱらの噂だ」


 「わかったよ。まあいい。それからそのジャグリングは誰から習ったんだ」

 「なんかシュールでイカスだろ」

 「いや、下手すぎて見てられない。見てるこっちの方が緊張するよ」

 「シット、そりゃないぜ。わざわざ二世紀前の動画チップを取り寄せたってのによ」


 「もっと別なパフォーマンスにしたらどうだ。サウンドオンリーじゃあだめなのか」

 「それじゃあ俺様のイズムが伝わらないねぇ。情報の欠落ってやつさ。実写はもっと上手だ。見せられないのが残念だ」


 商売柄いろいろな人間に狙われる。見せられるわけがなかった。

 つまりそれがブルガリのイズム(主義)だってことらしい。


 ブルガリは殺し屋に直に会いに行くのは正気じゃないと言ってモニタ越しに笑って通信を切断した。

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