四話 洋菓子とバスケットと、とろろと、めかぶ
先程やっと授業が終わり、昼食になった。
わーい。
「今日は何食べに行くんだい?」
まりも君がそう聞いてきた。
うちの高校には学食があるが、あまり美味しくないことで有名だ。
なので、いつも近くの店に、食べに行くことにしている。
店を決める時は、二人で相談しながら、その日の気分や好みで決めている。
たまに全く意見が合わず、喧嘩になることもある。
最終的に謝るのは、いつも俺なのだ。
案外まりも君は頑固で、譲らないタイプだから毎回折れてしまうのだ。
なので毎回、慎重に聞いてみるという、試みを行っている。
「うーん、そうだなぁ、コ○ダ珈琲とかどう?」
マリモくんの顔色を伺う様に尋ねる。
「いいね!それじゃあ、一番近いところに行こう」
少し甲高い声でそう答える。
案外、近いところに店があった為、電車ではなく、徒歩で向かうことにした。
とんでもない真夏の炎天下の中、二人ともフラフラした足取りで向かった。
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「カラン、カラン」
扉を開けた時特有の音が鳴り響き、店員に人数を伝え、席に座る。
水を飲もうとしたとき、同じ制服を着た女子がまりも君の後ろの席に座っていた。
後ろ姿だが、髪の長さから、女子生徒だということが分かる。
気まずいな、と思いながらも、今更、席を変えるわけにもいかない。
なので、無視を決め込む事にした。
そっとその事をまりも君に伝えようとする。
しかし、伝える前に、マリモこと吉野くんの甲高い声が店内に響てしまった。
当然だろう。
まりも君は後ろに座っているので、気づくわけもなかった。
首をぐっと上に上げながら、席の様子を伺う。
さっき座った時には
「私トロロ大好きなんだよね。」
「えー、わかるー、とろろとめかぶと納豆一緒に混ぜて食べるとめっちゃ美味しいよね〜」
とか云う、女子高生らしからぬ会話で盛りがっていた声が、今はプツッと途切れていた。
だが、バレたかどうかはまだ分からない。
……ちょっと怖いので水をちびちび飲みつつ、席から目線を外し、俯いた。
……もうそろそろいいだろう。
少し時間が経ったので少し顔を上げてみることにした。
すると、先ほど迄の、とろろ、めかぶコンビはいなくなっていた。
そして、店員が席を片付けているのを確認する。
ほっと胸を撫で下ろす。
だが、ほっと胸を撫で下ろしたのも束の間、まりもくんが、なんだかきょどっている。
目も泳いでいるし、心なしかキリッと、した顔をしている様な気がする。
なんでだなのだろう?
「アノッ、ナンデココニ?」
まりもくんの上擦った声が聞こえる。
嫌な予感がする。
すっと左側をゆっっくり向いてみる
「ひっ?!」
変な声が出てしまった。
そこに女子がいるからだ。
だが、明らかに距離感がバグった近さで、座っている。
なんで?どうして?と聞く前に、メニューをとろめかツインズが、勝手に物色している。
「私コメチキバスケットとクロノワールでっ!えまちゃんは!?」
「私は、、、なんでもいいわ。」
「じゃあ!!カツサンドね!!」
「……そんなには……食べれないかも」
「大丈夫!!私が食べるから!!」
当然の様にあたかも普通なように、そんな注文をし始めた。
しかも、成人男性でも食べきれなさそうな量を軽々と頼んでいる。
食べる子はよく育つと聞いたことがある。
きっとそれは本当なんだろう。
明らかに還元されている部分がある。
二つの巨峰が今にも爆発しそうだ。
恐ろしい還元率の偏りだ。
政府の財源のような偏りだな。
まるでふるさと納税だ。
ぱっと二人の顔を見る。
一人は曇天 心晴
見た目は肩の前に垂れ下がっている様な、ウルフカット。
うちの高校は髪染めは自由なので、毛先や毛根などに、白いメッシュらしき色がはいっている。
何故かわからないが、必ず毎日一回は話しかけてきては、
年下の弟にするかの様なだる絡みをしてくる。
うん、うざい
でも、誠実だ。
勉強もできて、人に対して優しい。
清楚なのか、ギャルなのか、よくわからない。
清楚風なギャル、ということにしておこう。
そして、もう一人の方は、気だるそう表情をしている。
無機質という言葉が似合いそうな雰囲気。
何とも取っ付きにくそうだ。
見た目は恐らく、ショートカット似合う京都美人顔だ。
所作は一つ一つが丁寧で、落ち着いて見える。
教養がある様に見えた。
座っているから分からないが、
隣の曇天さんよりも、頭ひとつ分くらいは、余裕で超えている。
髪型は、お団子結びだ。
その髪を、綺麗な空色の様な紐どめでとめているようだった。
だが、髪が肩に滴るくらいだったので、お団子というよりは、ハーフアップだ。
言動とは裏腹に少し幼い顔立ちだと思う。
「ねぇ、二人は何を食べるの!!?」
「ボクハ、イズモクントッ、カツサンドヲシェアシテタベマス。」
