尋ね人は誰?
驚いたのが、この店の大将もリョウを常連として、丁寧に扱っていることだ。
値段も見ずに、高級ネタから干瓢巻きまで、好きなものをどんどん頼む。
大将もニコニコしながら、リョウの注文で寿司を握る。
「次はなんだ? さっき気に入ってた佐渡産の鮭、また食えばいいんじゃね」
「お、美味しかったけど高すぎるでしょ!?」
「美味いもんは高いんだよ。大将~! 佐渡の鮭! あと、根室のバフンウニも。ヒレ酒も飲みたいな」
「あいよ~っ!」
「リョ、リョウ……お金、大丈夫?」
「宵越しの金は持たねぇのさ……」
「あんた絶対、江戸っ子じゃないでしょ!」
江戸っ子ではないけれど、リョウはお会計をポンと支払った。
豪快で気前がいいけど、貯金ゼロで結婚相手には選ばれないタイプだ~と思う。
そんな事考えてしまう自分も性格悪いなぁと思いながら、愛美は『ごちそうさまでした!』と頭を下げた。
「おう~美味かったな」
なんかリョウが、変にかっこよく見えてムカツク。
きっと、王子から貰った高級スーツのせい。
そのままタクシーで新オフィスへ向かった。
「うわぁ~~綺麗なオフィス!」
「でもなぁ~このオフィスは一ヶ月だけ借りたら返すつもりだ」
高級革張りソファーに座るリョウ。
「なんで!? 王子からしょっちゅう依頼が来るわけじゃないんでしょ?」
「まぁな。依頼の都度、報酬もくれるって言うし……なんかここまでさせていいのか? とな……少し……ハガキの件もあるしな」
「え? 別にいいじゃない。向こうの提案なんだもの。返すことないのに」
新品のノートパソコンを箱から出して、オフィスの椅子に腰掛けた。
ドラマに出てくるような素敵なオフィス。
全ての階のオフィスが有名企業だ。
でもリョウはあのボロ事務所に居続けて、少女のハガキを受け取りたいのだろうか?
「やっぱそう思う? 暑くもなく寒くもなく、椅子の座り心地も最高だし、やっぱ移りてーな……移っちゃうか! だよな!」
「尊敬して損した」
とは言いながらも、リョウは結局、汚物事務所にいる。
愛美はホームページ作りをすぐに終えて公開した。
SNSも始めてみた。
たまにくる電話に対応するため、愛美は新オフィスに出勤していた。
離れて仕事をしているので、ここ数日は飲みにも行っていないし、当然あの汚物事務所で泊まりもしていない。
一等地のオフィスに勤めるOLさんのように、優雅な一人ランチに、カフェのテイクアウトコーヒー。
でも、何か虚しい。
三百万も使っていない。
まぁ、それはリョウへの除霊依頼に使うものだと思ってはいる。
……でも、何故か結婚への執着が薄くなっている気がして……。
「あ~~あ! 汚物事務所へ行ってみよっかなぁ~~!!?」
独り言を呟いた。
「てめぇ、人の事務所を汚物って言うんじゃねー」
まさかのタイミングで、リョウが鍵を開けて入ってきた。
「あ、リョウ! どしたの!?」
「牛丼食いたくなって、買ってきた」
「わーい! やったぁ~~! 私も食べたかったんだよね!」
テーブルの上にドサッと置かれたテイクアウトの牛丼。
素敵オフィスに似合わない、だけど最高に美味しそうな牛丼の匂いが漂う。
これは……チーズ牛丼だ。
もう一つ、コンビニ袋からビールが見えた。
「ちょっとビールもあるけど!?」
「今日は午後休です。社長の俺が決めました」
まだ三時半だ。
でも、愛美はニヤ~~っとしてしまう。
「……へっへっへ。社長様~! じゃあ、汚物事務所で食べない?」
「汚物言うな。せっかくわざわざ来たのに? ……まぁいいけどよ。ゲームでもしながら食うか」
牛丼が冷める提案なのに、リョウは了承してくれる。
「っていうかさ、もしかして私に会いたくなっちゃったの?」
「やだやだ、この女は頭にキノコでも寄生されちゃってんでないっすかねー!? さぁビール飲もうかなぁ!!」
「ずるい! 私も飲んじゃおーっと……!」
その時、新オフィスの呼び鈴が鳴る。
慌てて二人でビールと牛丼を隠した。
「おまたせいたしました~! いらっしゃいませ!!」
「ハイ! マナミ! リョウ!」
目の目に現れたのは、ファイサル王子だった。
「えっ! どうして!?」
「まさか、まだ霊障が?」
「ノンノン! リョウ~あなたの技術はパーフェクト! 素晴らしい! 何も問題ありません! 今日は新オフィスの使い心地の確認ト、とても大事なオハナシがあったんです」
黒服が五人も入ってきて、入口、窓、など王子を守るように立つ。
「使い心地は……最高ですよ。ありがとうございます」
結局此処では何も活動していないリョウが言う。
「どうぞ、コーヒーです。本当に素敵なオフィスです。パソコンも性能抜群で、とても仕事が捗ります」
「気に入ってクダサって、嬉しいデス」
コーヒー豆は王子推薦の高級品だった。
「それで……とても大事な話とは?」
「リョウ、今日はアナタにではなく、彼女に話があります」




