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カグラの目標

 ルナは昔、村から嫌われていた。

 望んで無い特異体質と言う力のせいで。

 悪魔だと罵られ、角材などを遠くから投げられた。

 子供からも石ころを投げられた。


 それが当たり前、それが普通、常識⋯⋯ルナはただ苦しみを受け入れるしか無かった。

 力が制御出来なかった頃のルナ⋯⋯苦しみに耐えかねたルナは1度暴走した。

 この時は村の兵士達が剣を掲げ必死に抵抗した事で収まった。


 危険性が増したルナ。

 処刑される流れになったのも当然とされた。

 誰もが畏怖の眼差しを向ける。

 味方はいない。家族さえまるで悪魔を見るような目を向けて来る。


 処刑の時、ショックで力が暴走する危険性を恐れた村の人々は最悪な処刑方法を実施した。

 ルナの力は目で見ないといけない。

 目を貫く事も考えられたが、それで新たな力、あるいは暴走の危険があった。


 そのため目隠しだけで収まった。

 棺桶に生きたまま押し込まれ、村から離れた山の中に放置された。

 飢え死にを狙った処刑方法だ。


 燃やす、矢で貫く⋯⋯棺桶の中で無力化出来るなら他にも方法があっただろう。

 しかし、村の人々は絶対的な不干渉の餓死を選んだ。

 身動きも出来ない狭い空間、光の見えない永遠の闇、聞こえて来るのは棺桶を叩く風の音だけ。


 時間と共に襲って来る脱水と飢餓。

 6歳の子供には当然耐えられない。

 だが⋯⋯救いの手は無い。


 苦しい時間が永遠に感じられた。

 死に直面し力が弱って来た時だった。

 ルナの瞳に光が差し込まれたのだ。


 目を開ければ優しく微笑み、手を伸ばしてくれた男がいた。

 それがブーゲンビリア副マスターのカグラ。

 ルナはブーゲンビリアに命を助けられた。衣食住を与えてくれた。

 力の制御を教えてくれた。生き残る術を教えてくれた。家族の愛を与えてくれた。


 ルナにとってブーゲンビリアの人達は家族。

 誰にも砕けない強固な絆⋯⋯。

 今までも、これからも⋯⋯。


 だが、一通の手紙で告げられるギルド追放の旨。

 弁明も何も無く、ただそう綴られた手紙。


 何かの間違いだと⋯⋯理由を探るために必死に戻って来た。

 まだ国には戻れていない。

 その道中、ルナは再会した。


 自分を助けてくれた、自分に生きる希望を与えてくれた家族に。

 ⋯⋯しかし、その家族はもういないのだ。


 今でも脳裏に過ぎる、助けられた時の言葉。


 『今まで良く耐えた。今日からいっぱいわがままを言え。今まで出来なかった事全部しよう。不安がる事も怖がる事も無い。ギルドの皆がずっと傍にいるから』


 だからルナは叫ぶのだ。


 「裏切り者!!」


 ◆◆◆


 俺は誤解していた。

 ルナの心に抱いている愛の重さを。


 軽んじた気は一切無い。

 だが⋯⋯俺はルナに寄り添えていなかったのだ。


 ルナはまだ11歳だ。

 感情的で子供。大人になって行く段階。

 そんな時にいきなり親に捨てられたら⋯⋯俺だって裏切られたと思う。


 「フィリア、協力頼む」


 「頼むたって、どうするのさ?」


 「少しでもルナの攻撃を引き付けて欲しい。必ず説得する」


 「失敗してるのに、それを信じて良いの?」


 「信じて欲しい⋯⋯俺にはそれしか言えない」


 フィリアはため息を零した。


 「理解した。任せなさい」


 俺はルナに向かってダッシュする。

 本気を出して周囲に鏡を浮かしたルナに死角は無い。

