治療
「うおおおおぉぉぉーーーー!!」
みるみる再生していく腕とそれに伴って消耗していく体力に驚き、雄叫びのような悲鳴を上げるジェズ。
もしかしたら再生時に少し痛みもあるのかな?
リカバリーは結構使ってきたけど、使用した相手には感謝されるばかりで文句を言われたことはないし、もちろん自分自身にも使った経験もないからどういった感覚なのかわからないや。
「サナトリウム」
五秒に短縮されたクールタイムが過ぎたので、リカバリーに続いて疲労回復魔法であるサナトリウムを使うと、叫び声のようなものだったジェズの声のトーンが徐々に上がっていって、最終的には疑問形に変化していった。
そして植物の成長を超速再生した映像のようにして元に戻っていく腕は、無事に毛深い体毛までも再現して元通りになり、ジェズはその再生した自分の手をまるで奇妙な物を見るかのような目でくるくると回しながら眺めていた。
「ほ、本当に治った!見てくれ!俺の無くなった左足も元通りだぞ!!」
そういって布団をめくって見せた彼は元に戻った脚を上げ下げして喜んでいたが、そんなものよりも俺の視界には見たくもないジェズのジェズが上下させる足の動きに呼応してブルンブルンしているのが映り、ちょっと不快になった。
「ちょっ!アンタ!!なんで下履いてないのよ!」
「仕方ねぇだろ!脚の付け根からごっそりなくてズボンを履いてもすぐにズレ落ちやがるからウザったかったんだよ!」
とりあえずウチの女性陣はまだしも、ココにそんな汚いものを見せ続けるわけにはいかないので、彼には俺の予備のパンツとズボンをストレージから出して渡してやった。
「うぉ!?アンタ今それをどこから・・・」
「いいから履け。これ以上それを晒すならチョン切るぞ」
少し殺気をこめてジェズを睨みつけると、それは思ったよりも効果的だったようで、ジェズは顔を青くしてから急いで息子を収納していった。
「ったく・・・これだけのレディーが居る前でやめてよね」
「あ?俺の三倍も生きているやつが・・・」
「ア゛ァ!?」
年齢をツッコまれたカデナが回復して元気になったジェズに修羅の顔を向ける。何アレ。こっわぁ。
アンジュも年齢のことになると怒るし、エルフにそれを聞くのは禁忌なのかな?
まぁそもそもエルフじゃなくたって女性に年齢のことを聞くのはマナー違反か。
「ふぅ、まったく・・・それにしても・・・本当に元通りになったの?」
「ああ!もうバッチリだ!何だか知らねぇが、寝てばっかで溜まってた疲れも吹っ飛んだ気がするぜ!」
ちょっとなんか元気になりすぎてうるさいからサナトリウムはかけない方が良かったかな?
その後に他の二人もジェズと同じ手順をし、同じようなリアクションを繰り返してくれているのを内心楽しくなりながら今ある欠損部や残っていた傷を完治させていった。
「うおおおおおお!!すげええええ!手が生えたぁぁぁぁ!!!」
「凄い・・・これは魔法?でも詠唱はしてないし・・・」
ハンナは治った箇所を色々な角度で眺めながら笑顔で驚き、アンも頭に巻いていた包帯を解き、自分の治った手をじっと見つめて自身に起きた現象の謎を解き明かそうとして迷宮入りしていた。
「アナタ達!診療所で何を騒いで・・・え?」
教壇や入口がある側とは別の扉が勢いよく開き、その奥から見るからに神父か司祭かといった教会関係者が着てそうな白い装束を着た男が大声で叫ぶ声を注意しに入ってきたが、喜ぶジェズ達の姿を・・・五体満足で居る彼らを見て驚いていた。
「な、何故失った腕や目が・・・!」
男は一番近くのハンナに近づき、元に戻った腕に触ろうとしたが、「触んなっ!」と言われてそれは振り払われてしまっていた。
「作りものなどでもない・・・本物だ・・・」
目を見開いたまま確かに動いている掴もうとしたハンナの腕を見つめている教会の男は、そのまましばらく固まっていたが、突然すぐ近くに居た俺の方へ視線を移して来たので、おっさんと目を合わせるという望まぬ結果になってしまった。
「これは・・・君が?」
「・・・うん、そうだ。手持ちの薬で治してやった」
教会の人間に魔法で治したというと面倒になる気配しかしないので、薬を使ったということにした。
この世界にはポーションという回復アイテムもあるし、実際に街にある店にも売っている。
「薬!?嘘を・・・!!嘘を吐いてはいけません。人体欠損を治せる薬なぞ最上位貴族でも持っている者はおりませんぞ」
店売りの物やダンジョンでゴブリンが落とすようなものではおそらく欠損を治すほどの性能はないが、ああいう治療薬にはきっとゲームのように上位の高性能な物もあると踏んでの発言だったが、この男の返しを聞くとそれはどうやらあっていたようだ。
「そう言われても実際に使っているんだから嘘もクソもないだろ。この人達の傷が治っているのはお前も見ていただろう?」
「お、おま・・・ん゛ん・・・確かにそうですが・・・しかし・・・」
俺が男に敬語を使わなかったことに片眉をピクピクさせて不満そうだったが、治っているのは事実なので否定しようにもできないようだ。
「とりあえず治ったのならここはもう引き払っても大丈夫だろ?」
ここで話しているとこのまだ何か言いたげな男が色々質問してきても鬱陶しいので、俺がカデナに目配せをして見せると、彼女はその意図を理解してくれたようで、
「そうですね。荷物を軽く整理して出ましょう」
カデナがそう言ってその場の全員に教会を出る準備を促すと、
「お待ちください!ここの使用・・・御心付けもまだ・・・」
「これくらいでいいだろ?」
男が療養所の利用したことへの寄付を理由に引き留めようとしたが、俺は彼が文句を言えないようなくらいの金貨をこっそりストレージから取り出して渡した。
しかし・・・慌ててたとはいえ、こいつ一瞬「使用料」と言いそうになってたよな。教会へのお礼はあくまでも寄付であり自発的に出しているといったものであるはずだろうに、本音がいとも簡単に出そうになっているのは問題だよな。不意に出るってことは本人がそうだと思っているからだしね。
俺が使用料的寄付を男の言葉を遮って手早く渡したの見て、俺がここを早く出たいのだということを感じてくれ、ジェズ達三人は少ない荷物を迅速にテキパキまとめてくれ、そのままそそくさとまるで逃げるように教会を出て行った。
準備や行動に移す迅速さはさすが冒険者だけあるよな。
引き留めようとする白装束の男を無視しつつ、教会の外へ出ると、男もさすがにそこまでついてくることはなく、少し悔しそうにしながら俺達を見送った。
「なんであんなに引き留めようとしていたんだろうな」
「怪我の治療はほぼ教会が独占して担っていますからね。今まではそれに何の疑問も抱きませんでしたが、サトル様と行動を共にして知ったことを鑑みると・・・」
俺の問いに答えてくれたミーナも、俺から言わなくても教会のやっていることに気が付いているようで、ハッキリとは言わないがその体制を疑うような態度が見える。
まぁ神を礼拝するための組織ではあるが、言ってしまえばそれは人側が勝手につくったものであるので、神の直接的な使いである俺(他称)の傍にいるのだからその威厳が薄れるのも仕方あるまい。
とりあえずどっか話せる場所に移動するか。ユウキもまだ話したいこともいっぱいあるだろうしな。
俺達はカデナと怪我を治した三人を伴い、教会を後にした。




