オリヴィエ一家
「わはははは!!これは凄い!」
「やっべー!兄ちゃんやっべー!!」
「見てマルス!ロロ村があんなにちっちゃい!」
「あんな風になってたんだね!エス湖の形までハッキリ分かる!」
「あらあらあら、風が気持ちいいわねぇ」
オリヴィエ一家が俺達が担いでいる荷車の上で大騒ぎである。
荷車にはオリヴィエ一家の他にも村長ピックアップの二名も居るのだが、その二人は共に側壁部の上をしっかりと手で掴み、しゃがみ込んで顔を青くしていたので、この二人が特別なのでないのであれば、狐人族全体が高いところ好きというわけでなく、オリヴィエ一家の肝がただ据わっているだけなのだろう。
さすがあのオリヴィエを産み出した血筋である。なんかそれで納得がいってしまうのもどうかと思うが、普段の彼女の戦いなどを見ていればきっと俺の気持ちも分かるだろう。
その証拠にはしゃぐオリヴィエ一家をウチのメンバーもなるほどといった感じで苦笑いを浮かべている。たぶん俺と同じことを思っているんだろうね。
「スピードを上げるぞ、しっかり掴まっていろよ。アビーも俺にこっちへおいで」
様子見でゆっくり飛んでいたが、このままだと到着が遅くなるので荷車の上の反応も見ながらではあるが、徐々にスピードを上げるため、搭乗者に警告すると共に、アビーと名付けた俺の近くを飛んでいた使役した女王蜂に話しかける。
すると、アビーは俺の指示にちゃんと従っただけでなく、その意味もちゃんと理解して俺の首元から服の中に入り込んで、ちょこっと顔を出した。中々に愛いやつである。
昆虫といえど、やはり意志が伝わると全然違うね。意外に愛嬌も凄いあり、蜜蜂は元々その見た目も胸にフサフサがあったり目がキュルンとしているから可愛いよね。苦手な人は無理なんだろうけど、蜘蛛を飼ったことがある俺からしたら気持ちが通じ合う虫などご褒美以外の何物でもない。
ちなみに、何故俺達がオリヴィエ一家やロロ村の住人とアビーを連れて飛んでいるのかというと、アビーの寿命を延ばす為のレベル上げついでに、今後のロロ村の安全の為に第一優先のオリヴィエ一家を連れてきたのだ。
他の村民二人も連れているのは安全性を上げるにはなるべく人数が多い方がいいと思ったからで、二人なのはパーティーの人数は八人までなので、俺とオリヴィエ一家で六人だから、残りの枠二名は村民のことをよくわかっているだろう村長に、人柄で選んでもらった。
現状の強さはこれから獲得してもらう力に比べたら微々たる差だし、一番重要なのはその力を悪用しないことなので、豪胆さや勇猛さよりも優しさだったり思いやりのある人物を選んでもらったというわけだ。
せっかく強くしたやつが盗賊や罪人になったら後味悪いし本末転倒だしな。
「おおおおぉぉーーー!!」
「すげえすげえすげーー!!」
「まぁまぁまぁ!」
俺達がスピードを上げていくのと同調するように、荷台の上の一家のテンションもどんどん上がっていく。全員が持つフワフワ尻尾が揺れる速度も加速していくのが面白い。
口調は変わらないが、大人しそうなタリアまで声量が大きくなっているほどだ。・・・というか、この状況で口調が変わらないというのを見てもかなり豪胆さが伝わってくるよね、オリヴィエのお母さんって。
「いいなぁ・・・オイラも飛びてぇ」
「ココまであんなに・・・」
「気持ちよさそうだよね」
弟ズが羨ましがっている話と目線に気が付いたのか、ココがすぐそばで見せつけるように気持ちよくアクロバティック飛行をしてご満悦な表情をしている。
「んふふぅ~」
誇らしげな顔で近くを飛びまわるココを、弟ズがまるで水族館の水中トンネル内で頭上を泳ぎまわるイルカを見るようにココを目で追っている。
「サラグレイグの南端ってあそこの事だよな?」
「そうだ。南北に大きく伸びる山脈の南端は地形的に尖っているその様子から、グリフォンの嘴と呼ばれている」
俺が視線だけで示した場所だったが、アンジュがそれを的確に読み取ってくれ、サラグレイグの説明まで追加して教えてくれた。
たしかにここに来るまでに通った山でその切れ目は船の先端を逆さまにしたような形をしていたので、遠くから見れば嘴に見えなくもないかもしれない。
