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専属契約

 暗殺者は総勢20を超えるありえない数字となった。

 この数が全員会場内に潜入する事はかなり難しい。

 トローネ伯爵も警備を甘くしていた訳では無いだろう。


 故にパーティ参加者に手引きした者がいる事は容易に想像可能だ。

 それがどんな人なのかは簡単には分からないだろう。

 分かったところで対処出来る相手なのかも不明なところだ。


 この大騒ぎで婚約者決定は見送りとなった。

 事後処理に追われているトローネ伯爵と傭兵代表のフィリア。

 そして、暗殺者を一目で見抜いた俺も忙しかった。


 「警察とかに引き渡すだけじゃダメなのか」


 「カグラ、これも仕事よ」


 「これからは武器についても分かったらメモしておく」


 「助かるわ」


 俺達のやる事は暗殺者が持っている武器をリスト化する事だった。

 どこの組織はどうせ聞いても分からないから、俺達の仕事じゃない。


 色々と終わった俺達は疲れ果て、フィリアの家に直帰した。

 依頼達成の報告は他の仲間がやってくれている。


 「冷蔵庫に惣菜が入っているから温めて。私はお風呂でも沸かすわ」


 「ん〜疲れたからこそしっかりしたご飯を食べたい⋯⋯食材はあるか?」


 「無いわよ〜惣菜しか」


 「⋯⋯時間的に買える場所はあるか。少し出て来る」


 「⋯⋯え、待って料理出来るの?」


 俺はフィリアの言葉が聞こえず、食材の買い出しに出掛けた。

 最速で。


 食材を買って、キッチンを借りて料理を始める。

 その間フィリアは風呂に入っている。


 俺は元のギルドで副マスターとして仲間の世話をしていたので家事全般が出来る。

 俺は惣菜も利用してスープなどを揃えた。

 疲れた時程、栄養のある物を食べた方が良い。


 「昨日は世話になったからな。これくらいはやらないとな」


 倒れた俺をこの部屋で寝かしてくれたのだ。

 まずは小さな恩返しから⋯⋯。


 風呂から出て来たフィリアはもくもくと湯気を出しながら、タオルで湿った髪をポンポン叩きながら驚きを見せる。


 「普通に美味しそうなんだけど」


 「味には自信あるが、フィリアの口に合うか分からない」


 部屋着の方が布面積が多い事に内心不思議に思いながら、フィリアと共に食事を取る。


 「美味しい! え、凄っ!」


 「ありがとう。口に合ったようで良かった」


 「ご飯食べたらお風呂入って良いからね。その間私は食器を片付ける、そして客人用の布団を出す⋯⋯ベッドは私が使うわよ?」


 ん?


 「またこの部屋で寝て良いのか?」


 「こんな時間じゃ宿も入れないでしょ。仕方ないわよ」


 「助かる。世話になってばかりだな」


 俺が申し訳なさそうにすると、フィリアはクスッと笑う。

 スプーンをクルクルしながら、俺を慰める。


 「気にしない。教育係だからね」


 「助かる」


 翌日、俺はカーテンを大きく開く。


 「ふむ。良く寝た」


 「眩しい〜! カーテン閉めて〜」


 ベッドでゴロゴロし、光を遮るように布団を被るフィリア。


 「もう朝の6時だ。起きろ」


 「早い! 昨日めっちゃ疲れたの。もっと寝たいの! ゆっくりしようよ! と言うかなんでアラーム無しでピッタリ6時に起きるのよ!」


 残念ながら俺が起きたのは5時だ。

 5時に起きて風呂を洗ってご飯の支度をしていた。洗濯は勝手が分からないのでやらなかった。

 それを言う必要も無いだろう。


 「朝食冷めるぞ。暖かい内が1番美味いぞ。良いのか?」


 「⋯⋯背に腹はかえられぬ」


 フィリアは起きて朝食を摂取し、着替えてから2人でギルドに向かう。


 「元気ねぇ」


 「寝れば大抵の疲れが取れる。そのように育てられた」


 「あんた本当に人間?」


 ギルドに入ると、早々に俺達がギルドマスターの部屋に呼び出された。

 報酬の引渡し⋯⋯は受付でやるよな。

 なにかやってしまったのだろうか?


