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新たなクエスト

 時間は遡りカグラを追い出した2時間後。

 ギルドマスターの部屋に1人の男がノックも無いしに入って来た。


 「驚いたな。我々の動向に気づき、巫女の末裔達をバラバラに逃がすとは」


 「親として当然の事よ」


 ギルドマスターはフードとマスクで顔を隠した、如何にも怪しい男と怪しむ素振りも無く会話を始めた。

 元々来る予定でもあったかのように、平然と始まった会話。


 「お前達の好きにはさせない」


 「どうだろうな。既に巫女守りの末裔もお前しか残っていない。巫女としての力は使えないだろう」


 「なら⋯⋯俺の命一つであいつらから手を引いてくれないか?」


 ギルドマスターは心の底から願った。

 しかし、どんなに懇願されても返ってくるのは冷たい答えのみ。


 「それは無理だな。あるべき姿の世界へするには⋯⋯神との繋がりは絶対に断たなくてはならない。故に巫女の血を継ぐ者は誰1人として残してはいけない」


 「だろうな」


 怪しげな男はここで自分の疑問を解消したくなった。

 既に結果は決まっている。質疑応答の時間はあっても良いのだろう。


 「お前はどこまで知っている? 巫女や巫女守り、⋯⋯神代や俺達の事を」


 神代⋯⋯それはまだ神と人との繋がりが濃かった時代。


 「あまり知らん。そして、あいつらに巫女の事について話していない。話す前にお前達に見つかった」


 ギルドマスターは本音ではっきりと答えた。嘘は通じないと考えているのか。


 「そうか⋯⋯だが、知っている事は多そうだな。今からお前は眠る事になる。最後に言い残す事はあるか?」


 「そうだな⋯⋯やはり、我が子達が心配だ。皆、ギルドから追い出す時の顔は酷かった。酷い事をした。拾って育てておいて、あっさりと捨ててしまったんだからな」


 「それは残念だったな。残す言葉はそれで良いか?」


 怪しい男は最後にもう一度、聞き直す。


 「そうだな。我が生涯、子達のお陰で実に愉快で爽快だった⋯⋯俺の事は毒親として忘れてくれ⋯⋯こう、残しておこう」


 「分かった。じゃあな」


 ギルドマスターは一切の抵抗をする事無く、意識が朦朧とする。


 「抵抗しないのか?」


 「抵抗しても⋯⋯お前らには⋯⋯勝てん」


 「マスターとして、終わりは見極めているって事か」


 そしてここに、ブーゲンビリアギルドマスター、カグラ達の親だった人間は完全に意識を暗闇に捨てた。

 その後、火炎がブーゲンビリアギルドの建物を包み込んだ。

 もくもくと立ち込める黒い煙、太陽が空を転がる中でも周囲の人々の視線を集めたのだった。


 ◆◆◆


 「はっ!」


 俺はベッドから飛び起きた。

 どうしてベッドにいるのか、記憶にない。

 俺は必死に昨日の記憶を手繰り寄せる。


 「確か、ニュースを見て⋯⋯それで」


 俺が悩んでいると、食欲が唆る匂いが鼻腔をくすぐる。


 「起きた?」


 「フィリア⋯⋯」


 現れたのは暖かそうな食事を持った、普通に女の子らしい私服のフィリアだった。


 「急に倒れたからびっくりしたよ。野菜のスープとパン⋯⋯食べられる?」


 「くれるのか? 頂きたい」


 「どうぞ。ゆっくり食べてね」


 「いただきます」


 うん。美味しい。

 スープは市販の240ルークくらいで買える、お湯を注げば簡単に作れる物だな。

 パンも同様に市販で260ルークくらいか。

 安定した美味しいさがある。


 「⋯⋯俺が倒れたのは、ギルドホームなのか?」


 落ち着いた俺はフィリアに質問する。


 「そうよ。いきなり倒れちゃってびっくりしたわ」


 「そうか」


 それ程のショックを受けたって事か。

 俺が追い出されたその日に、ギルドが⋯⋯ブーゲンビリアが滅んだ。

 そしてマスターが⋯⋯死んだ。

 火事で⋯⋯。現実味の無い話だ。


 「凄い消失感だ」


 「大丈夫? 休む?」


 「いや、寧ろ働きたい。今、休んでしまうと⋯⋯俺は壊れてしまう」


 恩師であり親だったマスター。

 そんな掛け替えのない存在の死は受け入れるのに時間がかかりそうだ。

 いくら理由も分からぬ追放を受けたとしても、今までの絆は簡単には消えない。


 「⋯⋯マスター」


 「⋯⋯本当に大丈夫?」


 「⋯⋯大丈夫だ」


 俺は洗面所を借りて顔を洗い、鏡に映る自分を見る。

 酷い顔をしている。こんなに酷い顔をしたのは訓練で断食と不眠不休をした時以来だ。


 「ねぇ。気になってたんだけどさ、ずっと左目は前髪で隠してるの? 傷とか無かったけど」


 「まぁな。俺はこれが落ち着く」


 後ろで壁にもたれて立っていたフィリアが質問をして来た。

 俺の髪型が気になる人は多いだろう。

 目が見えないとかは全く無いが、左目を前髪で隠している。


 「目悪くなりそうね」


 「その時は魔法やらポーションやらで回復出来るから問題ない」


 「そう。着替え⋯⋯サイズが分かんないから適当にギルドの男達から借りて来た物あるからそれ着て。今着てるのは洗濯して良いから」


 「近くにコインランドリーはあるか?」


