王子からのプロポーズ
そう言って、ファイサル王子は愛美を見つめた。
「私……??」
「実は、あなたに一目惚れしたんデス! リョウとの出逢いもウンメイ感じました。でも……それ以上に、美しい、レディマナミが忘れられない……マナミ、どうかワタシと結婚してください」
「えっ!?」
「はっ!? あちちちちちっ!!」
呆気にとられたリョウが盛大にコーヒーを零した。
慌てて、雑巾を取りに行くが王子は今なんて!?
「オー、まさか、やっぱり、二人はラヴァーズでしたか?」
「違う」
「違います!」
二人でハモって全否定。
「オー! それは安心ヨカッタです」
「ま、待ってください! そっちじゃなくって! さっき、なんて言いました!?」
「マナミ、私の妻になってクダサイ。私の国、一夫多妻制です。デモ、アナタだけでいい。何も不自由させマセン。どうかオネガイします」
ファイサル王子の切なく、甘い瞳……そして、囁くような甘い言葉。
「えっ……」
愛美が雑巾を落として、リョウはやっぱり目を丸くしていた。
「どうデスカ?」
ファイサル王子は、めちゃくちゃイケメンだ。
当然に大金持ちだし、行動を見ても思いやりがあって優しい。
誠実に見える。
でも……。
「でも、でも……私は無理なんです」
「ナゼデスカ!? 私になにか足りないトコ、ありますか?」
「そ、そうじゃないんです……あの、私にはものすごい呪いがかけられていて……」
「呪い……? じゃあリョー・ギンガ、あなたに依頼します! マナミの呪いを解いてクダサイ! 一億円でも十億円でも払います!」
「そ、そんな勝手に……!」
「一千万だ。こいつにはそう言ってあったからな」
「一千万……? 円? デスカ?」
「あぁ。円で」
「オー安い! そんな金額でイイんですか? じゃああんまり強くナイのでは?」
「はぁ~あんたの呪いとは根本的に違うよ……本来なら一億もらってもやらねー案件だが……」
そこで愛美は気付く。
一千万円は破格値だったのだ。
「リョウ……」
「こいつに提示した額より、吹っ掛けるのはなんか違うよなって」
「リョウ! ……待って、駄目だって」
小声で愛美はリョウに言う。
この王子は一千万円など、払ってしまう気だ。
「マナミ、私はリョウに祓ってもらって、ホントウニ、清々しいキモチ。アナタにもこの気持ち、アゲタイ。是非、リョウに祓ってもらいましょう? 私、奢りマース!」
「お、奢るって! 金額が、駄目ですよ! 私、そんなの……奢ってもらうわけには、いきませんよ!」
「……よし、では契約成立! 愛美、契約書を用意しろ」
「ハイ、オネガイします! マナミ、私は別にこれで結婚を強要するつもり、アリません! 気楽に奢られてクダサイ。祓い終わってから、それから色々と考えてクレレバいいですよ~」
「待って……でも、そんな簡単に祓えるものじゃないんです! リョウの身に危険が!」
「オーマイガ!? リョウ・ギンガでも祓えないほどの呪いが!?」
「ばっかやろー。社員が社長の力をお客様の前で否定するってどういうことだ? 契約書! 持って来い!」
リョウの言うとおりだ。
大口の仕事を前に、何を言っているんだろう?
でも……。
リョウに言われて、契約書を持ってくる。
あの3日間待った日を思い出す。
リョウが帰ってこなかったら、どうしよう?
不安な時間を過ごした。
愛美にはわかっている。
自分の呪いは、王子の呪いの何倍も、何十倍も恐ろしいものだと……。
王子は、色々な贈り物を置いていった。
リョウは、冷えて固くなったチーズ牛丼を電子レンジで温め直して食べ始める。
「食わねーの? 食ったら、お前の田舎の詳しい住所を教えてくれ」
愛美は、ノートパソコンを起動させた。
データをまとめて、リョウのスマホに転送する。
「サンキュ、お前も食えよ。もう米がつゆだく染みちゃってるけどさ、これが案外美味いんだぜ?」
温め直した牛丼を気に入らないとでも思っているのか? そんな事を言って食べ続けるリョウ。
「なんで……? どうして、こんな依頼受けたの?」
「あぁん? 逆になんで? なんで受けたら駄目なんだ?」
「駄目でしょ……もっと慎重に考えて受けるか悩んで、下見したりさぁ!?」
田舎を出てから、検索なんかしなかった。
今検索して、更にわかった事は、あの祠の呪いはかなり有名だという事だった。
都市伝説にもなっている。
一人で行けば、無事ではすまない。
「俺に解けない呪いはない。お前がなんでそんな、悩む……?」
「悩むわよ!」
「相手はイケメンの王子様だぜ!? ……よくある溺愛花嫁になりました! ってヒロインになれるじゃねーか」
「な!? 馬鹿! 王子の事なんかどうでもいいのよ! 問題は私の呪いとあんたの無事だよ!」
パァン! と王子がプレゼントしてきた花を生けた花瓶が落ちて割れた。




