発見
「お、もしかしてあれが帝都か?」
「え・・・?え~~・・・っと・・・。あ、そうです!間違いなく帝都「グラン・エスペランサ」です!」
トレイルから出発して5.6時間程は経っただろうかというところで、遥か景色の向こう側に壁に囲まれた建造物が密集している大きな街が見えてきた。
発見が早すぎたのか、それとも今の俺の視力がとんでもなくて普通の人には見えないようなものだったのか、俺が指摘してからその方向を確認したカルロはその存在を発見すること自体に時間がかかり、護衛の男達に至ってはまだ眉間にしわを寄せて目を細め、不思議そうな顔をしていたので見つける事すら出来ていない様子だった。
やはりレベルがあがると身体能力と共に動体視力もかなり向上しているのを実感できていたし、単純な視力も強化されているのだろう。
冷静に見直してみるとたしかにとんでもない距離だしな。あそこまで何キロあるんだろう。
まだ遠すぎて帝都の街がどんな風な構造なのか、
まだまだ先にあるグラン・エスペランサと呼ばれた帝都を見ている俺の視界に、小さな黒い影が規則性の全くない動きをとって飛び回っていた。
「しかし・・・ココはよくあんな動きをして上下の感覚を見失わないな」
「地上でもよくクルクルと回っているよね」
「あれは身軽という言葉で語れるようなものではないな。天性のものだと思うぞ」
俺が今尚前方2~300m程先でハエのように不規則な挙動で飛行を楽しんでいるココについて言及すると、今は荷車担ぎの担当ではないため、俺と並走していたユウキとアンジュの二人がそれを聞いてそれぞれの感想を口にした。
「ん?」
そんなココがピタッと急に止まったかと思ったら、しばらく下の方を凝視した後、こっちに戻ってきた。
突然アクロバット飛行に飽きたんかな?
とか思っていたが、
「あるじっ!あれ!!」
と、丁度さっきココが飛び回っていた真下辺りを指差してきたので、そこに視線を移してみると・・・、
「ん?なんか人がいっぱい歩いてるな」
結構多くの人が列をなして歩いている。
全員が俺達の向かっているのと同じ方向に進んでいるので、もしかしたら全員帝都に向かっているのかもしれない。
人数にしたらおそらく3~40人くらいはいるんじゃないかな?
馬車はおろか、馬などに乗っている人もいないし、荷車のようなものを引いている人も居ないから、商人の団体さんというわけでもなさそうだ。
「あれは・・・っ!」
俺と同じくココの指差す先を見ていたカルロが小さく呟いた。何かに気が付いたようだ。
「サトル様、一度あの者達の下へ降り立ってもらってもよろしいでしょうか?」
「別に構わないけど・・・あの人達に何か用でもあるのか?」
見た所、彼らの格好も特別な装備などを纏っていない普通の格好だし、貴族や冒険者ってわけでもなさそうだから、カルロの知り合いというわけでもなさそうだけどな。
「彼らはおそらく避難民です」
「避難民?」
「はい」
俺のオウム返しに神妙な顔をして返事をするカルロ。
「わかった。降りよう」
俺がカルロにそう言って、空に浮かんでいる他のメンバー達にも目配せをすると、荷車を持っているオリヴィエ、ウィドーさん、ミーナの三人の他、アンジュ、ユウキ、ラスクも俺の指示に頷いたが、
「あ・・・!ココ!?」
俺の言葉を聞いたココが真っ先に前方の集団の下へと飛んで行き、それに気が付いたユウキが思わずココの名を呼んだが、そんな声にも止まることなくそのまま向かってしまった。
「俺達も行こう」
ココも十分な実力を持っているから下の人物達が危ないやつらだったとしてもどうこうなるとは思わないが、だからといって絶対ではないしな。もしかしたら俺が知らないまだ見ぬ超人悪党集団かもしれない。
