(2)
チェアマンと呼ばれる、男?、なにせトルクは見たこともないのだから。
トルクにアンドジョン経由でよく依頼を寄こす。
難易度の低い仕事が多いが着手払いの約束で何となく胡散臭い。だいたいが人や物探しだがその難易度の割りに報酬が良すぎるのだ。
そもそも探偵でもしてなければ世の中にそんなに探してほしい人や物ががあるのも怪しかった。
だからトルクはその依頼を一度も受けたことが無かった。
「誰でもいいならとっくに見つけてるわね。チェアマンがあなたに言葉を残してるわ」
「それはなんなんだ」
「『世界は作る人ではなくて使う人に主導権がある。使える人間が発展させる可能性を持っている。それがトルクコンカラットだ』ということよ」
「意味不明だな。何言ってるかさっぱりだ。全く入ってこない。響きもしなきゃ染みもしやしない」
「あら、散々ね。確かに意味わからいけど何となく意味深なお言葉じゃない。チェアマンは優秀な人材の今の境遇を愁いてらっしゃるようだったわ。だから仕事と称してあなたに生活費を送っていたんじゃなくって」
「残念だが仕事なんて受けたこともない。そもそも優秀な人材とかじゃないし知り合いとかじゃないし。本当に唯の人探しなのか?」
トルクの頭には激しくクエスチョンマークが立ち上がっていた。
「そうよ。唯の人探し。ただし相手が唯の人じゃないけれど。期限は3週間、必要なもので可能なものは大体こちらが揃えるわ」
「で、肝心なそいつの名前は」
「いいたくないわ。ほんと、いいたくない。どうしても私がその名前を言わなくちゃならないのかしら。困ったわね。後で大統領から電話してもらおうかしら。ミス・東郷、言ってくれないかしら。おほほほほ」
「私は聞いていません。ふざけないでください」サルナが強く否定する。
「しょうがないわね。コーラマバード・・・、コーラマバードよ」
ケリー長官はその名を口にするのも躊躇していたようだった。
トルクは心の中で唸っていた。
(確かに普通の人じゃない。ワークスやヘリオットと並ぶ近代科学の祖じゃないか)
「そっ、その人って生きてるんですか。歴史上の偉人じゃない・・ですか・・・」サルナが俯きながら呟いた。
「そうよ、死んだ事実は確認されていないわ。IT革命から2世紀以上経っているから少なく見積もっても200歳以上になるわね」
「たしか・・・パラダイムルールの・・・」
「だめよ、ミス・東郷。それを口に出しては重大な4条違反よ」
ケリー長官はサルナの口元に人差し指を立てる。
「そうですね、失礼しました」
「コーラマバードから1,000時間後にワームホールを起動する予告親書が届いた。およそ6週間ね。彼の自著で大統領に。目的は解らない」
「ワームホールって何ですか」
「神様が作ったこの世界を滅ぼす呪文よ」
ケリー長官は天井の一点を見つめて発した。なるべく感情を排除しようと務めていることだけは感じ取れる。
「自爆装置みたいなものさ。この世界を創った14人の神様が世界の暴走を恐れて自分たちの手でこの世を消滅できように仕組んだのさ。地下ノートじゃ有名な都市伝説だぜ。そんなのホントに信じてるのか」トルクが答える。
「さすがね、ミスターコンカラット。ワームホールの都市伝説は脈々と息づいているわ。この世界でね」
「まるで異世界人のセリフだな。地下ノートに毒されすぎだぜ」
「あら、意外。調子狂うわね。信じちゃいけないのかしら。さっぱりとした堅実派なのね」
「神様なんているわけがない。いるのは人間だけだ」
「・・・だいぶ興味深いけれど。まあ、デマの流布に加担するのは長官としては立場上問題あるでしょうけどね。ここだけのお話よ。ほほほほほ」
「200歳の都市伝説老人が生きていると・・・なんだか・・・足とか・・そうそう、足とか速いって噂の・・・」
サルナがだいぶ混乱している。無理もない。
「そうなのよ、夜な夜なハイウェイで並走して走るのよ・・・ってそういうことじゃないわ。何世紀前の都市伝説よ。っていうか怪談よね。それ」
「改ざん不能なコーラマバードのタイムスタンプ付きでね。だから普通に考えればまだ生きてるってことになるわね」
「なるほど」と言いつつトルクには何かが引っかかっているようだ。
「そういうことで他言は無用よ。拷問されても言っては駄目よ。ほほほほほ」