 ルナは数多くある鏡の情報を瞬時に読み取り、脳内で整理出来る。

 そのスピードはブーゲンビリア1だ。


 「ルナ! 聞いてくれ! 俺はブーゲンビリアを裏切った訳じゃない!」


 「嘘つき! ずっと一緒にいるって言っておきながら、他のギルドに入ってるじゃない! それが証拠だ!」


 鉄骨が数本同時に飛ばされる。

 ここからは集中力を上げて行く。


 鉄骨の上に飛び乗りスピードを維持したままルナに接近する。

 その俺を狙って更なる鉄骨が襲い来る。


 「私を忘れないでね」


 それをフィリアが電撃で撃ち落としにかかるが、他の鉄骨が盾になる。

 俺は拳を握る。


 「3m!」


 拳で軌道をズラせば回避は容易。

 しかし、ここはまだルナの有効射程。

 鉄骨は縦横無尽に動く。


 「ルナ、俺達のギルドが火事で無くなった事は知ってるか!」


 「⋯⋯知ってる。だからルナはここで一度拠点を構えているの。もしかしたら仲間達がこの国に流れて来ると思ったから⋯⋯そしたらこの仕打ちよ!」


 「だったら話がはや⋯⋯」


 鉄骨が急加速して上に向かった。

 必死にしがみついて振り落とされないようにする。


 「聞きたくない!」


 「私を忘れない⋯⋯」


 「黙れ!」


 フィリアを鉄骨5本で足止めしながら、俺を空中戦で相手する。

 鉄骨の上を走り地上に戻ろうとする。

 すぐに落下は良くない。無防備な状態を狙って来るからだ。


 真下と真上から鉄骨が挟むように襲って来る。

 大きく回避しないと微調整で攻撃を受けてしまう。


 「しかたない」


 俺はジャンプして落下する。

 それを狙っていたのか、囲い込むように鉄骨が襲って来る。

 隙間は無い。完全に潰される。


 「3m!」


 俺は踵落としの力を使って鉄骨を弾いた。

 落下して行く鉄骨はすぐさま新たな弾丸として俺に襲い来る。

 その全てを足場にして徐々にルナに近づく。


 「ルナ! 俺達のマスターがどうなったかも知ってるか!」


 「⋯⋯ヤダ。知りたくない」


 良し、知っているな。


 「ルナ⋯⋯落ち着いて聞いてくれ」


 「何も聞きたくない!」


 数の増える鉄骨⋯⋯さらに木材か。

 数は多いが⋯⋯俺なら対処出来る。


 「3m!」


 弾き飛ばし、道を作る。


 「ルナあぁぁぁぁ! 聞けぇぇぇぇ!」


 俺は大きく息を吸う。


 「俺達のマスターが、俺達の父親が、俺達の師匠が⋯⋯火事なんかでくたばると思うかああああ!」


 「ッ!」


 ルナの頭の回転は速い。

 故に、この一言で全てを理解する。理解してくれる子だ。


 鉄骨が力無く地上に落ちる。

 制御が出来ない精神の不安定。

 自分の真上にも鉄骨がある事を忘れている。


 フィリアが素早くその鉄骨を打ち飛ばす。


 「⋯⋯この子⋯⋯凄い、わね」


 肩で息をしながらも、ルナをジッと見ている。


 俺は放心状態のルナに近づく。


 「俺達のマスターがもしも本当に死んだとすれば、それは確実に人為的介入がある。黒幕がいるんだ」


 そしてマスターは自分の命を狙っている奴に心当たりがあった。

 だから副マスターの俺以外を依頼で遠い場所に派遣し、派遣先でギルドを除名させた。

 俺達の命を守るために。


 マスターは俺を追放する時、国外を言い渡した。

 きっとあの国に黒幕がいたからだろう。


 「ルナ、俺が新たなギルドにいるのは生きるためだ。知っているだろう? 生きるためには金がいる。金は働かないと稼げない。そして俺達が最も得意で教わった生き方は戦う事だ」


