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邪神様、村の生活は良いものです

 当初の予定より遅れて世界樹の森を抜けた。

 まあ、森には道が無いようなものだから迷っても仕方がない。

 それよりも問題だったのは道中で三人に散々馬鹿にされた事だ。


 事あるごとに『ふっ、せめて苦しまないように、逝かせてやるよ』などと揶揄ってくる。

 またそのセリフがさらに状況に合わせて変化するのだからタチが悪い。ちなみにその数々のセリフは俺の尊厳を守るためにも一生秘匿させてもらう。


 そんな感じで辺境の村に着いた頃には、彼女らの精神攻撃により、俺は彼女達の忠実な下僕に成り下がっていた。


 だが、この村で俺は癒され奇跡的な復活を果たす!


 『お兄ちゃんすごい! お兄ちゃん、かっこいい!』などと女の子に大人気なのだ。


 そして今日も熱い声援を送られながら畑仕事のお手伝いをし、村の近くに現れた魔物を華麗に退治してまわった。


 はっきり言おう。この世界に来て初めてチヤホヤされたのだ。たとえそれが幼女だとしても嬉しいものである。


 しかしそんな生活も唐突にピリオドを告げる。


「悠太様、いつまでここに留まるおつもりですか。いい加減にして下さい!」

「そうですよ。これ以上の遅れは許されません。まだ駄々をこねるようでしたらお仕置きです!」


 二人からの叱責が止まない。

 ちなみにまだ三日しか滞在していないのにだ。

 すり減らした心はまだ満たされていない。

 俺は不貞寝という高度な抵抗を試みるが、そんな抵抗も簡単に瓦解し二人に屈服することになった。


 いわゆる飴と鞭。つまり色仕掛けである。


 色仕掛けと言っても甘く優しく囁かれただけだが、ヒルデにやられたらとしたら話は別だ。

 普段との落差があり過ぎて俺は簡単に籠絡された。



 出発の日の朝。俺は悲しむ幼女達に後ろ髪を引かれながらも心を鬼にして泣きながら旅立った。


「悠太様、また訪れればいいのです。きっとまた暖かく迎い入れてくれるでしょう」


 ヒルデは俺の頭を優しく撫でてくれた。

 ちゃんとしてたらご褒美をあげますよ。そっと俺の耳元でヒルデは囁いた。




 ◇


 それからは特にトラブルもなく、水の公国首都ティスルに着いた。

 都市の周囲は堀で囲われ、その堀には水の公国の名に相応しく、透き通る綺麗な水がまるで川のように流れていて、都市の景観を美しく演出していた。


 そして堀に架かる橋を渡り、無愛想な衛兵の検閲を受けた。表情からそのやる気のなさ。あからさまに面倒だという雰囲気を放っている。そんな衛兵から商業許可証やらなんやら言われ、身分証の提示を求められたが、エイルがそつなく対応して事なきを得た。


「エイル、俺の身分証なんてあったんだ。ちゃんと用意してたなんて流石だよね」

「いえ、身分証などありませんよ。お金で解決しました」

「お金? 仮にも女神の国なのに。そんな簡単に買収されるものなの」

「命の価値が軽く、簡単に命を落とす世の中で、身分証なんて形式的な物にすぎません。無ければ殺して奪えばいいし、そこら辺に転がっている死体から漁ればいいのです。お金さえ払えば大抵はなんとかなりますよ」


 そりゃあそうか。本人写真が貼ってある訳じゃないし、そんなもんだよな。


「でも悠太さん。わたし、前に教えたよね。覚えてなかったのかなぁ」


 あっ、口調が元に戻ってる。目が怖い、笑顔がとっても怖い。


「ははは、やだなぁ。覚えていましたよ。確認しただけですよ。もう、あはは」

「なんか笑って誤魔化していませんか。まあいいですけど」


 ジト目で、俺の心を見透かすような目で見ないでください!


「エイル。ここまで色々あって忘れただけです。あまり悠太様を虐めないでください」

「どうしたんですか。規律に厳しいお姉様にしては随分と優しいのではありませんか。もしかして、ひょっとして、うふふふふ」

「なんですか、その目は! ま、また、悠太様が拗ねてしまったら大変だと思っただけです」

「そうだよね。ユータが拗ねると長いもんね。今まで女性にイジられた事がないから抵抗力がないんだよ。まあ今まで散々女性を弄んできたんだから、しっぺ返しだよね。自業自得ってやつだね」


 おいおい。俺を置いてきぼりにして、好き勝手言わないで欲しいんだけど。


「なんだよ、散々弄んだって。遊んでねぇーよ。付き合わないだけで、いつだって本気だよ、俺は」


 両隣からの冷たい視線と胸元から見上げてくる冷たい視線がとても痛い。


「でもしょうがないよね。あの御方が言った事だし。たくさん恋をしなさいってさ」

「でも恋をしたからといって、全ての人と肉体関係を結ぶことはないでしょう。こればかりは理解できません」

「そうかしら。わたしには真似できませんけど、そういう愛の形があってもいいんじゃないですか。お互い納得の上でしょうし」

「でもねぇ、案外そうでもないんだよね。女の子に刺されそうになってたしさ。あの時はあの御方と一緒に笑って見てたんだけど。うっ、思い出すだけで笑いが込み上げてくるよ」


 なにそれ、なんでもかんでも知りすぎ!


「なあノア。いや、クロノア。俺にプライベートはないのか。俺ばっかりずるいだろ。おまえも教えろよ!」

「わたし、ユータみたいに知られて不味いことなんてないからね。残念だけど教えることなんてないのよね」

「くそっ、勝ち誇ったような顔して。いいよ、そういうかわいくないマネをするならコンビ解消な」

「はっ! そんな事言っても無いものは無いの! お生憎様、わたしから離れられないのはユータのほうでしょ!」

「あんだと、もう謝っても許してやんねぇからな!」


 胸元からノアを追い出した。


「ユータこそ、謝っても許してあげないからね!」


 俺たち二人の喧嘩がエキサイトしかけたタイミングで、ヒルデに頭を叩かれて怒られた。


「もう宿屋に着くから大人しくしてください。今日は別々に寝て、お互い反省しなさい」


 その後、宿に着いてからもクロノアと二人でヒルデにこってりと怒られた。


 俺が悪いのか。いや、たぶん俺は悪くはない。

 そんな事を自問自答し、夜は更けていく。


 しかしずるいよな。

 なんで俺ばっかり、プライベートを覗き見されてんだよ。

 まったく理不尽にも程がありませんか、女神様。

読んでいただきありがとうございます。

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