2話 買取不可
寝る前にスマホを触る。SNSで客の評判をチェックしてみると、有名コレクター【抹茶ゼリー】の書き込みが炎上していた。どうやらうちの店で一万の福袋を買って二千円分しか入っていなかったという内容で、写真もある。それは店にクレームを言いに来た客の内容物とほぼ同じ。だが、【抹茶ゼリー】が購入した証拠も無いし、何よりレジにいた僕が彼を見ていない。恐らくは知り合いの代わりに晒しているのだろう。さも自分が被害者を装って。卑怯者め。別に部外者が口を出すなとは言わないが、鵜呑みにする馬鹿が沢山いるのがSNS。放置はまずい。店に変な奴が乗り込んできて暴力沙汰だけは勘弁だ。
個人アカでにリプライを送って鎮火をはかる。
『定価で計算したら一万超えてるから文句は言えない。他の店の福袋もこんなもん』
直ぐにリプライがあった。しかし、【抹茶ゼリー】ではなく初めて見る名前の人から。
『フォロワー三百人のあんたが何言っても説得力が...』
ぐぬぬ。フォロワー数信者め。フォロワーが多い人が言うことが正しいという神話を信じている馬鹿。一つの発言が自分やビジネス仲間の利益を損ねる結果になりかねないコレクターの世界では、フォロワー数が多い人ほど不利益な真実は口に出さない。
「フォロワーの数で真実が決まるかよ」
馬鹿を相手にしてもワクワクしないのでスマホを置いて寝た。
「おはよう」
早めに出勤すると、天壌は左手に新品パック右手に怪しい機械を持っていたが、機械の方を慌ててエプロンの中に隠した。
「グッモーニン。そこのカード出しといて」
適当な指示を出して何事も無かったかの様にパックを片付け始めた。どう見ても怪しい。それに今の機械...。
「なあ、その機械、サーチ機じゃないよね?」
「マーママママママ!マッマッマー!」
どう返事しようかと困った様子だったが、暫くして黙って機械を取り出してパックに重ねた。すると、機械は赤く点灯した。
「サーチ対策しない企業の怠慢は見え見えの弱点故に据え膳食わぬは武士の恥」
「ズルしなきゃ稼げないのかい?」
「カドショのサーチは蔓延した流行り病の如く。未開封のカートン以外はサーチ済み請け負い」
「そんなやり方じゃ」
「理想で店は黒字にならないべ。客の儲けは店の涙。いいか?客は能無しの転売乞食。搾りカスになるまで搾り取っていい養分としか形容しがたい生き物」
どうしようもないクズ発言だな。
「パックのサーチはすぐにバレるし、長い目で見れば店の損失だ」
「だから」
彼女が何かを言おうとしたところへ、すぐさま言葉を重ねた。
「パックのサーチは止めてボックスのサーチだけにしよう」
その一言で黙った。
「カートンから大当たりのボックスを抜くのは見逃すよ。君の言う通り、他の店でもやってるし、客にバレにくい。僕だって君の評判が下がるのは嫌なんだよ」
彼女は暫く下を向いて黙っていたが、やがて薄く息を吐いてこう言った。
「負け負け」
エプロンからサーチ機を取り出して軽く投げてきたので、キャッチしてポケットにしまった。
タイムカードを押してカードの陳列を始める。ショーケースに並ぶのは一万を超える高額カードばかりで、値段は妥当だった。ぼったくりでもお得でもない。安いカードを仕入れていないのはコレクター向けの高級路線でいくつもりかな。
どんなカードを入荷したのかな。
目線を落とし、陳列用のカードを一枚ずつ捲っていく。先頭は初期カード。シンプルなデザインとアンティーク感が良い。続いてレリーフ。イラストに合わせて凹凸が付いており、美しいカードだ。その後にノーマル。安価だがイラストを一番楽しめる。加工に邪魔されないので視線誘導に気付きやすい。絵師が絵に込めた意図と向かい合う瞬間が楽しいカード。
「お...」
手を止めたのは名前の箔押しが無いカード。コレクターからは【ネームレス】と呼ばれるエラーカードだ。値段は三万円。絶妙だ。偽物のリスクを考えればそのぐらいでないと買い手がつかないだろう。
しかし、これは本物か?
