六話 眠り姫との会話は続く
「そういえば私の友達がそろそろ転校してくるはずよっ!!」
「え?友達いたの?」
こちら側をキッと睨んできた。
怖い。
そして、唐突に言われた。
まぁ、でも転校生に関しては想定内。
日本国内でも、医学に関しては指折りの高校だ。
それにも関わらず、転入生がかなり多い。
去年は32人転校生がいたらしい。
週を跨いだら、空いている席に人がいる?!みたいな状況になることもあるらしい。
ただ、風習というか、慣れというべきか。
転校生を露骨に省いたりなんてせず、フレンドリーに話しかける人の方が多い。
この対応も、転校先に選ばれやすい要因の一つなんだろう。
「だから、仲良くしてあげてねッ!!!」
「んーー、なるべく善処します。」
ムッとした顔で、不満そうに口元をへの字にしている。
「なんでよッ?!!仲良くしてあげてよ!!」
「えーー、だって俺話せないよ?まだ病気も治ってないし、もっと労ってよー」
そう言うと、自慢げな顔というか、
ドヤっとした顔というか、
待ってました、と言わんばかりの顔で、椅子からドンっと立ち上がる。
「私実はそろそろ病院だけじゃなくて、学校にも行けそうなのよッ?!!」
「え!本当に?よかったじゃん!」
俺らしくもなく、子供のように。
はしゃぐ様に、喜んだ。
久しぶりに、こんな喜びを露わにした気がする。
はぁ、、、よかった。本当に。
ん?おかしい。
俺がこんなに喜んでいるというのに、香夜はムゥとした顔で不満げだ。
なぜ?何に対しての不満なんだ?
頭の中を駆け巡らせる。
あーーーうーーー、うーん、んんー?
「なんでブツブツ」
何故か、不貞腐れながら、ぶつぶつ言っている。
なんと言ってるかは、
いつものばかでかい声量じゃないので、聞き取れない。
耳を極限まで研ぎ澄まし、五感全体を集中させる。
神様、おらに力を分けてくれーと、心の中の神に伝える。
すると、神様パワーのおかげなのだろうか、少し聞こえてきた。
「なんで、頑張ったのをゴニョゴニョ。」
?
はてなが先に浮かぶ。
どういう事なんだ。
いや、目の前にいるのは眠り姫なんて言っているが、ほとんど獣系女子だ。
ちょっとだけ、じゃなくて、ものすごい荒々しいケモナーなのだ。
もっと単純なはず?
うーん おーん あーうー、
ハァ!そういうことか!?
試しに香夜の方近づいていき、自分の膝の上に座らせ、頭を撫でてみる。
「んふふふぅ♪」
当たってたらしい。
つまりは単純に褒めて欲しかっただけだった。
なんて可愛いんだ!
決めた。
やっぱり、この子を何処の馬の骨かも分からんやつにあげるもんか。
この子はオラのもんだ。
ぐへへへ。じゅるっ。
「私頑張ったんだからッ!もっと褒めて!甘やかしてッ!!!」
「あー、よしよし、眠り姫ちゃんは偉いねー、すごいよー、頑張り屋さんだねー。」
彼女を高校生としてみてはダメなのだ。
イメージは、保育園児。
それも、とびっきり暴れん坊者の、傍若無人の子として扱う。
これが正解なのだ。
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あやしながら、頭を撫で続け五分が経過した。
いつの間にか香夜は寝ていた。
治療薬の副作用か、それとも単なるふて寝か、
なんにせよ、なるべく動かない様に、手を後ろのベンチにつける。
下を見れば、整った小顔がそこにある。
安心した様な、幸せそうな、そんな寝顔をしている。
この時は確かに眠り姫だと、そう思えるくらいには美しすぎた。
ただ、彼女の心臓の音色は、いつ鳴りを潜めるのか、分からない。
明日かもしれないし、明後日かもしれない。
ネガティブになってはいけない、とは分かっている。
ただ、彼女がもし居なくなってしまったら、、、
と考えてしまう。
怖いとも思ってしまう。
「頼むから、俺より先に逝かないでくれよ。」
ぼそっと、本当に小さく消し飛んでしまいそうな声量で、そう呟いた。
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眠り姫は全く起きる気配がないので、おんぶをして、病院に運ぶことにした。
でも、後少しだけ、今を胸に刻んでおきたい。
今日は綺麗な満月で、
明日が少しだけ、
ほんの少しだけ、
美しく見える様な、
そんな気がした。