子猫を拾うがごとく育んだのは、ただの“事故愛”だった
ライトグリーンの色調に囲まれたボックス席で
私はその子の告白を聞いた。
「気にすることはないよ」
そう言ってあげて……
私は指の震えがコーヒーの水面を揺らさないようにコンマ何秒か矯めてからカップの耳に指を掛ける。
いつかは……カップの耳ではなく、この子の耳に……この指を掛けてみたかった。
その邪な想いを露呈させずに今日までやって来れたのに……
「野暮な事、聞いてしまうのだけど……カレは優しくしてくれた?」
この子の……可愛らしい耳がみるみる染まり、コクリと頷く。
「そう、良かった」
この私の言葉にピクン!と反応したこの子の頭に、私は言葉を振り掛ける。
「安心した。荷物を下ろしてホッとした様な気分だよ」
この子の……涙で微かに潤んだ瞳が私に向けられて
私の胸は限りなく締め付けられる。
「結愛は私には扱いづらいよ」
すげなく言うと、この子は……結愛は……くちびるから僅かにため息を漏らし小刻みに肩を震わせる。
可愛い結愛 愛おしい結愛……あなたの方から「ライナスの毛布」みたいになっているこの私を打ち捨てるべきなのに……
だって、そこに染みついているのはあなたの匂いではなく……
使い古された私のニオイなのだから。
あなたにとって
まだ不慣れなオトコのにおいは
怖くもあるだろうが
あなたはそこで自分を咲かせる事を選んだんだ。
―だから―
私がケリを付けてあげる。
私は結愛の頬を撫でるふりをして手をその髪の中に挿し入れて
いやらしく自分の欲求をカノジョの耳に施すと
彼女は身をよじって顔を背け“抵抗”の指を私の手の甲に掛ける。
だけど私は愛撫の指使いを止めないまま、反対側の耳にくちびるを押し当ててカノジョに囁く。
「あなたも他のコと同じ! いつまでもお姫様扱いはできないよ」
これがトドメだ。
結愛はドンッ!と私を突き飛ばし我が身を庇う。
そう!それでいい。
そうやって庇った我が身をカレシの前で開いて
そいつを突き飛ばさず
もちろん突き飛ばされもせず
仲良く
幸せになればいい。
私はバインダーに挟み置かれている伝票を掬い上げ
そのまま立ち去る。
外はグレー
いらだつクルマ達がクラクションで互いを嚙み合っている。
バカな奴ら
アイツも
コイツも
そして私も……
何度同じ目に遭っても……
懲りない私も……
なのに別れは……
いつでも
激しく胸を抉る。
歯を食いしばって飲み込んでいた涙が
後から後から溢れて
私はみっともなくしゃくり上げる。
ああ本当に私はバカだ!!
初めからこうなる事が分かっているのに!!
恋が
この薄汚れた胸をノックするたびに
何か違う未来を夢見て
ドアを開けてしまう。
「でもさあ!!」
私は車の行きかうグレーの橋の上で
深緑に沈んだ緩い流れに向かって叫ぶ。
「キモい!!って蔑まれるより遥かに幸せじゃん!!」
叫んだ拍子に
腐れた川の流れの上に
腐れ涙の雨を降らす。
こんなの
何の役にも立たない。
何の役にも立たない私だから
何の役にも立たないあのコ達との快楽に享しよう。
体がケイレンするほどのバカバカしさの波を
この身に被ろう……
。。。。。。
イラストです。
主人公のイメージ画
下手な元画をAIで綺麗にしてもらいました(^_-)-☆
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