八話 増えた騒音
前回のおさらい。
席替えがあり、限界ボッチ化。日本にはあるまじき銃声のような爆音。
今回の転校生は三人きたらしい。
そのうち二人はまりも君の知り合いだ。
あいさつの後、馴れ馴れしく俺のまりもに近づき、
あろうことか、腕を絡ませ、組みやがった。
二人だ!二人ともだ!
くそぅ......なんて羨ましいんだ......
まりも君と腕を組むなんて!
腕を絡ませながら、「やっと会えたわ!」なんてことを意気揚々と言っている。
許せん、俺もまだ組んだことないのだ。
なのにべたべたと俺のまりもに触りやがって....。
それよりも、いつの間に女の子を口説いていたのか、
それが謎だった。
まりも君はくそ陰キャコミュ障童貞まりも擬きだ。
男はおろか、子供の前でも「アッ、ア、アッ」としか言えなくなるのに?
そんな社会性皆無の男が、女の子を誑かす?
ありえない、地球が三回、回ってもないだろう。
おそらくコミュ障発動以前に、会っていたのだろう。
以前、中一の時に発症したと自分で言っていた。
そこから推測するに、中一以前に初めて会った。
ということは...
移動教室とかで知り合ったのではないのだろうか?
...フラグだ、フラグが立っている。
なんと腹立たしい。
学生だぞ!青春なんかに腑抜けず、勉学をしろ!勉学を!
全く、なんて破廉恥な。
紳士淑女の高校生が、全く。
とはいえ、ついにまりもくんにも春が来たらしい。
春季到来、
アオハル開幕
青春謳歌
思いつくだけで自分とは関わることのない四字熟語を並べてみる。
聞いたところによると、あまり女子に好意的な態度をとられたことがない、と言っていた。
きっといい顔をされることは少なかっただろう。
まともな恋愛もしたことはなかっただろう。
後押しすることはもちろんだが、そんな友達の門出をどうするべきか?
........
友達として彼をできる限りサポートする、というのが最終的な結論だった。
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そしてもう一人、以前話していた香夜の友達、
自己紹介の時に風葉瑠華とぶっきらぼうに、なまえを言い放った。
ちなみにさっきの二人の名前は、ちゃんと聞いてなかったので、忘れてしまった。
後でまりも君が紹介してくれることだろう。
香夜の友達ということと、あまりにインパクトが強すぎる二段構えで、気を取られていたのだ。
一目見た時の感想は、威風堂々、そんな言葉が浮かび上がってくるような様相。
よく言えば、芯がありそうな性格、
悪く言えば、何とも気が強く、なんとも毒がありそうだと思った。
なるほど、よくあの猛獣と友達でいられるな、と思っていたが、
毒を以て毒を制す。
この言葉通りの性格なのだろう。
自分の中での疑問がすっと解決した。
そんな彼女なのだが、何故か分からないが、
目が合うと鋭く、そしてにらむような視線を向けてきた。
怖い。
ちびるくらいには怖い。
それでも頑張って挨拶をしようとしていたが、目が合うたびに睨まれたので、大人しく席に戻った。
なんで戻ってんだよって?
怖かったんだからしょうがないじゃないか。
うん、仕方がないってやつだ。
彼女に睨まれたときは、「ガーン」そんな効果音とともに、金槌を落とされたようなショックを受けた。
外面はふーん、ほーんみたいな、ショック受けてませんよ?みたいな体裁を取り繕っていた。
だが、それも綻びかけの体裁だ。
何故睨まれているのか、原因は何なのだろうか?
そんな事が頭の中をぐるぐる回る。
身なりは普通なはずだ、態度もなるべく、フレンドリーにしているはず。
うーん、うーん。
幾ら経っても結論は出なかった。
香夜に相談することにしよう。
「はぁ」とため息が漏れる。
俺とて、人からの悪意に対する耐性が、そんなにあるわけでは無いのだ。
人並み、いや人並以下だ。
蚤の心臓なのだ。
俺の一パーセントしかない勇気は、もうすでに砕けていた。
ーーー
帰り際、まりも君がルンルンになって話しかけてきた。
「いやー、今日二人と帰えることになっちゃったから、また今度帰ろう。」と意気揚々といってきた。
語尾にwが付きそうなテンションだ。
いつもなら、このくそまりもが!とも思うだろう。
だが、対峙する前にすでに俺の心のライフは1HP。
少しでものろけを聞けば、ゲームオーバーになって、目の前が真っ暗になることだろう。
ついでに所持金も刷られることだろう。
なので、俺は平静を装いつつ、「また今度帰ろう」と告げ、一人帰路に就いた。
とぼとぼと悲壮感あふれる足取りは、いつにもなく遅い。
帰りにいちゃついているカップルの横を通った時には、かなり堪えるものがあった。
隣を通った時の敗北感と、無常感が拭えないまま、一人歩いて帰った。