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時の遺伝  作者: 砂土蛾
第一部 デビルズ・プログレス
4/6

東京地下都市到着

 今までの寂寥感が肉体という牢獄から解放されたかのように冷たさは外に出て、老婆の身体が温まっていった。彼らは、駅に入った。


 階段を上ると、改札が見えた。


 改札のある部屋に入ると、同じ軍服を来た者が改札に立っていた。受付のような感じだろうか。同じような茶色がかったグレーの軍服を着て腕を組んでいる。駅は、どこか廃れており、色の抜けたコンクリートの壁や、鉄の錆が目立つ改札は、老婆に氷の中に閉じ込められたのかと錯覚させるほどであった。


臨時改札。


線路を毛細血管状に分けさせ、閉鎖された駅を使用し、避難誘導をした。国家の計画は、予定通り進んだ証拠である。


「避難民1名。西側はこれで了です。」


そう少年が説明すると、受付の者は「よし。」とうなずいた後、改札を開けた。改札を通ると、階段を降りると、そこには列車が止まっていた。列車の目的地は、新地下東京都市のようだ。


方向板には“特急 新東京都市行き”と書かれており、地下は省略されている。


“新東京地下都市“


小雲取山(こくもとりやま):東京・山梨の境にある標高1935mの山—————————の地下に作られた地下都市である。


(かつ)ては未開拓だった地、新地下東京都市である。列車の中には、老人が多くいて若者はもう新地下東京都市に避難しているのだろう。新地下東京都市は、大地下都市や、第2東京とも言われている。老婆を座席に座らせると、少年は列車から出て先ほどの改札へと向かった。


「第3班集合完了です。」


少年が戻ってくると、改札の受付に集まっていた者らが受付の者にそう云った。すると、受付の者が他の駅に通信を開始し、「第二班完了」と報告した。その後、着かれたように溜息をついた。


「老人方も、もっと早く避難していればこんな急がなくてもよかったんですがね。」


受付の男は、肩の力を抜きそういった。


「でもまあ、家族の忘れ形見の家を手放す怖さもわかる気もします。」


少年は、真面目な顔で老婆の泣き顔を思い出して少し胸が痛くなった。その所為で、愚痴とわかっていても反論したくなってしまったのだった。そう思案しつつ、階段を下がっていく。


「手放す怖さか…自分よりも家が大切なんか?そんな人にはなりたくねえな。」


迷彩柄の防止を被った男が皮肉ったらしく笑いながら云う。目元は、帽子に隠れてよく見えない。


西沢 亮(さいざわ りょう)


 俺は彼を迷彩帽子と呼んでいる。


 老人も”家より命方が大切だと“はわかっているはずだった。老婆のあの悲しげな眼差しは、家を思う寂寥感とこれからの希望を、目に涙を浮かべて見ていた気がする。


 あそこには、まるで大切な人が残っているかのようだった。


 親の形見…俺にはもうない。遺品も全て置いてここへ来た。崩れ去る家、燃え血のような狂気を滲みだす火種、炎。熱、パチパチと音を発し、徐々に黒くなっていく柱。壁。そして、木が縮み、両親は下敷きになった。全くもって両親の面影はなかった。


 そこには、“家族っぽさ”というものは感じなかった。しかし、焼ける前の家、朗らかな色の屋根や壁は、母親のたれ目のようだった。


……しかし、その目が燃え、蒸発し、黒くなっていくのは見るに堪えなかった。


 そう、まるで家が燃える光景は、家族が燃えるようだった。


「家が、夫同然に見えていたんじゃないでしょうか?」


 俺は、その時、老婆の眼を見た時に思案した事柄を言ってみた。


「……そうか。」


 何か言い返そうとしたかのように迷彩帽子は口を開いたが、思い直し口を閉じてそういった。そのあとは、少しの沈黙が訪れた。その沈黙は、数秒で断ち切られることになったのが幸いだ。


「何ぼーっとしてる。もうじき発車だ。早く乗れ。」


 受付の男は、少年らを少し手で押して車両の中に入れたのち運転席のほうへと向かった。迷彩帽子は、周りを見回してから、「……そうだな。」と少し寂しげに下を向いた。


「うおっと」


 列車が動きだしたことで、後ろに引っ張られて倒れそうになり咄嗟に声が出た。焦った顔を見て、軍隊らは笑い合った。列車が進むと、外の光景がどんどん過疎になっていった。人一人いない町という概念的な過疎ではなく、ビルなどの建物がどんどん減っていく方の視覚的過疎だ。


「この先に大都市があるなんて想像つくか?」


 窓に映る木々の景色を見ながら迷彩帽子はつぶやいた。小雲取山は、その名の通り山だ。


「つかねえな………

 

 もうすぐ山が見えてきてもいいんじゃないのか?」


 1時間半ほど電車で揺られている。悪魔には、人口密集地点が分かるという仮説があったが、何故か逃げた人間は追わなかった。


 人工物を崩壊させることを目的にしている可能性も有るが、そんな万能な機能があるとは、誰も思案出来るほど狂ってはいなかった。


 地下は、攻撃が直接的に当たらないためだとも考えられるが、簡単に云うとこれだ。


「でも、悪魔は人の密集してる地点を見つけ出せるんじゃないか?」


 都市を的確に、それに人口が多い順に壊滅させているため、人が密集している地点を割り出せると必然的に考えることができる。確定に近い確率で割り出せるとも。


「作戦説明何度もされただろうが……戦車、戦闘機で気を引くんだよ。」


«終点:地下東京都市、終点:地下東京都市、お荷物のお忘れがないようご確認お願いします。JADの軍服を来た者の案内に従い、避難をお願いします。»


「やっと着いたのか。」


迷彩帽子は、背伸びをしてポキポキと身体を鳴らした。

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