 「良いよ私のとこ使って。まだ住む場所も決まってないんだから。あ、でも家賃は貰うからね。賞金首のお金あるでしょ? ⋯⋯それじゃ、ギルド行こっか」


 俺は着替えをして諸々のやるべき事を終われせてから、フィリアの案内でギルドに向かった。

 ギルドに入ると中は騒々しく、何かあったのだと簡単に想像出来る。

 俺のような新人が急に倒れたと言って、ここまで騒ぎ立てられる事は無い。


 フィリアもおかしな空気に気づいたのか、近くにいた仲間に聞いた。

 その内容を俺にも共有してくれる。


 「トローネ伯爵が商業ギルド建立123周年記念日としてパーティを催すそうよ。その警護依頼をギルドメンバー総出で受ける⋯⋯って話し合いを今トローネ伯爵とマスターがしてるみたい」


 トローネ伯爵?

 いや、それよりも気になる点がある。


 「微妙な数字だな」


 「ほんとよね。ただ相手は商業ギルドのギルドマスター⋯⋯下手な仕事は出来ない。もしもまだ心の傷があるなら、私からも言って参加を見送らせる事も出来るわよ。どうする?」


 フィリアが真剣な顔で俺を見て来る。

 大事な仕事だからこそ、傷心している俺にヘマはして欲しくない。

 ギルドのメンツ、俺の今後の評価への影響⋯⋯色々と考えてくれているのだろう。


 「理解した」


 納得も出来る。

 だけど俺は⋯⋯いや、だからこそ。


 「今は休むと⋯⋯色々と考えてぐちゃぐちゃになって壊れそうだから、許してくれるならやらせて欲しい。仕事に集中したい」


 今は考えたくない。

 いつかは受け入れないといけない現実だとしても⋯⋯今だけは、今だけでも⋯⋯まだ、マスターが生きていると考えたい。

 俺のわがままだ。


 マスター⋯⋯ごめん。親不孝な息子で。

 だから追放なんてされるんだろうな。


 俺達が来てから1時間程でギルマスが顔を出す。

 その横には見知らぬ男が立っている。

 高級そうな服的にトローネ伯爵その人で間違い無いだろう。


 「中々に集まっているな。トローネ伯爵の記念パーティ警護の依頼を受ける事にした。僕はギルドの守りとして残るが、他の者は出来る限り参加してくれ」


 参加者には全員、5万ルークの報酬が約束された。

 ここでの物価は元いた国と違いは無かった。

 5万あればしばらく苦労せずに生活は出来るだろう。


 「⋯⋯カグラくん。昨日倒れたそうじゃないか。もしも不調なら今回の参加は見送る事をオススメする。問題が起こってからでは遅いからね」


 「お気遣い感謝します。ですが、問題ありません。仕事となれば俺は役立ちます」


 「良い自信だ。期待しよう。細かい打ち合わせは現場指揮担当のフィリアを加えてする。他の参加者は他メンバーへの触れ込み及び現場の視察に迎え。最大限の準備を備えて仕事に望むように。解散!」


 ギルドマスターの言葉に沢山集まっていた人達が去って行く。

 昨日、俺もギルドの証は貰っているので視察に行けるだろう。


 「えっと。私が現場指揮?」


 「君が1番高ランクだからね。何より広範囲魔法を得意とする君は俯瞰して周りを見てくれるし、仲間からの信頼も厚い。不服か?」


 「いえ! 謹んでお受けします!」


 「良し。トローネ伯爵、この者も詳細の打ち合わせに同行させる許可を頂けますか?」


 「願ってもない。それでは、落ち着ける場所に向かうとしよう」


 「カグラ、現場の視察に行って来て」


 「納得した」


 俺はフィリアと別れて会場へ向かった。

 場所はトローネ伯爵が用意してくれた案内図を利用する。

 最短で向かうため家屋の上を真っ直ぐ進む。


 俺が1番早く会場に到着して、ギルドの証を見せて中に通して貰う。

 中では会場の設営が慌ただしく行われていた。


 「俺も手伝うとしよう」


 俺は近くで荷物を運んでいる人に声をかける。


 「突然すまない。俺は警護依頼を受けて派遣される傭兵だ。会場設営で手伝える事があれば教えて欲しい。力仕事は得意だ」


 3mを使えば荷物も1度に沢山運べる。

 声をかけた人は嬉しそうに明るく微笑む。


 「ありがとうございます。こちらの想定よりも規模が大きい物でまだ届いてない物も沢山ありまして、わたしはそちらの受け取りに向かいますので、ロビーに積んである物をこちらにお運び頂けますか? 場所は床に魔法の目印があるので、同じ目印の物をそこに置いてください」


 「理解した」


 俺はロビーに向かい、同じように運んでいる人に事情を説明して手伝った。


 「3m」


 5個くらい一気に運ぶ。


 「「「おー」」」


 拍手が送られ少し照れたが、俺は予定通りの場所に運ぶ。

 机の裏などに刻まれた数字と同じモノが床に魔法で浮かんである。

 そこに置くと魔法は消える。


 「これならすぐに設営は終わるな」


 俺がなぜ手伝ったのかと理由を求められたらこう答える。

 現場に馴染むため⋯⋯と。

 ただ細かく見て回るよりも、準備した人と同じ目線で動く事で見え方や感じ方が変わるのだ。


 「⋯⋯意外に、広いな」


 物が増えると感じにくい広さを俺は感じれている。

 これも手伝っているからだ。

 俺の魔法的に距離はとても重要だ。きちんと把握していないとな。

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