悪魔打倒会議
JADーーー日本対悪魔組織。
「もう後戻りはできそうもないな。悪魔を殺す組織を作り上げたということはーーー」
白銀の髭を持つ老人が、パソコンを眺めながら「うーん」と唸った。その言葉には、悪魔を倒しても良いのかというのも含意されていた。
悪魔が、今までの人類の行いを淘汰しているという噂を耳にしていたからだ。老人も根も葉もない噂など真に受けるというわけではないのだが、いざ悪魔を打倒する計画が立案されてみると、知恵の実を食べたアダムとイブのように罰を与えられるのでは無いかと老人は怖気付いた。しかし、悪魔を撃退しないと人類が絶滅する危機があるというのも真実。
誰かが“神殺し”にならなければいけないのだ。
そして、白銀の老人の眼前にはJAD創造者の男が焦茶の長机を挟んで座っており、国家から悪魔打倒を目的とされ、任命された大臣なども長机に備え付けられたパイプ椅子に腰掛けている。
JAD創設者:中院 宗介は、茶色がかった短い髪をしている。そんなチャラそうな見た目からは想像できないような細い目の中では、決意を燃やしているような黒い目がある。眼の先には、白銀の老人に向けられ、その眼力に圧倒され、老人は眼を逸らす。
「悪魔を東京襲撃までに殺害する。」
20XX年の日本は、製造業の最先端を行く国に成りあがっており、日本が悪魔に敗れたとするとこの世界での人類は絶滅を余儀なくされるだろう。だからこそ、ここで打倒さなければいけないのである。
悪魔は、半狂乱で人類を何らかの目的で人類滅亡を目論んでいると考えられる。
「本当に悪魔は、人類滅亡を目論んでるんですかね。」
長机の端に座る中年男がそんなことを発した。垂れ目の優しそうな眼差しからは、不安が読み取れる。
「現に悪魔は、東京に日々近づいている。人口の多い東京を目的…ではないにしろ、道中でここを崩壊させることは確定してる。」
中院宗介は「人類滅亡が確定していなくても、わが国はここを撃たれれば滅亡する」と続けた。
「だが、悪魔の打倒ったって可能なのか?……
何もしないで、東京が崩壊するのを待つよりはできる限りのことをした方がよいでしょうが。」
老人は、眼前を創造者ではなくJADの軍の選別者へ向けた。JAD軍、隊員志望者千人の中からおよそ100人を選別することになったため、JAD幹部会議に呼ばれた。
「山形の災害で、山形の都市が焼野原になる直前の動画がネットにて投稿されていたので、見てもらいたいです。まあデマという可能性もあり、信憑性は薄いんですけど。」
隊員審査員は、白銀の老人よりは年が相当下のはずだが、その男は太陽の如く輝く頭を持っていた。
壁にかけられたスクリーンを下げ、そこにスライドを写した。そのスライドのは、画像と再生ボタンが付いていた。審査員は、パソコンのキーボードをかちりと押した。
そこには、山形の自衛隊が所持していた戦闘機のミサイルが悪魔に発射され、悪魔に煙を出しながら近づいていた。しかし、悪魔の放った《何か》によってミサイルが悪魔の目の前で空中で爆破。
橙がかった爆破は、ミサイルの残骸をビルへ飛ばし、ビルの窓をバリンと割っていく。
その衝撃波と風の混じった轟音によってスマホの撮れる環境じゃなくなったのか、そこで画面が動転し、どうが動画は終わった。
見終わった後、静寂が訪れた。白銀の老人の思案して出来た打倒策は戦艦から放たれる核弾道だったが、ミサイルを阻止する技があるなら結果は変わらなそうである。
スライドを下に移動させると、その下にも動画があった。
「ん?この動画は…?」
大臣が不思議そうに聞いた。後に話そうとしていたのか、少し靄のかかった説明を始めたが途中から渋々という感じで答えた。
「その動画は、自衛隊の戦車が悪魔の何か…攻撃で破壊される動画です。」
そう言いつつ、審査員は動画の再生ボタンをマウスでクリックする。
ビルの上で撮ったのか、見下ろす感じで戦車が映った。戦車はビルとビルの間におり、その間には舗装された道がある。
大通りだろう。
戦車から弾が打たれ、スマホがそれを追う。撮影者が、その途中で「いけ!」「殺れ!」と感極まって言うが、その次の瞬間「え?」と腑抜けた声に変わる。
弾は、またもや悪魔の出した何かによって消失した。これは、溶かされたと言った方が良さそうだ。悪魔は、手から球状の炎を大砲のように出し、弾を溶かした。そして、戦車に眼前を向けると、ゴゴゴゴと轟音が鳴った。
地響き。
悪魔の姿から戦車の方にスマホを戻すと道路を突き破って出てきた土の槍によって貫かれていた。宙に浮いた所為で身動きが取れないようで、浮いたタイヤだけが動いている。キュルキュルと鉄が擦れる音が静寂の中に響いている。戦車の入り口が壊されているため、この乗組委員は軈て死ぬだろう。大人が、か弱い子供を虐待するような光景に目を背けたくなるが、こいつを今から殺す方法を考えるのだ。まるで、魔術だ。我々は、この神と戦闘を申し込むのだ。
「これを見れば自明でしょう。
悪魔は、神力を持っている。人類は、このまま策を講じなければ、絶滅する。」
審査員が、戸惑いなく言った。
「本当に奴を殺す方法はあるのか?」
その言葉に、怖気付きながら、大臣は創設者に問うた。秘策があるからこそ、ここにこの国を表面的に収める者らを集めたのだと言うことは言わずもがな“確定事項”だった。だが、聴くしかなかった。今まであったそのような希望は、今の一瞬で絶望の他何もなくなってしまったからである。ここにいるJADに関わっていた者、創設者の横に座るJAD兵隊長以外の者は何も知らないのであるから。
「あぁ。
データ照合によって悪魔は力の供給源があると言うことが確定ではないにしろわかった。」
資料には、詳細が書かれている。悪魔は、山形市を壊滅させた後消息を立った。しかし、数日後には、山形の他の都市を襲った。そのことから、悪魔は何処かで休憩を取っているのだと考えられる。ただ、生命体なのだから眠ることはあるとも考えることはできるが、証拠は他にあった。
山形市襲撃直後と、壊滅後の悪魔の様子を見れば自明だが、攻撃の頻度や、攻撃の大きさが倍ほどに減少しているのだ。悪魔の供給源のエネルギーを全て抜いた所で、攻撃を与えれば、悪魔を殺すことが出来る。だが、ミサイルや砲弾では避けられてしまうと考えられる。
そのため、必殺は《近接武器》である。
そのため国家は――――――
「そのため、この対悪魔決戦兵器で悪魔のエネルギー切れを図り、そこに巨大ブレードで致命傷を与えるという方法です。」
そこには、人型の機械が載っていた。その機械は、全てがグレーで統一されており、顔には、悪魔の翠玉色の眼と対比するような真っ赤な1つ眼があり、それを外装で四方八方から覆ってあり、下半分しか見えていない。いわゆる三日月型に近い半月型だ。それは、まるで狂乱の悪魔というものを想像させる。
だが、その恐ろしさは、円卓を囲む者に勝率という希望を与えたのであった。