レベルアップ
「ガハハハハ!!みなぎる!みなぎってくるぞぉぉ!!」
もはやカルロが回す槍はその勢いで風が巻き起こり、薙ぎ払われた魔物は一振りで3匹同時に倒すほどになっていた。
オリヴィエも元々凄い動きだったが、今は跳べば3m以上跳躍し、目が回るんじゃないかと心配になるほどにクルクル回りながらまるで踊るように敵の間を縫うように移動したかと思うと、通り道にいた魔物が数瞬遅れて霧になっていく。
ミーナは自分の力に振り回されるようにしていたが、その変則的に動く槍に触れた魔物はどれも簡単に両断され、倒れていく。
「おいおい・・・また上がったぞ・・・」
レベルは上がれば上がるほどに上昇が鈍くなっていくはずなのだが、今は鈍くなるどころかどんどん加速している気がする。
さっきまで20だった俺のレベルももう21・・・うわ、また上がった!
なんだなんだ、どうなってる・・・?
確かに倒している数は物凄いが、相手はダンジョンの2層で出現する程度のモンスターなはずだ。
十やそこら・・・いや、百以上倒したってこんなに上がらんぞ。
実際俺は今戦っているのと同じ強さのモンスターが出現する2層から5層を探索した間にそれこそ数えきれないほどの敵を倒してやっと14まであがったっていうのに、今はまだ全員合わせても百も倒してないぞ・・・。
スタンピードの魔物は通常よりも貰える経験値が多いのか・・・?
いや、それだとどんどんレベルアップが加速しているのが説明付かない。
レベルは上がれば上がるほどに必要経験値があがるか取得経験値が下がるのかはわからないが、どんどん上昇しにくくなるはずだ・・・。今までの俺の経験もそれを証明している。
ならば何故レベルが・・・あーまた上がった・・・。
動向が気になりすぎてほぼ常に鑑定を使い続けているが、俺を含む前線にいるすべての者がレベルをどんどん上昇させていき、それに伴って動きもどんどん人の領域を外れていく・・・まるでゲームのキャラみたいに飛び跳ね全く重量を感じさせない武器を振るっている。
レベルアップは嬉しいが、この勢いでこの世界の人間をいきなり高レベルにしてしまっていいのだろうか・・・。
しかし何故、レベルアップが加速するのか・・・。
・・・まさか、一度に多くのモンスターを倒すとボーナスが付くのか?モンスターを倒して一定以内に次のモンスターを倒すと一定量の・・・それこそ乗算した値のボーナスがつくんじゃないだろうか。
そう考えるとレベルアップが加速しているのも説明がつく。
たぶんこのボーナスは普通は目に見えて多くなるようなものではないのだろうが、今俺達はいったい連続で何匹の・・・うわっ!また上がった!
やっぱり乗算だ!このスピードはたぶん間違いない。
何が問題になるのか今すぐはっきりとは思いつかないけど、やっぱりなんかまずい気がする。
だって二桁に乗ったばかりのカルロがあの評価なのに・・・。
どんどん上昇するレベルに比例してみんなの動きがよくなり、結果敵を倒すスピードがさらにあがっているからレベルアップも更に加速している。
今や俺のレベルは34・・・35・・・あ、今度は一気に37になった・・・。
マズい不味いまずいマズイ。
俺は出所のわからない不確かな不安に駆り立てられ、慌ててカルロとマルクをパーティーからはずした。
もうみんな超人的な動きをしすぎてもはやあれだけいた魔物も、もうまばらになっているから補正値がなくたって大丈夫だろう。・・・というか、補正値どころじゃなくてもう彼ら単体でも今回位のスタンピードなら乗り越えてしまうんじゃないか?