ま、カルロが避難民だと言っていたから違うと思うけど。あんな堂々とそんなやつらがゾロゾロと街道を歩いているわけもないしな。
そんなことを思いながらも俺達は先に行ってしまったココの後を追い、高度を落としながら地面を歩く人達の所へ向かった。
「なっ!なんだお前は!?」
「空から降ってきたぞ!?」
「ひ、人型の魔物か!?」
ココが突然彼らの列のド真ん中に降りちゃったもんだから、避難民だという人達がココを魔物じゃないかと勘違いされ、驚きと共にかなり警戒されてしまっていた。
武器らしい武器は持っていないようだが、鍬みたいな農具を取り出して震えながらも構える者や、女子供を避難させる者、中には我先にと慌てて逃げ出そうとし、転倒してしまっている者も居た。
「待て!その子は魔物などではない!」
ココに遅れること数秒、やっと彼らにこちらの声が届くような距離へと近づいた時、座席から立ち上がって前方のヘリに掴まって前のめりになり、地上の怯える人々に声をかけていた。
全員が軽いパニックを引き起こしていたが、突然自分達の頭上から聞こえてきた声に驚いた彼らはその動きを止め、みんな声のした空を見上げたが、そこには宙に浮く俺達と空飛ぶ荷車に乗るカルロらが居たので、彼らは驚きを通り越して、口をあんぐり開けたままフリーズしてしまった。
そして俺達が地面へと降り立ち、オリヴィエ達が改造荷車を地面へと降ろすとカルロと護衛の三人も荷台の縁を乗り越えて地に足をつけた。
「・・・あ、あんたらは一体・・・・・・」
「カルロ様?カルロ様ではありませんか!!」
信じられない光景に強制停止した思考からなんとか復帰した一人の男が俺達に話しかけてきたが、その言葉を遮って彼らの集団の中で女子供を避難させようとしていた男がカルロの名を呼んだ後、警戒する者達を掻き分けて俺達の前に姿を現した。
「おぉ!お主はガイードか!?久しぶりだのぉ!」
他の人達よりも身長が高くてガタイもよく、カルロがガイードと呼んだその男を鑑定してみたら、彼は竜人族という種で戦士の職業も持っているようだった。レベルは8なので、この世界ではかなり高いと思う。
彼にはオリヴィエやココのようにケモ耳はなかったので、一見身長が大きいだけの人族のようにも見えたが、その顔をよく見ると下顎から首元にかけてトカゲやヘビみたいな爬虫類系の鱗のようなもので覆われていた。よく見ると二の腕から手の甲にかけても同じような鱗があったので、服で見えない他の部位にもあるのかもしれない。
「こんな私のことを覚えていてくださり光栄です」
「ガイード、この人を知っているのか?」
何故か東北弁のような独特な訛りで話す男がガイードに問いかける。たぶんこの人の一人称はオラだな。間違いない。
「この御方はイルイーツを治める領主、カルロ・フォン・エスター様だ」
カルロのフルネーム、久しぶりに聞いたな。そういやそんな名前だったね。
鑑定にはフルネームが表示されるけど、いちいち顔見知りの人に使ったりしないからな。完全に忘れてたわ。
イルイーツってのはトレイルのある土地の名前かな?関東地方的な。
そういや俺達にマサラ村近くの盗賊団討伐を依頼したってことはたぶんあの辺もカルロの領地ってことなんだよな。
どでかい街のトレイルだけでも凄いのに、他の村々まで統治しなきゃいけないなんて、やっぱり領地を持つ貴族ってのは大変なんだなぁ。
「き、貴族様!?なんでそんな御方が空から!?」
東北訛りの男はカルロが貴族であったこともビックリしていたが、そんな人が自分達の頭上から降りてきたということの方に、より驚いているようだった。
まぁそうよな。
普通、人は空から降りてくるもんじゃないもんねぇ。
でもこの世界ではそれも可能なんです。そう、mahouならね。




