12 ちょうど背比べをしているみたいで、わたしは思わず笑ってしまう
明けて次の日。
今日から精霊についての授業は、ライナーくんと一緒に受けることになる。
授業の場所はお部屋ではなく、図書室でということになった。図書室の中には、見たこともないくらいたくさんの本があって、目が回りそうになる。
「ロッテお嬢様、こちらへどうぞ」
アメリアに呼ばれて、まどの近くのつくえに案内される。
わたしがイスに座ったところで、ライナーくんがやってきた。
「義姉様、こんにちは」
「こんにちはライナーくん。今日からよろしくお願いしますね」
「こちからそ、よろしくお願いします」
そうこうしているとアルドリック様が来て、授業が始まる。
「さて、今日が初めてのライナー様もいらっしゃるので、まずは前回のおさらいをしましょうか」
アルドリック様がそう言って、わたしの方を向く。
「ロッテ様、精霊の愛し子の能力はどんなものがあると、前回教えましたか?」
え~と、
「精霊さんをカンチする能力、精霊さんに好かれる能力、精霊さんに影響をあたえる能力で。
カンチする能力はいるのかどうかだけが分かる人よりも、見える人や声が聞こえる人、見えるだけや聞こえるだけの人よりも、姿が見えて聞こえる人の方が力が強くて、力の弱い下級精霊まで分かる人の方が力が強い。
精霊さんに好かれる能力は、ただ好かれるだけの人と、いつも一緒にいてくれる精霊さんがいる精霊憑きって人がいて、精霊憑きはより力が強い精霊さんを受け入れられる方が力が強くて、精霊さんをより多く受け入れられる方が力が強い。
それと、たまに精霊さんにカンショウできる力っを持つ人もいる…でしたよね」
私が答えると、アルドリック様が満足そうにうなづく。
「その通りです。
ライナー様、ちなみに私は上級精霊であれば声も聞こえますが、中級・下級精霊は姿が見えるのみです。そして、今私には一柱の下級精霊が憑いてくれており、精霊に干渉する力はありません」
アルドリック様が自分の力を説明したのを聞いてうなづくと、ライナーくんはわたしの方を見る。それがどういう意味かは分かるので、今度はわたしが説明する。
「わたしは下級精霊さんまで姿も見えて、声も聞こえるよ。それと二人の下級精霊さんが一緒にいてくれて、この二人にララとルルって名前をつけているんだけど、名前をつけるっていうのは、精霊さんにカンショウすることなんだって」
ライナーくんは少し考えると、
「つまり、精霊の愛し子としての力は、アルドリック様より義姉様の方が強いということですか?」
アルドリック様は「そうです」と言ってうなづく。ライナーくんは嬉しそうな顔になるが、少し困ったような表情に変わって、おずおずとアルドリック様に訊く。
「あの、下級精霊とかって何ですか?」
アルドリック様は安心させるように笑うと、
「今日は精霊についてお話をしますので、それについてもお教えしますよ」
「よろしくお願いします」
ライナーくんがほっとしたように笑う。
ララとルルとアルドリック様の精霊さんが楽しそうに本棚の間を飛び回ってるのを横目に、わたしたちはアルドリック様のお話を聞く。
「まず、精霊とはなんなのか。これははっきり言ってしまえば、解かっていません。
自然から力を得ていたり、逆に人間を含めて動植物に力を与えることも出来るので、我々よりも自然に近い存在なのだと考えられます。
自然と我々の間を繋ぐ架け橋だなんて言う人もいますが、それはあまりに自分の都合の良いように解釈していると、私は思います」
確かに精霊が見える精霊の愛し子であれば、精霊がわたしたち人間の都合なんておかまいなしな子たちだと知っているから、「自分たちのために存在する」なんて、都合がよすぎるとしか言えない。
「また、精霊は人型での目撃事例が多いですが、他の動物や虫などの姿をしていることもあります」
わたしもうなづく、犬っぽいのや鳥っぽいのとかも見たことある。
「それと、これはまだまだ検証している必要がありますが、実は二人の精霊の愛し子が同じ精霊を見たのに、それぞれ違う姿が見えた、なんて話もあるんですよ」
「え?」
「そんなことあるんですか!?」
わたしとライナーくんは、思わず驚きの声を上げる。
「ええ。精霊が特別だったのか、精霊の愛し子側に理由があったのか、はたまた全ての精霊や精霊の愛し子でも起こり得るのかは解かっていません」
