三話 マリモとの邂逅
「ちゅんちゅんちゅんちゅん」
そんな鳥の囀りが聞こえて、朝日が差し込んでくる。
なんか…うーん…ンフゥー
あたまがまわんないな。
やばい。
ねむい。
ぐぅっと体を伸ばす。
腕と背骨をぐうっと伸ばすと、ボキッという関節が悲鳴をあげている。
ベットから立ち上がり、だらしないあくびをする。
さっと身支度を整え、家の鍵を閉める。
「行ってきます。」
返事が聞こえないのを意にも介さず、足早に駅へと向かう。
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「おはよう!今日もいい朝だね!」
駅に着くと、いつも通り。
まりもが居た。
身長169センチの背丈から、そのまま目線を移す。
そこには、自分の目線よりも数段低く、もじゃもじゃと養殖されている、「マリモ」があった。
ちなみに推定身長159センチ。
以後、彼のことは、呼称マリモくんで、いかせてもこととする。
「おはよう、吉野くん」
吉野というと、で思い浮かべる顔に、赤ちゃんの様な手。
少し肥満気味の体を合体!変身!した様な容姿をしている。
以後、吉野顔と言ったら彼の顔を思い浮かべよう。
つまり、tha吉野という顔だ。
朝にも関わらず、通勤ラッシュどころか、人すら疎かになる電車に乗り込む。
それはそうだろう。
ここは度がつくほどの田舎なのだ。
海岸沿いの街であるため、観光客向けのでかい商業施設がある。
だが、それもポツポツとあるだけなのだ。
それ以外の施設は殆どないド田舎なのだ。
無論、悪いとこだけではない。
生い茂っている草木の森を抜けると、視界が晴れる。
その時に、電車の窓から、見えるだけの視界全てに入り込む海が見える。
この風景だけはいつみても美しいと、毎度の如く思う。
電車内での会話はごく普通だ。
昨日実装されたゲームのアプデがどうとか、
昨日の課題が多すぎておわらないとか、
なんで髪型マリモなの?などなど。
おっと、最後のは心の中に留めておくことだった。
そんなことはともかく。
こんな会話を気まずくならないくらいには、彼とは気楽に話せる関係だ。
彼は話す時に、一つ一つ楽しそうに笑って話すから、こっちまで嬉しくなってくる。
電車内では、そんなくだらない会話が、こだましていた。
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駅から徒歩35分、俺は学校内に入り、自分の席についていた。
前の席ではマリモ君が座っている。
後ろの席、斜め後ろの席、右側の席の人とは喋ったことがない。
というか、全員隠キャなのでほとんど喋らない。
なので、この精鋭部隊につけられた名称はこうだ。
「隠ノ神五天神」と…………
………誰だよ、つけたやつ、
この戦国時代の特に強かった武将五選みたいな名前のインパクトはすごいらしい。
たまにボソボソとこっちを見ながら喋ってくる。
ちなみに、まりもくん同伴で。
クソがッ、なんでこんなことにッ!
お恵みをくださいって言われたって、恵んでやる金もご利益も全くないのだ。
むしろ、こっちが恵んでもらいたいぐらいだ。
まぁ、でも仕方ないのかもしれない。
「吉野くん。なんで僕たちは友達がいないんだ?」
「そりゃぁ、話さないからだろう?」
正論パンチが胸に突き刺さって、心を抉る。
こんなストレートパンチが来ると思っていなかった。
だが俺も受けてばかりではない、反撃をすることにした。
「君だって友達いないだろ?」
前を向いていた首をぐるりと90度回りそうな勢いで振り向いてくる。
……「え?」
……「ん?」
…沈黙が場を支配している。
お互い全く喋らないのに、目線を一切逸らさず、見つめあっている。
側から見ればめっちゃキモいであろうことも、承知の上だ。
なのに目線を一切合切、逸らさない。
「スゥー、[僕は]友達はいる。」
「[いない]だろ?」
「………。」
釘を刺したのがどうやら成功したらしい。
今まで合わしていたはずの、目線を逸らし、今にも泣きそうな顔で少し俯いている。
ちなみにブーメランなので、俺も少ししょげている。
「キーンコーンカーンコーン」
昔ながらの鐘の音で授業は始まったが、俺たちは俯いたままだった。