悪い企みとまさかの出来事
怪しい男相手でも、愛美は叫んだ。
「ちょっとその五百円玉は私のですから!!」
「なんだ!? 俺が落としたやつを、たった今拾ったんだよ!!」
男は顔は整っているが、黒髪のボサボサ頭。
スーツを着ているが、ヨレヨレ。
明らかに、確実に、金がないのがわかる。
「私が! 今、落としたの! わかる!?」
「知らないね! 俺のところに五百円玉が戻ってきたんだよ! じゃあこの五百円玉にあんたの名前でも書いてあるのかよー!!」
「な、なにその小学生みたいな理論!! いいから返してよ!」
「いやだね! 俺はここでビールを飲むという運命に導かれて今日を過ごしたんだ。この五百円玉がないとビールが飲めないだろうが!!」
「だからそれは私がビールを飲むための五百円玉なの! 泥棒!! 泥棒!! 泥棒よあんたは!!」
「俺は泥棒なんかじゃねぇよっ!!」
「ふん! なによ無職にしか見えないけどね?!」
自分も無職なのに、つい言ってしまう。
男が立ち上がると、かなり背が高い。
こんなに煽って殴られたら、一発で病院送りだ。
いつもは愛美だってこんな馬鹿な真似はしない。
そう、この夜は何かがおかしい。
「無職でもねぇよ」
「じゃあ、なんだっていうのよ!?」
「そうだな……俺は……最強霊媒除霊探偵……リョウ……だっ!!」
愛美と男と、自動販売機の前に寒い風が吹いた。
「……」
「俺は、最強霊媒除霊探偵……リョウだっ!! ハァ……ッ!!」
何やら手から放出したような動作をするが、当然に何も発射はされていない。
「聞こえてるって。はぁ」
愛美は財布を取り出して、千円を自販機に入れる。
そしてビールを一缶買って、取り上げた。
「おいおい、霊媒除霊探偵って、なに~!? とか興味あるー! とかならないのかよ!? やだよね~~昨今の若者の心霊離れってさ~~リョウさん哀しいよ」
「うるさいおっさん!!」
「おっさん!? 俺まだ27だけど!?」
「私より2つも年上で、おっさんでしょ!」
プシッ!
愛美はビールを開けて、その場で煽る。
「んっんっんっ……んっ」
冷たいビールが喉に染み渡る。
「うまそ……っ」
リョウが羨ましそうに、指を咥えて愛美を見た。
「ングングング! プハーっ!! おっさん、大好き!!」
「えっ!? なに!?」
むしゃくしゃして、悪い愛美悪魔が心の中に現れた。
愛美の呪いは……好意をもった男性に襲いかかるのだ。
「おっさん大好き!! めっちゃ好きだわ!! かっこいいわぁ~~!!」
「え!? なになに!? もしかして俺のファンだった? 五年前に月刊モーの取材受けたしなぁ……やっぱ、有名人なわけですよ」
リョウが、ビシッとポーズを決める。
「なによそれ……全く知らないけど……馬鹿!? あ、いやいや。だから私と~付き合ってほしいな……だって霊媒除霊探偵なんでしょ!? 私と結婚してよ!!!」
「ああんっ!?」
「結婚してーー!! 好き好き大好き!!」
愛美が叫んだ瞬間に、自販機が吹っ飛んだ。
「きゃあ!?」
「これは……!! 呪い……!?」
自販機から溢れ出したビール缶が男めがけて飛んでいく。
自販機から溢れ出したビール缶が男めがけて飛んでいく。
「うそぉ……やめて!! こ、ここまでしなくていいじゃない!? イラッとしたから、もしかしたら、ちょっと痛い目合わせられるっって……やめてーー! ごめんなさい!!」
まさかここまでとは……!?
愛美で恐怖で叫ぶ。
男が滅多打ちにあって、重症を負う未来が見えた。
しかし……。
「オイオイオイオイ……!! 穢れを祓う――帰れ、還り給え、俺が命じる! 怨霊……斬りぃ!!」
「はっ!?」
男が手にしているのは、何やら護符の貼られた特殊警棒だ。
だが、警棒で殴り返したわけではない。
呪いが、確かに飛散したのを感じた。
「なんだこれ……すげぇな……こんなドギツイ呪いは久々に……いや、さすがに初めて見たぜ」
「……あ、あんた……無事……だ……」
「これ、俺のせいじゃねーからな」
男は飛び散って落ちたビールの一つを開けて、豪快に飲み始める。
「わ、私のせいでもないわよ!! ってビール飲むな!」
「あんたの呪いのせいだろ? あ~うめうめ」
「あなた、本物の霊媒除霊探偵なの? 呪いがわかるの!? さっき祓ったわよね!?」
「あぁ。んまぁ本物だけど? 言っただろ~?」
リョウは、ビールを飲み続ける。
「お願い、話がしたいの! ちょっと私の話を聞いて!」
「俺のとこはぁ~相談料高いでっせ?」
「ぐ……」
愛美も無職の身。
その時、ぐぅ~~っとリョウの腹が鳴った。
「うう……ちくしょう……本当なら報酬が入るはずだったのに……」
「……もう少し歩いたとこに、屋台がある。ラーメン大盛り、ビール付き……どう?」
「相談料の事を言ってんのか? ラーメンくらいでなぁ」
「あそこの屋台で、今! 食べられる状況って、プライスレスの付加価値があるんじゃないかしら!?」
「ぐ……」
「どうするの!? 目先のラーメンか……後日のお金か……どっち!?」
「……餃子と、おつまみメンマも」
「いいわ。行きましょう」
破壊されたと思った自動販売機は、物理的に壊れてはいなかった。
どういう原理なのかは、わからない。
中からビールが瞬時に飛び出しただけのようだった。
愛美も無職で、明日は金欠の身。
それでも破裂したビールと、男が飲んだビール分のお金を受け取り口に置いた。
そして屋台のラーメン屋に着く。
「おー愛美ちゃん! 久々だねぇ!」
「大将~お久しぶりです~」
まだ若いラーメン屋の大将が、笑顔で迎え入れてくれた。
「っと、祓い屋のリョウちゃんも! 久しぶりだねぇ」
他に客はおらず、二人で丸椅子に座る。
「うっす。チャーシュー味噌ラーメンニンニクマシマシで大盛り。餃子二人前とおつまみメンマと、ビール頼んます。あ、味玉も」
「はぁああ!? ちょっと頼みすぎ!」
「この店の通なら、これが普通だろ。はぁ~相談料は普通なら20分1万円……」
「ぐ……大将、同じの私にも……」
「あいよ!!」
まさか、こいつも常連だったとは!