 「俺、何か問題起こしたかな」


 「不思議な恐怖があるよね」


 ドアをノックして、相手から返事が来てから中に入る。

 中に入ると、見知った顔がソファーに座っている。


 「ミネス⋯⋯」


 「カグラ様、おはようございます」


 ニコニコと微笑むミネスが手を軽く振る。

 これは振り返すべき⋯⋯なのか?

 フィリアに助けを求める瞬間。


 「2人とも座りなさい」


 「「はい」」


 マスターに促され、ミネスと机を挟んでソファーに座る。

 ちらりとミネスの視線が俺の隣に座るフィリアの方に一瞬動いた。


 「先日はお助け頂きありがとうございます」


 「それが俺の仕事だった⋯⋯感謝は必要無い」


 「感謝を忘れては絆は深まりませんから。受け取っておいてください。返却は受け付けません」


 「理解した」


 ミネスは机に置いてある紅茶を啜り、フーっと落ち着きを見せる。

 この状況を飲み込めていない俺とフィリアはずっとソワソワしてチラチラと目を合わせている。


 「今回、ワタクシ⋯⋯と言いますかトローネ家を狙った貴族は昨日の内に捕縛し証拠を集めました」


 「「え?」」


 一体なんの話だ?


 「昨日のパーティ後の話だよ」


 マスターが補足するが分からない。


 「⋯⋯昨日の内って、そんなに時間は無かったはず。夜に解散したんだから」


 俺の疑問は最もだろう。


 「カグラ様の考えはご理解出来ます。ですのでワタクシはカグラ様が魔の手から守って頂いている間に怪し動きを見せた者を観察していました。ですのですぐに犯人は分かりました」


 「⋯⋯納得した」


 それを聞いて俺は納得する。フィリアはそれでも疑問に感じているだろう。

 これはミネスの天性の才能だ。

 圧倒的洞察力⋯⋯これは俺にも無い力だ。


 もしも彼女が戦闘訓練をしていたらとても強い戦士となっただろう。

 あるいは商人として育てられたから目覚めた才能なのか。


 「犯人は商業ギルドの利権を狙っていました。パーティを滅茶苦茶にして信用を失墜させる目的だったそうです」


 「それも昨日の内に分かったのか?」


 「⋯⋯今更だけどカグラ。相手は貴族様だよ。敬語忘れてるよ」


 フィリアのツッコミ。

 ここは他の人もいる。敬語を使うべきだったか⋯⋯。

 ミネスはあまり近い歳の人に畏まられたくない⋯⋯と思っていた。

 俺の勝手の認識で馴れ馴れしくしたのは良くなかったな。


 「フィリア様お気になさらないでください。ここは無礼講、いつも通り接してくださるとワタクシも嬉しいです。それに、カグラ様とは親しくしたいので。質問にお答えしますね。犯人にワタクシの憶測を語ったら全部話してくれました」


 ニコニコ笑顔の裏にある顔がとても気になる。

 その『憶測』が全て正しく相手に全てバレていると勘違いさせた可能性は⋯⋯考えるまでも無いか。


 ここまで話されて俺は思う。

 これって俺達に関係なくね、と。


 「どうしてこのような話をしたかと言うと、知っておいて欲しかったからです」


 俺の思考を盗聴したかのような言葉が飛んで来る。

 魔法を使った気配は無かったが⋯⋯。


 「知って欲しい?」


 「はい。商業ギルドのマスターの持つ力はどんな時でも狙われてしまうと⋯⋯この事を話す事で少しでも信頼関係を築きたいと思っています」


 ⋯⋯本題はここからと言う雰囲気。

 俺とフィリアは自然に息を飲んだ。


 「フィストリアのマスターとご相談して許可を貰いました。カグラ様、お願いがございます」


 「お願い?」


 「はい。先日のパーティでの活躍を見てお願いしたく。⋯⋯ワタクシの専属傭兵になって頂けませんか?」


 貴族の専属か。

 でもそれって別に傭兵ギルドである必要は無い。

 純粋に兵士として雇って貰えば良いだけの話だ。


 だから俺はその後のミネスの言葉を待った。


 「ふふ」


 軽く微笑むミネス。

 俺の考えが見透かされている気がして、居心地が悪い。


 「専属傭兵と言っても堅苦しいものではありません。ワタクシの依頼を優先的にカグラ様がお受けする契約⋯⋯と言うだけです」


 「理由を聞いても?」


 「カグラ様はご自身の意思でワタクシを守る事を考えてくれた、その気持ちに信頼感が高まったのです。貴方の実力と人間性にワタクシは惹かれています。こちらが契約内容です」