除光液や消しゴムで金箔を擦ると消すことが出来る。それを悪用して【ネームレス】を偽造して売り捌く詐欺師もちらほら見かける。ただ除光液で消しただけではネームの凹凸が残るのでその有無で判断する人も多いが、それさえ消す方法もある。なので【ネームレス】は全て偽物という認識をしている僕だが、詐欺を立証するとなると難しい。なにせ偽造の痕跡は肉眼ではわからないし、本人が除光液で消したと白状する以外に術が無い。だから何も言えない。ちらっと彼女の方を見ると、きびきびと動いていた。いつ見ても彼女の行動は自信に満ちていて力強い。それでいて案外仕事熱心だ。まだ二日目だけど、あいつが休んでる姿をまだ見ていない。
黙々と陳列作業をこなし、レジへ戻った。
「終わったよ。陳列していて気付いたけど、シングルカードが少なくないかい?それに、低価格帯を置かずにコレクター向けがメインなのに、十万を超えるカードも無くて中途半端になってると言うか」
「数万くらいの比較的買いやすいカードを中心にして回転率を上げるべ。あと、うちのメインはオリパだがや。シングルの大半はオリパに入れるべさ」
「実質オリパショップか」
オリパ専門の通販店から成長して実店舗を構えるショップもあるし収入源としては悪くないが、オリパ詐欺は後を絶えず印象が悪い。名のあるコレクターが店を構えたかと思うと詐欺オリパで炎上するなんてよくあること。
天壌は僅かに微笑むと、
「イカサマ無しで儲かるのがオリパだべ。あ、そうそう、今日から買取を始めるから、説明しとくべ」
と、パソコンに繋いだ顕微鏡みたいな機械を指差した。
「もしかして」
僕が答えを言おうとすると、口の前に指を立てた。
「まあ、見てな」
適当にカードを取りガラス張りの台座に置くと、下から光の線が上から下に流れた。するとパソコンの画面にいくつかの文字が表示された。傷の箇所とその数。そして、七と表示されていた。
「AIによる自動鑑定だべ。十段階評価と傷の箇所の説明付き。オリパのレート計算は勿論、これなら通販で安心してカードを買えるべ。こっちも売買が楽ちんだし、人件費も削れる。だから店舗は買取とオリパ販売をメインにしようと思うさ。オンラインオリパもやるべ。一瞬で結果がわかるし、不要なカードはポイントに変換可能だべ。まあ、大手みたいに一日の売上が数千万とかは出せないだろうけど」
にひひ、といやらしい笑みを浮かべる。
まったく、頭が痛くなる話だ。
「オンラインオリパはまだ規制がかかってないだけでパチンコより危険なギャンブルだということは認知され始めてる。一時間で数十万溶かす人もいるからな。規制がかかったらそれからどうやって稼ぐつもりだい?」
「ダイジョブダイジョブ!規制がかかる前に荒稼ぎして逃げ切る程度の腕前!」
ガッハッハと愉快に笑っている。
不安だなー。
開店。
昨日の炎上騒ぎもあってか開店前から並んでいた客は一人だけで、軽く挨拶してから入ってもらった。そいつは店をぐるっと歩いて回り、オリパを全種類一つずつ買って帰った。変な買い方するなーと思いはしたものの、カードやってる奴らなんて大概どこか変わってる。だから特に気にしなかった。
それからポツポツと客が入り、休憩からあがる頃には【ネームレス】があった場所は空になっていた。売れたのだろう。どんな物にでも需要はあるものだなぁ。
翌日、天壌が陳列を終えた後にショーケースを見に行くと、またしても【ネームレス】が入荷されていた。別のカードとはいえ流石に連続入荷は怪しい。そこで、仕事終わりに秋葉原でカードを買い集め、自宅で【ネームレス】を作ってみることにした。コレクションの世界は論より証拠だからだ。偽造カードだと言うなら、作り方を実演しなければ納得しない。