ほへー、そんなことあるのか。わたしは自分以外の精霊さんが見える精霊の愛し子に会ったのはアルドリック様が初めてだっていうのもあるんだろうけど、見えるか見えないかの違いはあっても、違うものが見えるって考えたことはないから、新鮮というか、不思議。
「アルドリック様、アルドリック様にはララとルルとアルドリック様の精霊さんは、どう見えてるいるんですか?」
もしかしたら、実は三人も違って見えているのかもしれない。
「私の目には、ララは髪の長い大人の女性の姿。ルルは髪の短い、ララよりも年若い少女の姿。私の精霊は、ララと同じく大人の女性ですが、髪はララより短いですね」
三人を見ながら、アルドリック様の言葉を聞く。うん、どうやらわたしと同じように見えてるみたい。
「わたしも同じように見えます」
わたしがうなづくと、「報告事例は少ないですから」と付け足す。
「精霊は人とも動物とも違いますから、貴族など多くの精霊の愛し子と交流のなる人々の間では、精霊を数える時には一人二人や一匹二匹などではなく、一柱二柱三柱という様な精霊用の助数詞を使うので、それも覚えておいてくださいね」
わたしはなんとなく、人の姿をしている精霊さんは一人二人、動物とかの姿をしている精霊さんは一匹二匹とか数えてたんだけど、そっか精霊さんみんなに使えるなら便利かも。
「さて、そんな精霊ですが、力の強さと属性という二つの要素で区分されます。
力の強さで分けるのが、先程の精霊の愛し子の能力の話でも出て来た、上級や中級といった分け方ですね」
これはわたしにとっては復習だけど、初めて聞くライナーくんはとても真剣に聞いている。
「下級精霊が一番力が弱く、中級上級と上がって行って、その頂点に立つのが精霊王です。
数は下級精霊が多く、位階が上がる毎に少なくなります。
下級精霊は結構その辺りにいますが、中級はたまに下級に混ざっている程度で、上級精霊ともなれば、その精霊が気に入っている様な所以外では見かけませんし、精霊王はお目に掛かれるのは一握りの者でしょう」
そうなんだよね。だからわたしもさすがに母さんから、父さんが風の王様に好かれてたって聞いた時はビックリしたもん。
「精霊の位階は、見える精霊の愛し子にはその大きさで判別できます。
下級精霊は人の子どもよりも小さくて、一般的な大きさの私の精霊は、私の手の大きさと同じくらいです」
そう言ってアルドリック様が手のひらを、主にライナーくんの方に向けると、アルドリック様の精霊さんが不思議そうにその手のひらの横まで来た。ちょうど背比べをしているみたいで、わたしは思わず笑ってしまう。
「中級精霊は人の子どもと同じくらい。上級精霊は人の大人と同じやそれ以上の大きさです。
これは、その精霊の姿が人型でも、それ以外でも同じです」
ライナーくんがふむふむとうなづく。
「そして、精霊たちはそれぞれ属性を持ちます。
例えば、私の精霊やロッテ様のララとルルは風の精霊です。他にも火や水、雷に草木、光や闇など色々ですね。
それぞれの精霊は自分の属性に類するものに干渉する力を持ちます」
アルドリック様が自分の精霊さんを見ながら言うと、同じところをみながらライナーくんが訊く。
「えっと、例えば義姉様やアルドリック様の風の精霊はどんなことができるのですか?」
「風を起こすことですよ。下級精霊ですと強風を起こすことは難しいですが、この子たちが動く度、他にも笑ったりするとそよ風が起きます」
思い当たるところのあったライナーくんは「あっ」という顔をして、
「もしかして、さっきからたまにそよ風を感じていたのは、どこかの窓が開いていたのではなく、」
「ええ、この部屋に三柱の風の下級精霊がいるからですね」
アルドリック様がうなづく。
ところで、
「それだけじゃないんですよ、アルドリック様!」
こればかりは、精霊さんの声が聞こえないと、分からないんだろう。
「風の精霊さんはウワサ話が大好きなんです。風は街中で吹きますから、風の精霊さんは色々なことを知っているんですよ」
風の精霊さんたちのウワサ話を横で聞いていると、色々なことを知れて、楽しいのだ。
「そう、なんですか?」
驚いた顔のアルドリック様に、わたしは笑顔でうなづく。そして「ねーっ」と三に…じゃなくて、三柱の精霊さんたちにも言うと、三柱とも笑顔でうなづき、それに合わせてそよっと小さく風が吹いた。