 1枚の紙が差し出される。

 俺はそれの中身を確認する。フィリアも覗き込むように見る。


 ミネス=トローネの依頼は優先的にカグラ=アマツキに要請。

 カグラ=アマツキはミネス=トローネの依頼を優先的に受諾。

 専属契約として毎月20万ルークを傭兵ギルド『フィストリア』に納金する事。

 依頼内容により報酬額は随時決めるが、相場よりも2割高く依頼を出す事となる。

 この契約はカグラ=アマツキを拘束するモノでは無く、カグラ=アマツキの自由を尊重した上で有効となる。


 「ワタクシはカグラ様を束縛は致しません。貴方の力はいずれ多くの人が必要とされるでしょう。独占したい気持ちもございますが、それで貴方の自由や環境を奪いたいとは思えません」


 ⋯⋯内容を確認した俺は少し考える。

 俺から見てメリットは多い。

 だが、ミネスから見たメリットはかなり少ないように見える。


 「わざわざ専属にしなくても、直接頼んでくれたら引き受けるぞ?」


 「カグラ、このギルドでは指名依頼は5割増しになるの。だから事前指名制度として専属契約があるのよ。人によってはこの人じゃないと嫌だって言う人もいるからね。何より信頼関係などが深く強くなるのよ」


 「なるほど。指名依頼を継続して与えると考えればこの方が良いのか」


 フィリアの説明で納得する。

 ミネスがパーティの1件だけで俺に対する信頼は大きい気がしなくもないが。

 悪い気分では無い。


 「引き受けるか受けないかは君次第だよ」


 マスターがそう言ってくれる。

 俺は紙にサインする。


 ミネスの依頼なら俺は受けたいと思うからだ。

 互いに利があるならば、迷う事は無い。


 「ありがとうございますカグラ様。必ずや貴方のお役に立てるようになりますね」


 「ん?」


 何か含みのある言い方に疑問が芽生える。


 「あ。言い忘れていましたが、ワタクシは父⋯⋯商業ギルドの職員から離れ自分で商会を立ち上げました。独り立ちですね」


 ミネスが言い忘れる事は無いと、俺の勘が言っている。

 不安定な経済状況では契約を断られる可能性がある⋯⋯と思っていたのだろうか。

 納得出来るのでそこには触れずに、気になる点を聞こう。


 「聞きたい。独立はパーティでの件でか?」


 「はい。と言っても前々から考えていました。パーティの件でその覚悟が固まったのです。ワタクシはまだ、商売をしたいと思っている。それに⋯⋯今は新しい目標もありますので」


 一瞬、暖かい視線が俺に送られた気がした。


 「そうか。応援する。専属傭兵として力になれるなら必ずミネスの役に立つ」


 「はい。ありがとうございます」


 ミネスは商業ギルドのマスターの娘であり職員だったらしい。

 今回のパーティをきっかけに商業ギルドから離れ、自分で商売を始めると。

 ただ、商会を立ち上げるには商業ギルドの許可が必要なので商業ギルド所属と言う形になるだろう。


 正しくは商業ギルドの許可無く商売は出来る。

 しかし、商業ギルドの登録の証が無ければ国民からの信頼と信用が得られず結果として売上に繋がらなくなる。


 「俺は商売とか分からないから詳しくは聞かない。だけど、仕事となれば俺は全力を尽くす」


 「はい。今後ともご贔屓に」


 ミネスから差し出された手を俺は握り返した。

 頬を赤く染めたミネスは大きく微笑み、強く俺の手を握った。


 「⋯⋯これって私必要だったの?」


 「フィリア様はカグラ様の恩人であり教育係、まだ入ったばかりのカグラ様は分からない事も多い。なので貴女の助けが必要だと思ったのです。ご迷惑でしたか?」


 「い、いえ。今ので納得しました。お任せ下さいミネス様!」


 「ミネスで構いませんよ。今のワタクシは一介の商人に過ぎません」


 「は、はい」


 ⋯⋯ミネスはかなり俺達の関係に付いて詳しかった。

 出会ってから24時間も経過してないだろうに。

 かなり気になったが、指摘はしなかった。

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