(6)
無防備なトルクの背後でサルナは考える。
ぶかぶかの手術着の肩から背中にかけて痩せた体のラインが浮き出ている。
「一般の端末じゃ無理だ。ローグランに接続して解析させた。あそこには色々なツールが揃ってる」
「でもどうするの。手がかりがまったく無いんでしょ」
「昔のサーチャーと言えば、専門用語のシノニムを操って目的の情報を検索するオペレータのことを言ったけど、今のサーチャーは違う。今のサーチャーはネットワークから人や情報を探す人を言うのさ」
「真夜中の公共放送でよく見る刑事みたいなものかしら?」
「サーチャー仕事には少しコツがあるんだ。万能じゃないしな。ネットワークの検索アルゴリズムに引っかかるデータなんてたかが知れてる」
「じゃあ足で探すのね。公共放送でもベテランが言ってたわ。ホシは足で上げるってね」
「なんか違う感じもするけど・・・間違ってないだろうな。公共放送なんて見ないしな・・・まあいいや」
「でも手がかりが・・・」
「手がかりはある。経験勝負のサーチャー稼業なめるなよ」
「なんか素敵ね」
笑みを湛えたサルナの頬がいっそうトルクに近づく。
「だから寄るなって。サルバドールさ。俺を殺そうとしたなら俺が生きていることを知れば再度殺しにくる。きっと手がかりが見つかるはずだ。グルのコーラマバードがもし俺を殺そうとしているならば殺し屋から辿っていける。だから餌として俺を選んだんだろ」
「なるほど・・・餌・・・かどうかは分からないけど方法はそれしかきっと無いわね」
「殺し屋を見つけて殺し屋に聞くさ。首謀者の居所を」
「上手くいくかしら」
「説得するよ。平和的解決を図ろうってね。叩きのめして縛り上げた後にハグするよ」
「呆れた。ひとつ聞いていい・・・・・・かしら」
「もうあなたはワクチンも投与されたし、コーラマバードを探す必然も無くなったわ。危険な目に遭うかもしれない」
サルナは先程とは一転して真面目な顔を作った。
「・・・」トルクはサルナの真意が測りかねていた。
「逃げない・・・の」
サルナは気にかかっていたことを口にした。
これを確認せずにトルクを巻き込めない。犯罪者といえど一応一般人。
「あっ、そっか、それもそうだな・・・。そっか、そっか、そういう手もあるなあ」
「・・・」サルナは次の句を継げないでいた。
「・・・でも約束したしな。殺し屋に仕返しもしたいしな。逃げてお尋ね者を続けるのも悪くないんだが・・・人間屈辱が一番のスタミナなんだろ」
「いいのね・・・ホントに・・・いいのね」
「そもそも逃がす気あるのかよ。逃がしといて後ろかズドンってな。ホントはそれが目的だったりして」
トルクは右手で人差し指と親指を立ててこめかみにあてた。
「そっちの方が悩まなくていいから楽かもね」
「間違えてやりそうだから怖いよな。まあいい、やるよ。そのかわり無罪放免とか忘れるなよ」
「ありがとう。分かってるわ。何か持っていくものはある?」
(この人は得体の知れない口約束の為に、危険な目にあうかもしれないのに、それに身を投じようとしている・・・)
「そうだな、タスクのスタートは木の棒とヒーリングアイテムって決めてるんだ」
「ふざけないでよ。どこの洞窟に潜るつもりよ。ダンジョンなんかには行かないんでしょ。多分だけど」
当たらずとも遠からずであったことをこの時思いもしなかった。そしてその時にも二人は思い出しもしなかった。




