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新次元紀行  作者: 木戸攘夷
第2章 サルナ来訪
10/35

(1)

 グレーのスーツ姿、少し大柄な女と黒服3人は入り口の無いコンクリートのビルの前で一時思案に暮れていた。

 気の短いスーツを着た女は黒服の制止も聞かずペンシルドリルを壁に向けると小さな穴を4箇所雑に空けた。

 貫通したその穴の中へ鉛筆ほどの詰め物を順にしていく。

 それは緩速膨張破砕機。手に持ったブックタブをタッチすると鈍い小さな音とともに穴から穴へきれいに亀裂が伸びていく。

 制止する3人の黒服を気に止める様子もなく壁を短いスカートの足で蹴り倒すと女は侵入していった。

 黒服も慌ててそれに続く。


 「トルクコンカラット。あなたを拘束します。動かないで」

 そう言ってドアを勢い良く開けて入ってきたのはスーツ姿の女だった。

 「ちょっと待て!」

 (ちょっと待て!、コラージュを隠すから。ちょっと待て。それにしてもおかしい。普通には入ってこれない場所なのに。そういえばさっき回遊センサーがちょっと反応したようだったがドブネズミではなかったのか)


 このビルの主、そうトルクは小柄で不健康に痩せていた。

 だらしないジャージ、ぶかぶかの白いロングTシャツで振り返る。

 ビンテージプラズマのアロワナに餌をやりながら別のモニタで最近一番の収入源であるコラージュを編集中だった。


 いつの世界もやることはあまり変わらない。

 規制されたり禁止されたり取り締まられたり。

 最近はコラージュ規制が過去類を見ないほど厳しくなった。

 ネットワーク世界ではトラフィックが仔細に監視され、リアルに少しのフェイクが混ざると過敏に反応を示す。


 だがおかげで高値で販売できる。

 そう、トルクの作るコラージュはリアルでありシュールでありエクセレントだった。

 モダニストが立ち上がって拍手をし、時にニッチなフェティシズムを満足させ、マエストロの目を欺く。

 バイヤーがわざわざゴーストタウンにまで買い付けに来る。政府の高官にもファンがいるという話だ。

 だったら取り締まらなければいいのに。


 コラージュ技術はムービーコラージュの古典手法からだいぶ進歩している。

 発祥はアイコラと言われているが、もうアイコラの語源は民族学者ぐらいしか知らないしアイドルも出てこない。

 そこから技術は偉大な発展を遂げた。

 一時期フェイク動画なんて云って人工知能に作らせる動画も一時代を築いたがコラージュ動画とフェイク動画は巧の技と工場生産くらいに違う。

 そして唯のコラージュとなった。

 まずプレーンムービーと区別がつかない。だから必ずコラージュであることのサインを素人には判らないようにムービーに入れる。それは作家に残された僅かな良心とプライド。

 おまけに被害をこうむるマテリアル達と取り締まる人への配慮。

 (つまり捕まえてみなってことさ!)

 この前の仕事はトルクには愉快で堪らなかった。

 バイヤーはエレクトロマネーの大物でマテリアルは大統領と女性秘書官。エイプリルフールに二人が宮殿の由緒正しいベットで絡み合うゴシップが大々的に発信された。後光まで射している。


 重要なフォトやムービーは改ざん防止の仕組みが出来上がっているから簡単には改ざんできない。

 だが政府の情報分析官はとうとう偽造の判断をすることができなかった。

 (それほど出来がいいってことさ!)

 大統領はセックス依存症の病院から精神安定剤を点滴されつつ執務をすることになったとういう噂が流れている。

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