表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/3

悪い企みとまさかの出来事


 怪しい男相手でも、愛美は叫んだ。


「ちょっとその五百円玉は私のですから!!」


「なんだ!? 俺が落としたやつを、たった今拾ったんだよ!!」


 男は顔は整っているが、黒髪のボサボサ頭。

 スーツを着ているが、ヨレヨレ。

 明らかに、確実に、金がないのがわかる。


「私が! 今、落としたの! わかる!?」


「知らないね! 俺のところに五百円玉が戻ってきたんだよ! じゃあこの五百円玉にあんたの名前でも書いてあるのかよー!!」


「な、なにその小学生みたいな理論!! いいから返してよ!」


「いやだね! 俺はここでビールを飲むという運命に導かれて今日を過ごしたんだ。この五百円玉がないとビールが飲めないだろうが!!」


「だからそれは私がビールを飲むための五百円玉なの! 泥棒!! 泥棒!! 泥棒よあんたは!!」


「俺は泥棒なんかじゃねぇよっ!!」


「ふん! なによ無職にしか見えないけどね?!」


 自分も無職なのに、つい言ってしまう。

 男が立ち上がると、かなり背が高い。

 こんなに煽って殴られたら、一発で病院送りだ。

 いつもは愛美だってこんな馬鹿な真似はしない。


 そう、この夜は何かがおかしい。


「無職でもねぇよ」


「じゃあ、なんだっていうのよ!?」


「そうだな……俺は……最強霊媒除霊探偵……リョウ……だっ!!」


 愛美と男と、自動販売機の前に寒い風が吹いた。


「……」


「俺は、最強霊媒除霊探偵……リョウだっ!! ハァ……ッ!!」


 何やら手から放出したような動作をするが、当然に何も発射はされていない。


「聞こえてるって。はぁ」


 愛美は財布を取り出して、千円を自販機に入れる。

 そしてビールを一缶買って、取り上げた。


「おいおい、霊媒除霊探偵って、なに~!? とか興味あるー! とかならないのかよ!? やだよね~~昨今の若者の心霊離れってさ~~リョウさん哀しいよ」


「うるさいおっさん!!」


「おっさん!? 俺まだ27だけど!?」


「私より2つも年上で、おっさんでしょ!」

 

 プシッ!

 

 愛美はビールを開けて、その場で煽る。

 

「んっんっんっ……んっ」

 

 冷たいビールが喉に染み渡る。


「うまそ……っ」


 リョウが羨ましそうに、指を咥えて愛美を見た。


「ングングング! プハーっ!! おっさん、大好き!!」


「えっ!? なに!?」

 

 むしゃくしゃして、悪い愛美悪魔が心の中に現れた。

 愛美の呪いは……好意をもった男性に襲いかかるのだ。


「おっさん大好き!! めっちゃ好きだわ!! かっこいいわぁ~~!!」


「え!? なになに!? もしかして俺のファンだった? 五年前に月刊モーの取材受けたしなぁ……やっぱ、有名人なわけですよ」


 リョウが、ビシッとポーズを決める。


「なによそれ……全く知らないけど……馬鹿!? あ、いやいや。だから私と~付き合ってほしいな……だって霊媒除霊探偵なんでしょ!? 私と結婚してよ!!!」


「ああんっ!?」


「結婚してーー!! 好き好き大好き!!」

 

 愛美が叫んだ瞬間に、自販機が吹っ飛んだ。


「きゃあ!?」


「これは……!! 呪い……!?」


 自販機から溢れ出したビール缶が男めがけて飛んでいく。


 自販機から溢れ出したビール缶が男めがけて飛んでいく。


「うそぉ……やめて!! こ、ここまでしなくていいじゃない!? イラッとしたから、もしかしたら、ちょっと痛い目合わせられるっって……やめてーー! ごめんなさい!!」 


 まさかここまでとは……!?

 愛美で恐怖で叫ぶ。

 男が滅多打ちにあって、重症を負う未来が見えた。


 しかし……。


「オイオイオイオイ……!! 穢れを祓う――帰れ、還り給え、俺が命じる! 怨霊……斬りぃ!!」


「はっ!?」


 男が手にしているのは、何やら護符の貼られた特殊警棒だ。

 だが、警棒で殴り返したわけではない。

 呪いが、確かに飛散したのを感じた。


「なんだこれ……すげぇな……こんなドギツイ呪いは久々に……いや、さすがに初めて見たぜ」


「……あ、あんた……無事……だ……」


「これ、俺のせいじゃねーからな」


 男は飛び散って落ちたビールの一つを開けて、豪快に飲み始める。


「わ、私のせいでもないわよ!! ってビール飲むな!」


「あんたの呪いのせいだろ? あ~うめうめ」


「あなた、本物の霊媒除霊探偵なの? 呪いがわかるの!? さっき祓ったわよね!?」


「あぁ。んまぁ本物だけど? 言っただろ~?」


 リョウは、ビールを飲み続ける。


「お願い、話がしたいの! ちょっと私の話を聞いて!」


「俺のとこはぁ~相談料高いでっせ?」


「ぐ……」


 愛美も無職の身。

 その時、ぐぅ~~っとリョウの腹が鳴った。


「うう……ちくしょう……本当なら報酬が入るはずだったのに……」

 

「……もう少し歩いたとこに、屋台がある。ラーメン大盛り、ビール付き……どう?」


「相談料の事を言ってんのか? ラーメンくらいでなぁ」


「あそこの屋台で、今! 食べられる状況って、プライスレスの付加価値があるんじゃないかしら!?」


「ぐ……」


「どうするの!? 目先のラーメンか……後日のお金か……どっち!?」


「……餃子と、おつまみメンマも」


「いいわ。行きましょう」


 破壊されたと思った自動販売機は、物理的に壊れてはいなかった。

 どういう原理なのかは、わからない。

 中からビールが瞬時に飛び出しただけのようだった。

 愛美も無職で、明日は金欠の身。

 それでも破裂したビールと、男が飲んだビール分のお金を受け取り口に置いた。


 そして屋台のラーメン屋に着く。


「おー愛美ちゃん! 久々だねぇ!」


「大将~お久しぶりです~」


 まだ若いラーメン屋の大将が、笑顔で迎え入れてくれた。


「っと、祓い屋のリョウちゃんも! 久しぶりだねぇ」


 他に客はおらず、二人で丸椅子に座る。


「うっす。チャーシュー味噌ラーメンニンニクマシマシで大盛り。餃子二人前とおつまみメンマと、ビール頼んます。あ、味玉も」


「はぁああ!? ちょっと頼みすぎ!」


「この店の通なら、これが普通だろ。はぁ~相談料は普通なら20分1万円……」


「ぐ……大将、同じの私にも……」


「あいよ!!」

 

 まさか、こいつも常連だったとは!

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