(2)
「意外と素直じゃない。直ぐに入れてくれるなんて」
サルナの前を歩いていた四毛猫は床に仰向けになるトルクの顔を跨ぐと配管の隙間から何処かへ消えてしまった。
トルクは動けなくなっていたし。
「先回はいきなり来たからだろ。誰も拒んじゃいない。壁際でドナウを呼んでもらえばいいシステムなんだよ」
(おおお~っ)見上げると仁王立ちのサルナの迷彩スカートの中の世界だった。さすがに中は迷彩ではなかった。思わず目を逸らす。
「ドナウって何よ。」
「あんたを案内した四毛猫だよ。それより起こしてくれ。そのベットに」
腰を屈めてサルナはトルクを覗き込む。
サルナの長く綺麗で真直ぐな髪がトルクに掛かる。
「あなた初めて見た時からちょっと気になってたけれど近くでよく見るとやっぱりかわいい顔してるわね」
「ふ、ふざけるな」
「食べちゃいたいわね」
「たべ・・たべ・・・・・」トルクの声は声にならない。
若干アワも吹き気味で・・・
サルナは貧弱なトルクを簡単に抱え挙げる。
思ったよりサルナの腕は柔らかいと感じた。もう少し鍛え上げた硬い腕を想像していたのだが。
腕に感じたサルナの胸も見た目より柔らかく感じる。ホコリまみれのこの街では滅多に嗅ぐことができないいい匂い。
配管に囲まれたベットに横になると少し楽になった。
サルナは辺りをキョロキョロと見渡していた。
「今日は変な仕掛けはないの」
勝ち誇ったようにサルナはまた仁王立ちに戻った。
「別に仕掛けたわけじゃない。勝手に不幸な事故にあっただけだ」
「不幸な事故?あれが?見解の相違かしら。まあいいわ。この場所は大丈夫?」
「あれはメインフレームバックアップ用モジュールの起動電源なんだ。数日に1回しか起動しない」(情けない・・・。声に力が入らない)
「今日はねあなたを拘束に来たんだけどちょっと状況が変わったのよ。急に超法規取引の要請が入ったの。簡単に言うと罪を軽減する変わりに内務省で仕事しないかってこと。どうもそもそも取引が狙いだったらしいんだけど。まあ罪は罪だから仕方ないわね」
「何で先回言わなかったんだよ」
「だ・か・ら状況が変わったのよ。先回踏み込むつもりはなかったの。調査よ、調査に来たのよ」
「何か胡散臭い」
「強硬部隊でもないしね。私がドジっちゃって此処に入っちゃったのよね。だから知らされてなかったの。へへっ。」
(へへって、あんた!。可哀想なのは捜査官男子ABCだ!。一人ぐらい精神に異状をきたしたかもしれないぜ)
「仕事するとどうなるんだよ」
「8年9ヶ月の刑期が無罪放免になるわ」
「って言うか無理。刑期ちょっと増えてないか」
「ん~っていうか罪状増えたというか・・・まあ・・・まあ、いいわ。ごめんね~ちょっとした計算違い。細かいことは気にしないで」
「はあ、何するの。労働なんてできっこない。する気もない。こんな体で働けるわけがない。8年9ヶ月拘束されるなんて。いっそ本当に死刑にしてくれ。痛くない感じでたのむ」
「内務省の取引に重労働なんてあるわけないじゃない。何をするかは今は言えないわ。機密事項だからね。取引が決まってからよ。取引内容を知ってから断るとプラス5年だから」
「嫌です。死刑にしてください。お願いだから」
「そんなに頑なに拒まなくてもいいでしょ。無罪放免の他にオプションもつくのよ。大概の望みなら叶うわ」
「一捜査官にそんな権限あるわけないだろ」
「それがね、あ・る・の。私の仕事はこう見えて意外と大らかなのよ。お金、お金、お金でしょ。せっせと高額な画像集めてるからお金が必要よね」
(ケチなハッカー雇うのに金で片つけろって言われたんだろ。想像できるね)