きょどりすぎだ。まりもくん。
そんなまりも君の姿を横目に、俺は無視を決め込む。
そもそもそんな喋れないし、目を合わせて喋れない。
人と一定以上近づくと動悸がして、呼吸が乱れる。
何故かわからないが、焦燥感と不安感で一杯になる。
これは多分病気だ。
不安障害の類なんだろう。
でもこの二人に対しては症状が薄い気がするような...。
なんでか分からないが、良いことであることは確かだろう。
「へぇ!!余ったら私にも頂戴!!」
曇天さんがそう言ってくる。
どれだけ食うのだろうか、、、
お財布事情も恐ろしいが、カロリーはもっと恐ろしい。
2000キロカロリーは絶対超えているのだ。
昼の一食、一食でだ。
もはや狂気だ。怖い。
まぁ、きっと食べた分は、効率よく、必要なところで循環されていることだろう。
「あぁ、好きなだけどうぞ」
とりあえずそう言っておく。
そうすると彼女の輪郭がばっと、こちらの方に向いてくる。
頬あたりをにやーっとさせ、ニヒルに微笑んで来る。
「そっかぁー!!私にどうっっしてもあげたいんだねぇ。」
と頬杖を吐きながら言ってくる。
安定のウザさだ。
「いや、大丈夫です」
「どうしっっても!!ぜひ曇天さんに上げたいっって言うのであればっっ!食べないことも〜ないけどなー」
これが長女からいじられる弟の気持ちなんだろうか……
なんかうざったらしい様な、鬱陶しい様な。
好きな子のこと、いじめちゃうタイプみたいだな。
「お待たせしましたーー」
店員さんが料理を運んでくる。
曇天さんは、子供みたいに目を輝かせる。
乳児なんかがこんな表情をしているのではないだろうか。
そんな表情が、一気に変わり捕食者の顔になった。
獲物に飢えているライオンの様な勢いで、貪り食べている。
食べる、では決してない。
貪っている。
「ふぅんぬ!!!」
唐揚げからブチィッッと明らかに、普通に食べてたら出ない音が鳴り響く。
「バキッ!」とも「ボキッ!」とも、とれるような音が聞こえる。
人の骨を折っているのだろうか?
この女、見栄えなんて気にしちゃいない。
クラスメイトに見られたら、十人中九人が「ウワァ」と思う様な顔。
そんな、尊厳が破壊された顔で、食い荒らしている。
一方でエマと言われていた子は、お上品に途中までナイフとフォークを使っていた。
そう、「使っていたのだ。」
だが、途中でフォークで刺したクロノ○ーるを落としてしまった。
イラァとした表情を浮かべたかと思うと、
次の瞬間、ナイフとフォークを放り投げ、グワアッッと手を伸ばし始めた。
そして、そのまま素手でバクッッと、食い荒らし始めた。
隣の席はサバンナの無法地帯と化した。
一方で僕たち、上流階級組は、きちんとした礼儀作法がある。
なので、一つの皿に乗ってあるカツサンドを、分け合って、食べ合っていた。
何故か食べている途中、まりもくんが食べさして欲しそうに、もじもじ上目遣いをしてきた。
そんな姿にきゅんっと、してしまったのだ。
可愛すぎて、えずいてしまったのだ。
なので、自分の手に持っていた食べ欠けのカツサンドを口に、力ずくで入れこんだ。
そうすると、何故かまりもくんも俺の口に無理やり、入れこんできた。
隣では餌にありつく、無法地帯の野生動物の動物園。
かたや、隣では男同士があーん❤️しあっている、地獄の状況と化した。
その様子はさながら、地獄という他ないだろう。
狂人軍団の完成だ!
側から見れば、異常者の集団としか思われないことだろう。
俺がこんな集団見かけたら、絶対やばい人たちとしか思えない。
その証拠に、子供が泣き叫んで、逃げるように親と店から出て行った。
俺でもそうだろう。
隣を通る事は愚か、近づきたくすらない。
自覚はある。
自覚があるタイプの狂人なのだ。
あぁ、迷える子羊たちをお導くださいませ、メシアよ。
救いは来なかった。
血迷い過ぎていたらしい。
なんやかんやあって、結局完食をすることはできた。
動物園と楽園が同時開催の運びとなり、僕たちは食べ終え、会計に行き、店を出た。
だが、人間として大切だった、何かを失ってしまった。
そんな喪失感を感じたまま、膨れ上がったお腹を摩り、学校へ戻って行った。
会計の裏側
何故か、食べた量が全然違うのに割り勘になった。
そのことを尋ねても、シカトし続ける二人を攻めつつ、まりもくんと一緒に多めに払ったのは、二人の秘密だ。
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女の子だったら、なんだかんだ言って、この二人は払ってくれます。
ちょろいので。
まりも君がすごい自主的に、払おうとしてくれます。
それに押される形で、主人公は払わされました。
なので、女性の方は是非、まりも君と食事に行ってみてください。
ただし、男性の方はお気を付けください。
まりも君は、強制的に割り勘にしようとするので。
悶々とするmouでした。