ギンガ・リョウ
「社員がこんな事になって、社長の俺も大打撃だし」
「OK、OK。ワタシ、しっかり誠実に対応します。猫を轢かなくてよかった。この可愛いレディも無事でよかった……」
「しかし、なんでアラブの王子さまが、こんな場所に?」
リョウが質問をしたので、黒服が動いたがファイサルが片手で遮る。
「有名な、ジャパニーズサイキッカー探してました。リョウ・ギンガ……というすごい人デス」
「リョウギンガ? 人の名前ですか?」
愛美が『なんじゃそりゃ?』と首をかしげる。
しかし、リョウはファイサルを見つめる。
「……何故、その名前を?」
「お金出せば、なんでも情報買えます。日本で最強のギンガ家でも彼は最強の力をモツ、サイキッカー。でも今ユクエフメイ」
そこで愛美は『ギンガ・リョウ』という人物だという事に気がつく。
「サイキッカーじゃない、霊媒除霊士だ」
「オー、それね。でも今、行方フメイね。リョウ・ギンガ」
「……そいつに何を頼むつもりだ? 金はあるのかい?」
「父を狙った側近が、最後の苦し紛れに息子の私を呪って死にました。それから私、毎日悪夢見る。呪いにコロサレル……助けてほしい……ワタシが死ぬ。そしたら国にエイキョウでる。国民いっぱいシヌ。戦争起きるカモしれない」
ファイサルの顔色が悪くなったのを黒服が見抜き、ソファへと座らせた。
「スミマセン……こんな話サレテも困りますネ……アナタ達、何も関係ない」
「ねぇ……リョウ、霊媒除霊士のギンガリョウって……まさか」
思わず聞いてしまう。
最強の力を持つ……?
でも確かにリョウの力は本物だった。
しばらくの沈黙のあと、リョウが口を開く。
「……あぁ。ギンガリョウとは……俺の事だ」
黒服達がざわつく。
「え? アナタが?」
「君、適当な嘘をつくと国際問題になるぞ」
「……あんたら、ギンガリョウを証明する情報だとか持ってるのかよ?」
「ファイサル様、銀我家の者は背中に呪術紋の入れ墨があるそうです。銀我了にもあるはず……独自のルートで、この図を……」
何かの紙を、黒服が王子に見せた。
「オー……背中を見せてもらえマスか?」
「リョウ……?」
「あぁ……いいだろ」
リョウがワイシャツを脱いでいく。
「ひゃ!」
鍛えられたリョウの胸元に、一瞬驚く。
お互い気楽に、事務所に寝泊まりなんてしていて、リョウが男という事をすっかり忘れていたというか……。
でも今、さっきのお姫様だっこに加えて、逞しい男の身体を見てしまった。
そして……背中には、見ても素人には意味のわからない……だが、迫力のある紋章が背中に描かれていた。
その場にいた誰もが驚いた。
図をもっていた黒服のまわりに、数人が集まり、リョウの背中を見つめる。
「まさに彼が銀我了本人だと推測されます。しかし、こんな偶然がありますか? 何か仕組まれた罠かもしれません」
疑惑の瞳が、愛美とリョウを見る。
「えっ!? 私達が何か仕組んだと思ってるんですか!? ち、違います!」
「別に俺は、あんたが死んだら国民が死ぬとか戦争が起きると聞いたから伝えたまでの事。罠だと? 依頼しないなら、これでサヨナラだ。愛美、帰るぞ」
「待ってクダサイ! あなたの言う通り! ワタシが死んだら国民が! どうか助けてクダサイ! これは運命デス!」
「依頼にはもちろん金が必要だぞ?」
「金なら……いくらデモ……!!」
「オッケーでは依頼を受けよう」
準備が必要だから、という事で二人は一旦事務所に送られた。
少し綺麗になった事務所だが、リョウが段ボールやら棚のものをひっくり返してスーツケースに入れていく。
「お前は留守番な。検査は大丈夫だったけど、ケツ打ったのは本当だし、家で休んでろ」
「えっ!? でも……」
確かに打ち身として湿布と痛み止めはもらったが……大したことはないので一緒に行くつもりだった。
「ファイサルさんに、好き好きモードしなくていいの?」
「しなくていい」
「そうなの? なんで?」
好き好きモードなんかしたら国際問題に発展するかもしれない。
わかってはいるのだが、なんとなく聞いてみた。
「なんかムカツク」
「えっ……」
「なんでもねーよ」
色々と準備をしたリョウが立ち上がる。
ヨレヨレシャツの下の逞しい身体を思い出してしまう。
ジワッと呪いが自分から染み出すのを感じて、慌てて食べ散らかしたカップ麺のゴミを見る。
「じゃあ、行ってくるから」
「う、うん……行ってらっしゃい……」
「留守中は頼む」
「うん……あの気を付けてね?」
「あたりめーだろ。バーロー。依頼きたらしっかり相手しておけよ」
もちろん依頼なんか一件も来なかった。




