表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/5

呪い別れと、五百円の出逢い


「もう! 最悪、最悪! 最悪~~!!」


 小井戸(こいど)愛美(まなみ)、二十五歳。

 彼女はたった今、振られたばかりである。


 繁華街を抜けた、誰もいない住宅街を一人歩いていた。


「私は最初から、呪われてるって言ったじゃん! なにが『俺は呪いとか理解あるよ~』だよ!!」


 小井戸(こいど)愛美(まなみ)、二十五歳。


 彼女は五歳から呪われてる。


 しかも最凶、最悪のとんでもない呪いだ。


「ちょっとくらい窓ガラスが割れたってなに!? ちょっとくらい風呂場に手形がいっぱいあったからってなに!? 寝るたびに悪夢見るからってなに!? 部屋のものがバタバタ倒れるからって、夜中に首絞められるからって、なによ~~!!」


 ビタリと止まる。


「いや……めちゃくちゃ怖いわ……どんなに理解あったって怖すぎるって……そりゃ一週間で振られるよ……はぁあああああああ~~~」


 どでかい溜め息が出てしまう。

 しかも今回の相手が、まずかった。

 

 相手は、愛美が優秀な事務員という話を聞いて、引き抜いてくれた新会社の若社長だったのだ。

 

 転職先の社長と付き合うだなんて、という声もあるだろうが……呪われ続けて二十年。

 

 強大な呪いは、愛美が好意をもった相手に凄まじい悪影響を及ぼし、逃げてしまう。

 よって、男性と付き合った事のない愛美。

 今までの勤め先も、女性ばかりの会社だった。

 

 そこに『呪いに理解のある彼君』みたいな人が、しかも若い社長が声をかけてきたのだ。


 一生で最大のチャンスだと思った。


 それなのに一週間で振られ、しまいには仕事も紹介するから辞めてほしいと言われて、クビになってしまったのだ。


「……最悪……最悪……」

 

 別れ話をされたのは、大衆居酒屋だった。

 静かな個室に二人きりなんて、恐ろしいという理由らしい。

 

 厄介な相手とこじれそうな話をする時の、対処法だと聞いたことがある。

 

 御札と数珠を身に着けた若社長から

 『どうか別れてください南無三南無三!! ヒィイイイ! 助けてください! 南無妙法蓮華経!!』

 と泣きながら懇願されたのだ。


 明るく賑やかな大衆居酒屋。

 突然にグラスが倒れて何個も割れて、悲鳴が上がった。


 愛美は『別れますー!』と叫んで、逃げるように居酒屋を出てきた。


 当然に、彼は追ってこない。

 恐怖で涙を流して震えていた。


 頼んだビールは、一口も飲んでいなかった。


「うぇええええ……うぇ……うう……のど……かわいた」

 

 泣きながら、歩いていたが、ものすごく喉が乾いた事に気がついた。

 初夏でも、もうかなり暑かった。

 

 そこに一台の自販機が光っているのに目がいった。


 しかし……。

 何やら、自販機前でワーワー騒いでいる男がいる。


「うっそだろ……!? うっそだろ……!?」


 男は跪いて、何やら探している。

 状況から見て、小銭でも落としたのだろうか。


 怪しい……。

 男に用心しながら自販機を見ると、なんと酒の自販機である。


「まじかよ!! 俺の! 最後の! 五百円……!!」


 普段はこんな怪しい男がいたら近づかないだろう。

 でも愛美は今、地獄にいる気持ちだ。

 逆に男に凄まじくイライラしてきて、余計に喉が乾く。


「あ、この自販機、ビールがあるの……!?」


 泣いて歩いて、汗もかいて、喉もカラカラ。

 もうビール飲みたい……!

 強烈に愛美の欲求が溢れてきた。


 五百円玉を探す男を無視して、愛美は財布を見る。

 ビール500ml缶が、五百円。

 まるで観光地の旅館のように、割高だ。

 

「明日から無職だけど、そんな事はどうでもいいわ! これに決めた!!」


 つい叫びながら、五百円玉を自販機に突っ込む!


 が、自販機に五百円玉は入らずに……チャリン……チャリン……と転がっていく。


 明かりは自販機の明かりしかない。


 が、男の眼の前に転がっていくのが見えた。


「お! やった! あった俺の五百円!!」


「はぁ~~~~!?!!?」


 男は五百円玉を我が物のように、拾い上げる。


「待ちなさいよ! それは私の五百円玉よ!!」


 宍戸愛美、二十五歳。

 最凶に呪われた女子。

 そんな彼女の運命の歯車は、この転がった五百円玉によってグッチャグチャに回り始める……!?

 

 

お読みいただきありがとうございます!

こちら楽しいラブコメになっております。

続きが読みたいと思ってくださった方は是非、ブクマや評価などの感想をお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