「!?」
「ぬおっ!?なんだ!?」
どこかの一騎当千するゲームみたいな動きになっていた二人の動きは俺のパーティーから外れると、その場の重力が倍増したかのようにガクッと鈍くなった。何事かとこちらを見る二人。コッチミンナ。
やっぱり原因が俺にあるということを真っ先に疑うよな・・・。うーむ、なんか言い訳しておくか。
「すまん!加護を付与する力に限界がきた!だが、その残り香はお前らの体に残るはずだ!残りの魔物は少ない、このまま一気にいくぞ!!」
おお、咄嗟についた嘘にしては結構それなりに上手い言い訳が出来たんじゃないか?
完全に俺が使徒ということを認定する発言でもあるが、もうそれは今更だしな。
「そうか、残念だ・・・だが、これだけの加護を残していただけているならば残りの魔物程度、問題になりようもなし!」
そのポーズ、角度によっては勇者パースが見れそうだな。気合を入れて構えるとあのポーズが自然に飛び出す因果でもあるのだろうかね。
実物初めて見た。いや、別に実物じゃないけど。
最前線の全員がレベル上がりすぎて無双ゲージを使ったかのような乱舞っぷりで魔物は半数以上が駆逐されたのではないだろうか。・・・いや、もう半分もいないか・・・。
レベルアップ前でもいけると踏んでいたのに、予想外の大幅レベルアップで最早スタンピードはあまりの実力差にただの害虫駆除位の様相を呈してきていた。
誰も討ち漏らすこともなくなり、後方に待機している兵士達はもうなにもしておらず、唯一攻撃しているのはバリスタでも撃っているんじゃないかと錯覚するほどの射撃をアンジュだけが続けている。
「サトル様!魔物の数が減ってきました!」
「もうですか!?まだまだ足りないです!」
いやいや、ハイになんかなってもーてない?
オリヴィエ、目がコワイヨ。深呼吸して落ち着きなさい。ヒッヒッフゥー。ほら一緒に、ヒッヒッフゥー。
俺の願いも虚しくオリヴィエは上下左右にクルクル回りながらその進行上の敵を倒してゆく。君は宇宙空間に放り出されたアストロノーツですか?重力さんは敗北続きで恥ずかしくないのかね。もうちょっと頑張りたまえよ。
最初は全員迎え撃つだけだったのに、もうみんな物足りないとばかりに積極的に前進したり、スルーしてトレイルに向かう魔物を追っかけて倒したりと、やりたい放題だ。ちょっとは危険になる状況も生まれるかと気を張っていたのが馬鹿みたいじゃないか。
「あー、もう全部片付きそうじゃないか・・・」
あれだけ立ち昇っていた土煙も既に綺麗に消え、見えなくなっていた森の姿もはっきりと視認出来るようになっていた。
残り少なくなっていた魔物をまるで競うように倒していくメェンバー達。もうカルロとマルクは俺のパーティーから外れているからメェンバーと言っていいのかわからないけど、これ自体の定義がなんなのか、そもそもメェンバーってなんだよって今でも思っているくらいだからそんなんどっちでもいいか。
カルロは楽しそうに頭上で槍を回転させながら魔物を蹴散らしているし、反対側のマルクも大剣の勢いと反動を利用してあっちこっちに飛び回っている。
ミーナまで槍を構えたまま突撃して一直線上の魔物をまるで風船でもつついてるのかと思うくらいに弾けさせている。
オリヴィエも・・・ん?
あれだけ縦横無尽に跳ねまわっていたのに、なんか立ち止まったまま森の方をじっと見つめているな。
「どうした?オリヴィエ」
「ご主人様・・・なにか・・・」
なんだ、お腹でも痛くなったか?漏れそうなら今すぐ森に行ってきなさい。
「なにか大きいのが来ます」
そんなにおっきいのが出そうなのか・・・というボケをかましている場合ではないことはオリヴィエの表情を見ていればわかる。
その顔は決して、もよおしたことを俺に知らせるなんてことではなく、何かを捉えてそれを警告をしてくれている。
「大きななにか・・・って、オーガとかか?」
「いえ・・・これはもっと大きな別の・・・」
立ち止まってオリヴィエの報告を聞いているうち、近くで発生している戦闘音の中に混じって響く重低音が、わずかだが俺の耳にも届いてきた。
 




