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新次元紀行  作者: 木戸攘夷
第2章 サルナ来訪
14/37

(5)

 ビルにはトルク以外の人間は住んでいない。

 たまにドブネズミが迷い込むけど回遊センサーでほとんど駆除される。

 ゴキブリでさえキッチンまでたどり着けないようになっている。訪ねてくる人もほとんどいない。


 回遊センサーなんて大げさではあるけれど、生体に反応する放電装置、超音波発生装置、清掃マシンなんかがうろうろしている。

 壁に沿って3次元に動き回る二つで一対のセンサーロボットだ。10セットぐらい動き回っている。

 補足すると取り囲んで攻撃するプログラムだ。


 電力は町に向かうメインケーブルから若干拝借している。

 ビルの近くを約1千万人が住む巨大都市チャネルローズへのメインケーブルが通っている。そこからコンマ数パーセントの電力をいただいているだけだ。


 「一人で乗り込んできたわけじゃないだろ。仲間はどうしたんだよ」

 「あら、ほんと?誰も居ない?」

 (あきれた、今頃気づいたのかよ)

 「ここに先に来たんじゃないの?まさかあなた・・・過剰な接待を・・・」

 「過剰な接待って何だよそれ、大丈夫だよ多分死んじゃいない。動けない、いや、動けなくなっていると思うけど」

 トルクはドブネズミかと思った。彼女の連れだったに違いない。


 「でも観念しなさい。5年は身動き取れなくなるから」

 「5年・・・、5年もどうなるんだよ」

 「精神の自由は保障されるけど身体の自由は一切保障されないわ」

 「なんだかわからないけど・・・5年も・・・耐えられる人はいるのかよ」

 「だいたいそのあと改心して人助けに一生捧げる人生ね」

 「うそだろ・・・5年も身動き取れないのは困る。いっそ死刑にしてくれ」

 「死っ、死刑。死刑になんかなるわけ無いじゃない。死刑になる人間は殺人を犯した人だけよ」


 生きるも死ぬも今のトルクにはあまり興味がなかった。現実と非現実がミックスされたこの世界。やりたいことはほぼやった。

 ゴーストタウンに住むようになったここ数年で、半世紀ほど生きている気がする。

 それほどこのゴーストタウンは時の流れが緩やかだった。

 変な病気にもかかってしまった。

 ウィルス性の病気でつい最近その存在が認知されたとかされないとか。

 奥歯の大部分が抜け落ち、骨が弱くなり真直ぐに歩くこともままならない。これからの症状に興味がないわけではないが、死に対する準備は自分なりにできているつもりだ。


 結局スーツ姿で窮屈そうに小さな窓から出ていくサルナ。

 体をねじったりすごい恰好をしたり体のパーツを小さめの窓に無理やりねじり込むサルナ。

 トルクは手品のアシスタントがするような様のサルナについて腕を組みながら感慨深く眺めていた。

 (うーむ。なんだかいいもの見れてるような気がする・・・)


 そして暫くするとやり遂げたかのように窓から逆さまに顔を出した。

 「ふう、やっと自力で脱出成功ね。じゃあね。自力で脱出したから出なおしてくるわ。自力でね。それから3人のことよろしくね。酷いことしたら刑期延びるからね。じゃ、そう云うことで」

 手を振りながらサルナは去っていく。ひたすら自力を強調したあとで。

 (いったい窓の外ではどんな態勢してるんだよ)


 そしてバラバラとヘリの音が聞こえた。嵐のように、そしてかなり強引にやって来たサルナは台風のように去っていった。

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