死なないでリョウ
「シー! あまり呪いの源を刺激するな」
「……ごめん」
「俺の言葉に反応したのかもしれないが……何故、迷う? やっと解放される。千載一遇の好機だぜ」
「……それはそうだけど……」
どうして迷うのか?
やっと呪いから解放されるチャンス。
大金持ちのアラブの王子様に溺愛されるチャンス。
それなのに、それなのに……全然嬉しく思えない。
「はぁ~~」
リョウがため息をついて、愛美の元にやってきた。
「お前の呪いは俺が解いてやるよ」
突然の頭ぽんぽん。
「はっ……? な、なに……」
「俺に任せろ、な」
「な、なんで……?」
優しい微笑みに、わけがわからない。
「お前はさ、幸せになった方がいーだろ」
「でも、だって……死んじゃうかもしれない」
「俺に解けない呪いはねぇ……って何回言ったらわかるんだ?」
「待って……リョウ!! 駄目だよ絶対に死んじゃうから!!」
「社長を信じなさいよ? 君、俺の秘書でしょ?」
「秘書じゃねーよ! ……違う、そういう事じゃないんだってばぁ! リョウ、私は……あんたが傷ついたら……帰ってこなかったら……私……私は……」
「うんうん、無事を願ってビール飲んで待ってろ」
また頭を撫でられる。
あったかい手。
そして、何か……花の香りのような良い香りがしてきた。
「待って、リョウ……何? この香り……」
心地よい、花の香り。
「愛美……さぁ、お前は今からネムクナール~~眠くなる~~」
「なに……ふざけな……」
ふらりと椅子から倒れそうになるのを、リョウが抱きかかえてソファに運ばれる。
「なんで……もう……行くの……?」
「今日がたまたまなぁ……俺の霊力が一年で一番強くなる日だ。今から行って、夜中には祠に着くか……酒飲まないでおいて良かったぜ」
「待って……」
「お前ときたら、なんでもかんでも呼び込みやがって……」
リョウが笑う。
「待ってよ……待って。リョウ……私……」
「結婚したいんだろ? 安心して、俺に任せろ」
「ちが……」
もう意識が朦朧として、言葉にならなかった。
また優しく頭をなでられた感触があった。
リョウ……最低最悪の馬鹿男。
ちゃんと話を聞いてよ。
結婚しようと思えないのは……好きな人が、もういるの。
さっき気付いたから、私以外、誰も気付いていない。
一緒にいても、一緒に堕落しちゃうような最悪な関係。
一緒にいても、一緒に酒ばっかり飲んじゃうような関係。
男同士? 性別も感じさせないような、すっごく良い関係だったのに……。
均衡やぶってごめんね。
私……。
私……あんたのことを……好きになってたみたい……。
怖がらずに、怯えずに……素直な心で……大好き……って言いたい。
でも、それができなくてもいいから、祠なんかに行かないで。
友達でいいから、同僚でいいから、あんたの馬鹿みたいな笑顔をずっと見ていたいんだよ……!
ずっと一緒に笑えたら、それでい。
だからお願い。
死なないで……。
リョウ……!!
いつの間にか深い眠りについていた愛美。
目覚めたら、高級ホテルの一室だった。
介護服に着替えさせられていた。
「ここは……!?」
「愛美さん~大丈夫ですよ。安心してください」
「私、事務所にいたのになんで……!?」
「貴女の社長から、ファイサル王子への依頼があったんですよ~大丈夫、落ち着いてくださいね」
「リョウが……?」
「ケアしているのは、私達ですから安心してくださいね」
女性の医者や看護師、介護スタッフに囲まれてケアされたようだった。
呼ばれてファイサル王子が、慌ててやってきた。
「マナミ!! あなたを保護するように頼まれマシタ!!」
「私……一体……」
二人の間に入るように、スタッフが優しく微笑んだ。
「愛美さん。私達はファイサル王子に依頼された一流の医者と、看護師兼介護スタッフです。落ち着いてください。貴女の雇い主の社長から、依頼を受けて眠った貴女を保護しました。安全な方法で眠らされたようです。でも、貴女は24時間眠り続けていました」
王子に代わって、お医者さんから説明を受ける。
「ファイサル王子……! リョウは!?」
王子の呪いを解くのに三日かかった。
今から田舎に帰れば、手伝いができるかも!? そう愛美は思ったのだ。
「アナタの呪いは解かれたと、さっき連絡がキマシタ」
「えっ……? もう!?」
「ハ~イ。さすがリョウ・ギンガですね。でも、その連絡のあとは音信不通デス」
「わ、私のスマホをください! 連絡してみます」
女性スタッフがもってきてくれたスマホでリョウに連絡する。
だけど通話は留守電サービスに送られてしまうし、メールはいくら送っても既読にならない。




