(1)
「いらっしゃいミス・東郷」
ケリー長官の執務室はだだっ広い。樹齢100年相当の蔦もケリー長官の執務室のガラスを避けるように明るかった。
壁には豪華な印象派が飾られ、サイドテーブルには大きな花瓶に赤いバラが飾られている。
ロボットのような女性秘書は顔を上げもしない。
「何でしょう」
サルナはネコの話を蒸し返されたら困ると思って内心びくびくしていた。
「あなたに渡しておきたいものがあるわ。説明しづらいものばかりね。ほんと嫌んなっちゃうわ。殺人許可書よ」
意外とさらりときっぱりと言い切るケリー長官。
「さっ、さつじん・・・そんなもの何に使うんですか」
差し出された極薄の紙切れ。空に放てば文字が空を飛ばんばかり。
薔薇の透かし入りの殺人許可書には大統領のサインとトルクの名前が書き込まれている。
タイトルを含めサイン以外は総て朱字になっていた。更に執行予定者にはサルナ東郷の名前が・・・・。
「これからあなたにはトルクコンカラットと行動を共にしてもらうわ。ご存知のとおり彼は危険なハッカーよ。まあ、これはおまけだけれど著名なコラージュ作家として複数のアイドルやら女優から被疑者不詳の被害届けが出てるわね」
「被疑者不詳では・・・それは本当にトルクがやった・・・ので・・・しょうか・・・」
大体の案件はかなり有名なゴシップとしてサルナの頭に入っている。
だがそれが先ほどまで一緒にいたトルクの仕業だと言われると・・・サルナには確かにそんな気が・・・・・・だんだんしてきた。
「あら、余談だけどあの世界的コメディアンはゴシップの件でだいぶ恨んでいるようよ。犯人探しに多額の懸賞もかけているわ」ペーパーを翳しながらケリー長官は続けた。
「もしかしてあのコメディアンのことですか?」
「そうよ、まあ、悪い噂が絶えない人ね。だいぶやりたい放題だったらしいからいい気味よ」
「なるほど・・・それで殺人許可書ですか・・・深刻ですね」
「そうなの。これ以上罪のないコメディアンを・・・ってそんなわけないでしょ。あなたの天然さは相変わらずね」
「すいません」
「まあ、ごめんなさい、だいぶ話が反れたわね。一番困るのはマスターに危害を加えられること。もっともトルクコンカラットが何か悪戯したってかなりのスキルがなければ一般人には判らないでしょうけれどね」
「それは矛盾していませんか。助けたり、危害を加えたり・・・それに私も一般人ですし・・・」
「とにかく見つけることよ」
「コーラマバードはマスターとはいえ行おうとしていることはテロリズムです。理由はわかりませんが・・・。万が一この世界に何かあれば暮らしている人達はみんな死んでしまいます。なぜコーラマバードじゃなくてトルクコンカラットの殺人許可書なんでしょうか」
「あんまりコーラマバードを連呼しないでちょうだい。ちょっと緊張しちゃうのよね」
「すいません」
「別にマスターをどうしろとは言っていないわ。探してくれと言っただけよ。そもそもマスターはあなたにどうこうできるような人物じゃないわ。それに殺人命令書じゃないのよ」
「殺してもいいし殺さなくてもいいしということ・・・」