 ルナがゆっくりと俺を見上げる。

 ルナの眼前へやって来た俺は片膝を折る。


 「俺もギルドを追い出された。放心状態だった俺をフィリアが拾ってくれた。俺は恩を感じてる。マスターは言っていたはずだ。恩は倍にして返せと。恩返し、生きるため、だから俺は今のギルドにいる」


 「でも⋯⋯だからって」


 「ルナ」


 俺は諭すように語りかける。


 「俺はブーゲンビリアのメンバーを全員集めるつもりだ」


 「⋯⋯へ?」


 「きっとマスターの意に反してるだろう。だが、俺はそうするべきだと思っている」


 「おに⋯⋯」


 俺はルナを抱き寄せた。

 今まで不安にさせてしまった罪滅ぼし⋯⋯これからどれくらいの歳月を費やせば終わるのだろうか。分からない。


 ⋯⋯いや、終わらなくて良い。

 終わらせる必要は無い。


 「俺は仲間を集め、マスターの死の真相、ギルド崩壊の真相を探る⋯⋯そしてもし黒幕が自己中心的な理由でマスターの命を狙ったのなら⋯⋯俺は容赦しない」


 「お兄ちゃん⋯⋯」


 「これは俺個人の気持ちだ。ルナ達を巻き込む気は無い。だが、真相を探る手助けはして貰いたい。俺一人では出来る事は限られる。仲間の力が⋯⋯家族の力がいるんだ」


 ルナの瞳から流れる雫。


 「これが今の俺の夢であり目標だ。そのためにはルナが必要だ」


 俺は一度ルナを離し、目を合わせる。


 「ルナ、一緒に来い。一緒にブーゲンビリアを取り戻そう。⋯⋯今度こそ、俺はルナを絶対に一人にさせない。絶対にだ」


 「ッ! おに、お兄ちゃんっ!」


 ルナが力無く、俺に抱き着いて来る。

 俺も優しく、それを返す。


 「怖かった」


 震える体と声。


 「ずっと一人で怖かった。孤独が辛かった! ⋯⋯もう、一人にしないで」


 「当然だ。俺は⋯⋯ルナのお兄ちゃんだからな」


 こうしてルナは俺達の元へ来る事となった。

 ルナと俺の目的は一緒になった。

 まずは仲間を集め直す事。


 俺よりも圧倒的に強いマスターは火事なんかじゃ死なない。

 必ず裏になにかある。

 俺はそれを探り、そして黒幕を炙り出す。


 そして⋯⋯そして⋯⋯俺はそいつを⋯⋯。


 この復讐に仲間を巻き込む気は無い。

 これは副マスターで一番長くマスターと過ごしておいて気づけなかった、俺の罪だ。

 罪には償いが必要だ。だからこれは俺だけの⋯⋯目的だ。


 ルナを仲間に加えてから二日後、俺達の歓迎パーティが開かれた。


 「ルナお得意の空中シャンパンタワー」


 『おおおお!!』


 空中でグラスをピラミッド型にして、その一番上からシャンパンを流す。

 ルナがギルドで良くやっていた余興だ。


 パーティは楽しく進み、ルナも赤ワインで顔がだいぶ赤くなって来た。

 そろそろ酔いが心配だな。


 「ルナ、そろそろ止めてポーションを飲もう」


 「うぇ? みょう?」


 「呂律が回ってないぞ」


 この国も前の国と一緒の法律で、20歳未満の人はアルコールを摂取した後、30分以内に回復薬を飲まないといけない。

 なんでも、そうしないと早死してしまうらしい。

 国的にはそもそも酒を飲む事自体推奨されていない。


 「ポーションは相変わらず苦い」


 「しかたないさ。これも生きるためだよ」


 ルナの頭をポンポンと撫でる。


 「お兄ちゃん」


 「ん?」


 「ごめんね⋯⋯あんな事言って」


 「なんの事だ? 良く分からんから謝る必要は無いさ。⋯⋯ありがとうなルナ。来てくれて、頼もしいよ」


 「うん!」


 にこやかに笑うルナは、宝石のように輝いていて可愛かった。

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