ってかドラゴンに続き、グリフォンもいるんだな。
どんなモンスターなのかは作品や世界によって結構違ったりするけど、結構伝説的なものとして扱われていることも多いよね。
この世界も山の地形につけられるくらいだからきっとそんなような生物なのだろう。知らんけど。
目的地も視認出来たし、更にスピードとオリヴィエ一家のテンションを上げていたら、最後の方には村民二人の小さな悲鳴が漏れるようになってしまったが、そのおかげで俺達は予定通り一時間ほどでサラグレイグの南端へと到着することが出来た。
そこは比喩表現などではなく、先端だけ見ればまるで本当に誰かが研いだように尖っていて、正面から見ると、超どでかい斧か鉈の刃先が立ちはだかっているように見える。
ただ、巨大であるが故に遠目にはつるりとして見える岩肌だが、よく見ればゴツゴツとした表面をしていて、それが自然物であり人工的なものではないと教えてくれている。
尖った山の先端を中心に、その足元の右側には森が、左には平原が広がっている。右の森を進めばロロ村があり、左の平原の奥を山肌沿いに進めばいずれマサラ村へと辿り着くと思う。
「ダンジョンの入口って詳しい場所は分からないんだよな?」
俺が荷車を降ろし、腰位の高さの側壁を乗り越えて降りている途中の村長に問いかけると、まだ頬を紅潮させて顔が緩んでいたオリヴィエのお父さんはそれに気が付くと慌てて緩んだ表情を取り繕い、俺の質問に答える。
「はい。話には聞きましたが、私は実際に訪れたことはありませんので・・・しかし、道中までの道はカルロ様が簡易的に整備したという話ですし、この周辺を調べればそういった痕跡を見つけることは出来るのではないかと・・・」
そんなことまでしているのか、あの領主。
たしかにレベルが上がって力を増すと、装備品もある程度強化されるため、石なんかも剣で簡単に裁断することが出来ちゃうし、そういったことも可能なのだろうけど・・・あやつめ、上がったレベルをフル活用しているなぁ。
「それならとりあえずちょっくら行ってみるか」
俺の言葉に全員が頷く。ウチのメンバーはいつものことなので余裕の表情だったが、他の面々は緊張した面持ちだった。あのタリアまでちょっと顔を強張らせている。
全員が魔物と遭遇したことはあるが、実際に戦ったことがあるのは村長と村民の二人だけらしい。戦闘経験があるといっても、俺達の様な戦いなどでなく、怪獣に挑む自衛隊のように一対ほぼ村総出で挑むようなものらしい。
そのような戦いでは昔からかなりの被害を出していたが、オリヴィエが戦える年齢になり、それに参加するようになってからはそれが極端に減ったらしい。
それが何故かは言うまでもないだろうな。彼女の戦闘センスは生まれ持ってのもので、低レベルの頃から本当に凄かったからね。
きっとそれは村人の状態でもいかんなく発揮されていたのだろう。
オリヴィエを奴隷にした時に彼女は反対する家族のことを冗談だと思い込み、黙って村を出て来たという話を聞いた時はもしかしたら本当にただ彼女の身だけを心配してのことだと思ったが、その話を実際に聞いた時、このことを思い出した俺は必死に説得する村長が容易に想像できた。
本来襲われたら多大な被害を出すことになるものが、オリヴィエが居るだけでほぼなくなるんだからな。そりゃ止めるだろう。
もちろん彼女の身を案じていたというのもあるだろうけど、彼女が持つ力は村の安全を担っていたのだから、村長として阻止しようとしていた部分が大きかったのかもしれない。
幸いなことにオリヴィエが村を出てから魔物に襲われたのは昨日が初めてだったということで実害は出なかったが、俺達が来なかったらかなりの人命が失われていたという話だ。
だからこの話を昨日の夜に村長から聞いた時、俺は今後のロロ村の安全の為に、警備できる人員を用意しようと思ったわけだ。
故郷が安全ならば、オリヴィエだって今後何の心配もせずに一層楽しく暮らせるだろうからな。
そのためにキミ達には強くなっていただきます。




