二人で働く日々・2
「うるさいお嬢さんですねぇ!? まぁ……清掃代は、お前の布団でペイだ」
「えー!? ここで寝る布団買ってくれるの!? そろそろ欲しいと思ってた!」
「モンキホーレの一番安いせんべい布団な」
「いやなんだけど!?」
愛美は一人っ子だったが、兄弟がいたらこんな感じ? というような色気もなにもない関係。
百均に行った帰りに、激安量販店で布団やスウェットなども購入した。
その後、ゲームコーナーを通り過ぎる。
「三日後に発売する『ラストラストデイ』お前もやるか?」
「えっ……予約できたの!? やりたい! やりたい!」
「よし!! じゃあ、お前の分のリモコンも買うから、今日こそデラックスプランに変更してみせろよ!!」
「了解!! 私の実力を見せてやるわ!!」
とは言ったものの……。
今回の依頼は、新居なのに出る幽霊。
依頼主は、子どももいる夫婦。
妻や子どもを愛している夫に『好き好きビーム』は送れない。
それでもリョウはしっかりと除霊した。
新居なのに出た幽霊の正体は、伐採された夾竹桃だった。
深く突き止めると、はるか昔にそこで行き倒れた人の血を吸った夾竹桃が無念の念を抱いて変異し……というものらしい。
人間+植物。
何人もの霊能者の頼んだが、誰も解決できなかったようだ。
複雑に入り組んだ問題も、リョウはいつも眠たそうな目を見開いて解決してしまう。
「今日も報酬は一万か……。布団とスウェットとリモコンで赤字だな……」
「布団……」
「まぁ必要経費だ」
夫婦が泣きながら御礼を言って、封筒に入った札束を寄越そうとしたのを愛美は見ていた。
だけど何人もの霊能者に騙され、金を巻き上げられていた夫婦。
幼い子どもがお腹を空かせた素振りを見せたので、リョウが一万円だけ引き抜いて封筒を返したのを見た。
「……今日は薬局の安ビールだな……あと、冷凍唐揚げ」
安い居酒屋に行くのもキツイ状況。
宅飲み決定。
「せっかくリモコンは買ったんだし……あ! 私、格ゲーのギルトギアやりたいんだけど……持ってる?」
「持ってるに決まってんだろ。俺の世界レベル、プラチナランク」
「はぁ!? まじで!? 社長すごい!!」
給料は実質、ご飯代。
自分の家の家賃もあるし、これからどうなるのか……といえば待っているのは金欠地獄。
でも、愛美は文句も言うのも忘れて格ゲープラチナ級の腕を見るのが楽しみで仕方なかった。
だがしかし、リョウのプラチナランクは嘘だった。
「やっぱクズ野郎!! なーにがプラチナよ! めちゃくちゃヘタじゃん!」
「なんだよ!! ちょっと見栄張っただけでしょーが!?」
「尊敬して損した! 私と対戦して! 負けたらコンビニにチューハイ買いに行ってよ!?」
「うっしゃあ! 絶対勝つ!」
「私が勝つ!」
まるで小学生低学年のお泊り会?
ちょっと綺麗になった事務所は、また缶とコンビニフードのゴミだらけになった。
ある日の夕方、スマホを見ながら愛美が叫ぶ。
「女優のミサちゃんが結婚だって~~! 羨ましい~~」
「お前は結婚がそんなにしたいのか」
夕暮れの事務所で、リョウに馬鹿にされたように笑われる。
「したいに決まってるじゃん!」
「何がいいんだ? 俺は全然、興味ない」
「……自分を愛してくれる旦那様がいるなんて、素敵じゃない?」
「……俺は旦那様はいらんがなぁ~。というか自分の旦那を『様』付けするのは、おかしいんだぜ」
「うっざ!! そういう話じゃないのよ。愛してくれる人がいるだけで、強くなれる気がするんだよ」
「乙女~~ぎゃははは! じゃあ一千万を早く貯めなきゃだな」
「うっざ!! 仕事を早く探してきてよ! 馬鹿社長!」
「はいはい乙女事務員さん」
数日で激安スウェットに毛玉が付き始めた日。
今日は早朝からの仕事が入っていると言われた。