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「おし、もう頃合いかな・・・?どれどれ・・・お~っ、いい感じだぞ!」
取り出した皿の中を覗き込むと、白いソースに乗せたチーズに焼き色が付き、まるで漫画のマグマみたいにグツグツいいながら上面を覆った薄いチーズの層を上下させていた。
熱いスープを入れても大丈夫なようにとちょいとオーバースペック気味に作っていた耐熱用の深皿が役に立ったな。
俺の手作り感満載でちっちゃかったものと違い、ラスク製の大きくてとてもしっかりとした窯を使って、今回はピザをサクッと焼いた後にグラタンを作ってみた。かなり上手く出来たんじゃなかろうか。
これが美味しかったらピザのように焼く前の状態まで作り置きしてストレージに放り込んでおくというのもありだろう。
ストレージの中は時間凍結状態なので焼いた直後に入れておいても問題はないのだが、それだと情緒が無さ過ぎるしな。料理を仕上げる最終段階の待ち時間というのは、その見た目と放つ臭いの変化を実際に感じることが最高のスパイスとなってスペックを底上げしてくれる気がするんだよね。
あと・・・せっかく出来上がった料理をストレージに入れようとすると、めちゃくちゃがっかりした視線と感情がこっちに集中するから、超絶仕舞いづらいってのもある・・・。
それでも前回は非常用にと出来上がったものも数枚だけ隠しておくことに成功している・・・が、勘のいいオリヴィエにはどうやら気付かれていたようで「後の楽しみですね」と耳打ちされてしまった。今後も彼女には隠し事は無理なんだろうなぁ。
「ぬおおおーーーっ!なんじゃあこれはーーー!!」
家の裏の広いスペースに用意したみんなが座るテーブルへ先に出し、切り分けた三角形のピザと口元にチーズの橋を架けながらその味に感動していいリアクションをとってくれているカルロ。
それを見て喉を鳴らした護衛達も一斉に手に取って口に運び、それぞれが見事な大リアクションを繰り広げて喜んでくれた。
「好評のようだな。これは物凄く熱いから気を付けてくれよ」
そんなピザみたいな勢いでいかれたらキミ達の口の中がイカれるからな。そんなことにヒールは使ってやらんぞ。
「ご主人様っ!!それは何ですか!?とてもいい匂いがします!」
カルロ達に注意しながらテーブルに置いたグラタンにいち早く反応し、大きくてフワフワな尻尾を盛大に揺らしながらオリヴィエが覗き込みながら鼻を鳴らしている。
「うごいているのですっ!ぷくぷくって!ホラッ!みてみてココ!」
「むふぅぅぅ~~~。おいしそ」
テーブルの端に手をつきながらピョンピョンと跳ね、お尻を上下させながらいつもの早口で隣のココにアピールするルーと、ふか~い鼻息を放ちながら高揚させた柔らかそうなほっぺを持ち上げ短い感想を言いながらグラタンをロックオンしているココ。
「これはグラタンだ。具材だけじゃなく皿も熱いから触っちゃダメだぞ」
ファミリーなレストランに行った時、そんな決まり文句的な注意を毎回言わなくても触るわけないだろといつも思っていた台詞をまさか自分が言う事になるなんてな。
だが、グラタン皿が熱々だなんてことは常識だった日本と違って、ここはそんな料理自体が存在してなさそうな世界だからな。ちゃんと言っておかないとね。
「また新しいものを・・・これもシスさんのレシピのおかげ?」
他のみんなと違って既知である料理に感動することなく、むしろちょっと呆れたようにして話しかけてくるユウキ。
たしかにそうだけど、この窯の火力に合わせた焼き時間とかの調整は自分でしないといけなかったから俺の功績だってあるんだぞっ。シスのレシピの貢献度が50・・・いや、80%ぐらいだというのは認めるけど・・・。
