二人で働く日々・1
また愛美は自分の部屋へ戻って支度して、夕方からの待ち合わせの依頼場所へ行く。
「今日は……ストーカーの生霊が出る女性の部屋だから……お前……女は恋愛対象か?」
「さ、さすがの私でも女性は恋愛対象じゃないわよぉ」
「……つかえねーなっ!! じゃあ、依頼者の女性はかなり怖がりだから、傍にいてやってくれ」
「へぇ?」
「怯えてるんだ。しっかり励ましを頼む」
「……わかったわ、了解」
言葉遣いはムカツクけれど、なんだかんだで依頼者想いだという事がわかった。
小綺麗なマンションの一角。
言われた通りに、愛美は怖がって泣く女性を励まし、リョウは奇声を上げながらも除霊に成功したようだった。
「生霊はどうにかできたが、生身のストーカー男の方が危険でしょう。対策を練らないと危険ですよ?」
「……でも、どうしたらいいかわからなくって……」
泣く女性を見て、リョウはどこかへ電話をする。
「俺の知り合いの弁護士を紹介しますよ。今なら時間があるそうです」
「……弁護士って……相談するお金が……」
「……じゃあ、除霊料差し引いてあげますから、まずは相談して引っ越しも考えましょう」
「えっ……そんな、本当にいいんですか?」
「一刻を争う状況ですよ」
「お願いします……! ありがとうございます!!」
女性が弁護士に相談をすることを了承した。
それから女性を弁護士事務所まで送って、リョウが残ったお金を手のひらで数える。
「……社長」
「……すまん、今日の給料は……これだけ……」
数枚の千円札を渡そうとしてきたリョウ。
泣きながら、何度も御礼を言っていた女性を思い出す。
かなりの殺意を感じたとリョウは言っていた。
報酬よりも、女性の保護を最優先にした……馬鹿社長。
「お疲れ様! さぁ社長ーー!! 豚貴族行くよ!!」
「えっ!?」
「疲れたから、もうビール飲みたい! あのストーカーのキモい霊は酒飲んで忘れなきゃ!」
愛美が一気に大声で言う。
一瞬、呆気にとられた顔をしたリョウが笑った。
「……だな!! まじであの生霊、しつこかったな!」
「ほんっと! まじキモ! 飲もう飲もう!」
今までの仕事も、人と人との関わり合いは不可欠だった。
でも、なんだかこの仕事は何倍も、人との情に関わる気がする。
そして、お金は貰えなかったけど人の命を救おうとした馬鹿社長!
……ちょっと尊敬。
今日の疲れは、酒で流すしかないでしょ! と愛美は思って、リョウを連れて安い居酒屋へ行った。
「あの女性、無事に逃げれるといいね」
二人でビールをガブ飲みする。
「終わったことだし、後は知らね~よ。お兄さーん、生ふたつとキュウリの一本漬けおねしゃーっす」
そんな事を言いながら、知り合いの弁護士からのメールをしっかり確認している。
「どうだったの?」
「警察にも相談済、明日の夜には夜逃げ完了予定……だとさ」
「よかったね! 乾杯~!」
「おう、乾杯」
次の日も事務所の汚いソファで起きたが、なんだか清々しい気持ちだった。
「いやでも、この事務所くっさ……!! そろそろこの事務所も掃除しなきゃあ……」
安酒を飲みすぎて少し頭が痛かったが、リョウが目覚めるまでに事務所を整理整頓する。
そこで一枚のハガキを見つけた。
綺麗などこかの風景。
草原いっぱいに咲くヒマワリ。
そこに『元気です』とだけ書かれていた。
宛先人は不明。
「……なんだろ……元カノ……?」
一瞬モヤッとしてしまう。
「は!? なに今の?!」
勝手に見ちゃったせいだ! と慌ててデスクの上に置いておく。
しばらくして、床で寝ていたリョウが目を覚ました。
「んが……んあ……? なんだこれ……霊障?? 俺の事務所がやけに綺麗だ……」
「ばーか! 私が綺麗にしてやったんでしょ! あとで百均行くよ? 掃除用具も台所も全然足りないのよ~汚い! さ、御礼は??」
「……さんきゅう……」
「え? 今、ほんとうに御礼を言った? もっと大きな声で言って? あと清掃代は別で払ってよ?」
冗談のつもりで、早口で言う。
リョウが、立ち上がって寝癖の頭をかいた。