邪神様、闇の女神様です
「私が連れて来たの。はじめまして、佐藤悠太さん。私はヘカテー、闇の女神よ。これから、よろしくお願いしますね」
凛子に闇の女神様。どうなったら、こういう組み合わせになるんだ。まあ分からない事は聞けばいいか。
「こちらこそ、よろしくお願いします。ヘカテー様が凛子をこの世界に連れて来たのですか。でも、俺の知ってる凛子は二年前に病気で亡くなったんですが。一体どういうことですか」
「大方、ノルン達から聞き出したんでしょ。流石のわたしも、この女剣士の登場には驚かされたわ」
「大正解よ、クロノア。そう、お姉様とクロノアが秘密で何かをしていると勘づいた私は、ノルン達にお願いして、悠太さんの事を教えてもらったの。それで悠太さんと絆のある娘を勧誘した訳なのよ」
言ってる意味がよく分からない。
「もう少しマトモなのがいたでしょ。よりによって、なんでその狂人を勧誘するのよ。驚きすぎてユータをサポートするのも忘れたわっ!」
おっ、珍しく助けてくれないと思ったら、驚いてるうちに乗り遅れたってことか。
「そうか、そうだよな。ノアも俺の事を見てたから凛子のことは知ってるよな。まあ、嫌でも凛子の事は覚えるよな」
「クロノア、そんな酷い言い方しないで。凛ちゃんは一途で不器用で、かわいい娘なの。あんなに悠太さんと一緒に遊びたがっていたのに。若くして病気で亡くなるなんて不憫じゃない。それに夜叉姫って渾名も気に入ったし」
確かにそんな風に呼ばれてたな。主に恐怖の対象としてだけど。
そんな凛子の方を横目で見ると、まだ泣いていた。
「もういいわ、ヘカテー。あんたがちゃんと責任持って、その狂犬を飼いなさいよ。間違ってもヴェールには入れないからね」
凛子が狂人から狂犬になりました。あまり変わらないけどさ。でもなぁ。凛子がそう呼ばれるのはなんか嫌だ。
「えっ、せっかく再会できたのに。また離れ離れにするような酷い真似は、私にはできないわ。凛ちゃんが可哀想じゃない。ね、エイルもそう思うでしょう」
「え、いきなり私に振られても困ります。けれど、確かに少し可哀想かとは思います」
「エイル、騙されちゃダメよ。さっきの見たでしょ、この子は危ないの。ユータの貞操も危ないわ。わたしの勘がそう告げてる」
「おい、ノア。俺の貞操ってなんだよ。変な事言うなよ」
「凛ちゃんも、弱い魔族の相手をするのも飽きたと思うし。それに凛ちゃん凄いのよ。強すぎて魔王から求婚されたんだから、凄いでしょう」
なんだ。魔族って凛子に負けるのか。
なんか想像してたより、魔族って弱いのか。
「はああぁ、そりゃあ、未来視の魔眼があれば楽勝でしょうよ。でも、生憎そんなのはユータには通用しないけどね」
「ノア、なんだその物騒な魔眼は。未来が視えるのか」
「そうよ、ユータ。どのくらい先を視えるのかは、その娘の資質にもよるけどね」
「あら、さすが唯一無二の時の大精霊クロノアね。あっさりバレちゃいましたか」
「当たり前でしょ、バカにしないでよね。で、あんたはわざわざ何しに来たの」
話があっちこっちにいって付いていけない。
まあ、クロノアが話してるとそうなるよな。
「お姉様の愛しい方を、この目で直に確かめたかったのと。他の女神の事を伝えに、でしょうか」
「なんで最後疑問形なのよ」
「だって貴方達、あの女神達のことを歯牙にも掛けてないでしょう。一応、あなた達のことを様子見するらしいわよ」
「そこまで侮ってないけどね。でもヘカテーも凄いよね、平気な顔をして、まだあいつらと付き合ってるんだからさ」
「お姉様の言いつけですからね。それは我慢もしますわ。でもこの前は腹が立って、少し言い過ぎましたけど」
なんだ、要はスパイってことか。
この世界の女神システム、ほんとよく分からん。
しかしこのまま話を脱線させてもしょうがないので、横から口を挟む事にした。
「ヘカテー様、とりあえず凛子は連れて帰って下さいね。申し訳ありませんが、今凛子に構ってる暇はないので、ちゃんと連れて帰って下さい」
「あら、随分冷たいのですね。もう少し同郷の者と親睦を深めたら如何ですか」
ヘカテー様は未だに泣いている凛子に視線を移した。
「また勝負を挑まれても堪りませんから。しばらくは遠慮しておきます」
「そうですか。でもたまには会いに行かせても構わないですよね。あなたと一緒に居たくて、此方の世界に来たのですから」
「はい。ただ、いきなり勝負を挑んでくるのだけは、やめさせて下さい」
「分かりました。その事は約束させますので安心してください。では凛ちゃん、今夜は大人しく帰るわよ」
まだ泣いている凛子を優しく立ち上がらせて、クロノアやヒルデ、エイルを順番に見て一度頷いた。
「では、今夜はこれで失礼します。悠太さん、今後は親しくさせて頂けたらと思いますので、以後、お見知りおきを。それと、お姉様にもよろしくお伝えください」
そう言うと、ヘカテー様と凛子は一瞬で消えた。
まさに嵐だった。大きく息を吐いて、俺は項垂れた。
「悠太、大丈夫ですか。これでも飲んで落ち着いてください」
ヒルデは葡萄酒に蜂蜜とハーブを入れた温かいお酒を手渡してくれた。
「狐耳の幼女に出逢えた幸せが、全て吹っ飛んだ気分だ」
思わず、口から出てしまった。
「ユータ、まさかあんたロリコンに目覚めてしまったの。それは禁忌なの、禁断なの、絶対にダメなんだからね!」
「あほか。んな訳あるかよ」
「悠太さん、もしかして欲求不満なのかなぁ。私が癒してあげるよ」
「さっきまでおとなしかった癖に。何度も言ってるだろ、エイルとは絶対にしなから」
「はあああ、なんでですか! ちびっ子とスレンダーなお姉様は良くて。パインパインな私の胸には興味はないのですか! いや、いつも私の胸をエッチな目で見てるし、ほんとは揉みしだきたいのでしょう。さあ、我慢せずに来てください。私と愛し合いましょう!」
……エイルがまた壊れた。
この後も騒がしく夜が更けていく
俺はその様子を眺めて、また深いため息を吐いた。
女神様、今すぐあなたに逢いたいです