「ま、あっちの料理が食べられるのは普通に嬉しいんだけどね」
そう言って用意しておいた取り分け用の大きい木製のスプーンを使って自分の取り皿に盛り、自分のスプーンに持ち替えて取り皿のグラタンを掬い、頬を緩ませつつそれに数回息を吹きかけて熱を適温まで下げてから口に運ぶ。
「ハフハフッ・・・ん~~~美味しい!中の具材はどうしてるのかと思ったけど、これパングラタンだったのね」
そんなユウキを全員が口を半開きにして眺めていたのだが、一斉に彼女の真似をして匙に乗せたグラタンを同じようにフーフーしてから口に運び出した。どうやら食べ方が分からなかったみたいだ。まぁこの世界にこんなドロドロでアツアツなソースの料理なんて無さそうだしな。
「マカロニは作ろうと思えばできるんだろうけど、手間がかかりそうだしな。今すぐ作るんだったらこれがいいと思ってね」
「初めて食べたけど・・・これはこれで美味しいわね」
パングラタンは俺が高校生ぐらいの時にバイトしていたレストランのメニューにあったのを思い出して作った。
ファミリー向けのフランチャイズ店だったのに、ローカルで大手ほどの規模じゃなかったからか、厨房で玉葱をはじめとした野菜を刻んだり具材を炒めたり乾麺を湯でたりと、やたらキッチン仕事を要求される店だった。
そのおかげで料理の基礎が身についたからいい経験だったのだと思うが、今思うとあんな仕事量を要求するファミリーレストランはもうないだろうな。その証拠にこの前ネットで確認してみたらその部門のレストランは消滅していたしね。
大体あんな作業、料理経験者のないバイトとかにやらせるもんじゃないんだ。凝ったレシピのおかげで味の平均値はかなりよかったと思うけど、そのせいで料理や出来が店舗毎どころか、その店の時間帯でも変化してしまって安定しなかった。忙しい時間帯なんて注文量に作業が追いつかないことも頻繁に発生してしまい、料理提供に時間がかかることも多く、それを改善しなかった結果、急激に評判を落としてしまった。
だから大手は手間のかかる作業工程の多くを店舗とは別の工場や作業場で予め行い、厨房でやらなければならない作業の簡略化を行うことで料理の出来を安定させつつも、提供の遅延も防ぐことを可能にしている。シェフの腕の見せ所といったものは皆無となるが、そんなものを低価格のレストランに求めるやつなんて少ないしな。
「あつあつ・・・うまうま・・・あつあつ・・・うまうま・・・」
「美味しいからって急がないの。ゆっくり食べなさい。ルー」
「でもその気持ちもわかります。・・・そのくらい美味しいですよ、コレッ!」
ホフホフしつつも口に入れることをやめられないルーを注意するリサと、グラタンの美味しさを知ってルーの行動を擁護するミーナは、まるで手を添えなければ落ちてしまうとばかりにスプーンを持ったのとは反対の手で頬を抑えていた。
「チーズとこのドロッとしたものの他にも薄い肉の味もしっかりあっていいッスね!」
「サトルの作る料理にはいつも驚かされるな・・・。どれも違うのに全部が美味い」
ラスクが言っている肉はただの薄切りにした豚肉だ。
ホントはベーコンを入れたかったんだけど、手持ちには無かったからしょうがない。今度作ってみようかな。
「ふぁふはごふひんははれふっ!!」
ラスクとアンジュはユウキと同じく冷ましながらちょっとずつ食べているのに、オリヴィエは口いっぱいに頬張り、たぶん「さすがご主人様です」と言っていた。いつも同じセリフを言ってるし、間違いないだろう。
ってか、それ口の中大丈夫なん?皮がベリベリになったらちゃんと言うんだぞ。治すから。
え?カルロ達への対応と違うじゃないかって?
当たり前だろ。
オリヴィエとカルロならオリヴィエの方が何百倍も大事だし、優先だって贔屓だってするさ。
当たり前田のクラッカーだぜ。




