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屋台のラーメン屋で


 住宅街を抜けた河岸に深夜やっている屋台のラーメン屋『うまいラーメン』

 愛美の大好きなラーメン屋で、今日も無意識にそこへ向かっていたようだった。


 でも、あの自販機を見るのは初めてだったし、この男……リョウ? とも会うの当然初めてだ。


「はい! 生二つどうぞ~」


「ういっす、かんぱ~い」


「乾杯……」


 男に振られ、変な男にたかられて乾杯? と思う愛美。

 だがビールを飲んで、美味しいラーメンをすすり、餃子を頬張り、ビールを飲んで、味玉を食べて、ビールを飲んで……。


「じゃあなんだ? お前が子どもの頃に、村の祠を壊したって~話か」


「ぞうなのよぉおおお。まだ五歳だよ!? わかんないっつーの……!!」


 涙を拭って鼻水をすすり、ビールを飲む。

 愛美は故郷の村にあった祠を不注意で壊してしまった。

 それなのに何故か、祠に祀られてた強大な怨霊に溺愛されてしまったのだ。


 この世で一番いらない溺愛である。


「愛美ちゃん……そんな苦労してたんだぁ」


 うまいラーメン店主が、驚いたように愛美に新しいビールを渡す。


「わだじっ……これから無職でっ……ふられでっ……もうどうしたらいいのぉ!?」


「田舎には帰ろうと思わないの? ってごめんね。俺が話に入っちゃって」


「いーっすいーっす。店長、事情聴取おねしゃーっす」


 店長が優しく愛美に色々聞いて、リョウはラー油をたっぷりかけた餃子を頬張ってビールを飲む。

 どちらに相談しているのか、わからない。

 

「祠がある村なんか、絶対帰りたくないもんっ!! つーか、それで、お前の除霊探偵って、そのチカラは本当なのかよぉ!?!!」


「お前も見ただろうがよ!? おれの力を!!」


「……見たけど……」


「リョウくんの力は本物だよね。俺も祓ってもらったことあるんだよ」


「えっ……店長もですか……?」


「誤解だったんだけど、猫とちょっとあってね……」


 愛美が、リョウを見ると鼻高々そうだった。


「でもなぁ、お前の呪いを解くなんて命をかけなきゃならん、とんでもない呪いだぜ……。ヤバさがわかる奴なら、一千万はかかるだろうな」


「いっせんまん!? そんなの払えるわけないでしょーー!!」


「命をかけなきゃなんないって言っただろう? 数万でできる仕事じゃねーぜ……」


 その言葉には、重みがあった。

 愛美にも、自分の呪いが凄まじいもんだと自覚がある。


「いっせんまんかぁ……ははは……わだじ……えいえんに……ひとり……」


「ま、愛美ちゃん」


 落ち込んだ愛美を、店長が気遣った。


「無職で……呪いを解くには一千万……どうすりゃいいのよ……」

  

「とりあえず、お前は俺が雇ってやるよ。それで無職問題は解決だ!」


「……は?」


「さっきの呪いは本物だ……しかも、お前が愛を囁やけば発動される! すげーぜこれは……! これは儲けられるだろ! お前は金のガチョウだ!」


「儲け……? どういう事?」


「俺とお前が顧客のもとへ行く。そしてお前が客の男に、こっそり愛を囁やけば、霊障が発動!! それを俺が退治する……!! ささやきマナミ作戦!!」


「はぁ!? そんなの詐欺じゃない! 最低!!」


「詐欺ではないぞ!! お前の強い呪いは……見えにくい霊障も引寄せられ色濃く発見されるだろう」


「どゆこと?」


「つまりは、お前の強い呪いにあてられて、コバエがデカいハエにクラスチェンジする!! 発見しやすい! そんな感じだ! それを俺が退治するのだ。詐欺じゃないだろ~~?」


「そ、そうかな……」


「むしろ人助けだ!! 無職なんだろ? 事務員なら俺の事務所の事いろいろやってくれよ」


「事務だって色々あるんですけど? 月給でくれるの? 社会保険は?」


「仕事が成功して、報酬を受け取ったらに決まってんだろ。店長ビールください。こいつのおごりで」


「ちょっと! もう飲まないでよ! どんだけ飲むの!?」


「あはは、じゃあ不思議な縁だから今日は俺が酒を奢るよ。とっておきの日本酒飲もうか」


 もう24時を過ぎているのに、店長は閉店せずに付き合ってくれる。

 不思議なことに、他の客も、通り過ぎる人も誰も今日はいなかった。


「……店長……! 店長……本当優しい……嬉しいです……」


 愛美は、店長に少し好意をもっていたのだ。

 でも、迷惑をかけてはいけないと話すのを我慢していたので今日は更に好きになってしまった。

 リョウが愛美の顔を見て、胸ポケットからなにか取り出した。

 

「店長、これ持っておいてください」


「え? これは?」


「こいつに呪われないように護符です。危険ですから、酒も撒いてください。一番安いやつ」


「あ、あぁ。わかった」


「えっ! も、もしかして、その護符があったら、私恋愛できるの!?」


「無理に決まってんだろ。これはその場しのぎ! 店長殺すなよ!? そんでお前は、一生独身だろ」


「ぐぎぎぎぎ!! うえーーん!! 日本酒いただきます!! ガボガボガボ……!!」


「あ、貴重な日本酒をガボガボ飲みやがって! 俺もガボガボガボガボ……!!」


「いいよ。たくさん飲みなよ」


 笑う店長を見て、素敵……と思ったらティッシュが急に燃え始めたが、すぐに消えた。

 それを見て、愛美はまた号泣して、酒を飲んだ……。


 気づいたら、汚い事務所のソファで目が醒めた。

 床では大いびきをかきながらリョウが寝ていて、雇用契約書を握りしめていた。


 そこには愛美のサインが見えた。


「あ……っ……げっ……私……サインしちゃったっけ?」


 頭が痛い。

 二日酔いだ。

 どうやら、リョウの探偵事務所? で働くことになったらしい。

  

 

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