作り方は簡単だ。百均で買った除光液をカードに数敵垂らし、ティッシュで強く擦る。すぐに金箔は銀色に変色した。この状態で【銀文字】エラーとして売る詐欺師もいる。更に擦ると金箔は完全に消えた。これが【ネームレス】。当然この状態では消した後に凹凸がある。これを同じカードで複数枚作る。すると名前の凹凸が深い物と浅い物が出てきて、中には完全に凹凸の無い物まであった。これは製造する時期によって箔押しの強弱が激しい物が存在するからだ。中には爪で擦っただけで消える物もある。
「さてと、どのレベルの凹凸までなら消せるかな」
ネットで調べた秘密兵器が通用するか否か、いざ勝負。
翌日。
「天壌さん【ネームレス】だけど偽造してないよね?」
出社と同時に尋ねた。
「ま、まさか...」
床に腰を下ろして右手で脛毛の脱毛をしながら左手で骨せんべいを貪っていた彼女の目がお魚みたいに泳ぎ始めた。
彼女の素行には触れず、昨日自作した【ネームレス】を机の上に並べた。脱毛を中断して見にきた彼女の額に汗の粒が浮き上がるのがわかった。
「これは僕が作った偽造エラーだ。除光液で消しただけだから名前の凹凸はある。だが、これにあることをすればこの凹凸さえ消える。実際にやってみよう」
僕がカバンからアイロンを取り出した瞬間、泳いでいた彼女の虹彩は遂に眼球から離れてスタッフルーム内をピンボールみたいに飛び回り始めた。
濡れたティッシュを使って名前部分に少しずつ水を含ませてから、電源を入れて熱したアイロンをカードの名前部分に当てると凹凸は完全に消えていた。
「紙の修復で調べたらアイロンが出てきてね、試しにやってみたら上手く消せたよ。どうだい?君が入荷した物と全く区別はつかない。買取してもらえるかな?もし無理だと言うなら、買取したカードとの違いを聞きたい」
彼女は魂の抜けた表情をして押し黙った。いや、抜けているのは魂ではなく虹彩だが。その虹彩は目の前を縦横無尽にビュンビュン飛び回っている。物理的におかしいだろ。
天壌は何も答えようとしなかった。都合が悪いと黙るタイプだ。
はあ、言っても無駄か。
「いいか、二度と入荷するなよ」
天壌は飛び回っていた虹彩を目に見えない速さでキャッチして眼球に戻した。
「...へい」
どうなってんだその目玉と思いながら開店の為に入口を開けると、それはいた。
「やあ!おはようございます!」
貼り付けた様な笑顔に、さっぱりとした短髪。グレーのスーツ姿の若い男。死んだ目をしたこいつが【抹茶ゼリー】だ。自分を棚に上げて他人を叩いたり、叩いていたサービスを利用して金儲けしていたり。こいつの発言は翌日には真逆になってもおかしくない。だから僕はこいつが嫌いだ。
「いらっしゃいませ」
悪い噂も色々聞くが、今はお客様。感情を顔に出さずに中に入れた。彼は一直線に買取レジへと足を運び、ポケットからカードを出した。天壌は即座に買取を拒否。両手で頭の上にバツを作った。何のカードかと気になって近付くと、世界大会で上位に配られたレアカードだった。狙っているコレクターからすれば喉から手が出る程のカードだ。
しかし、
「これさ~、裏で大量に在庫あるって噂になってんだべ。買取に出すなら店を選びな」
天壌がうざったそうに言うのを見て、僕は顎をさすった。
「噂は噂!真実とは違いますよ!」
【抹茶ゼリー】のハイライトの消えた瞳の奥で闇が蠢いたのを感じた。
「持ってくるなら東京ドーム大会とかアジア大会とか、まだ情報を隠せてるものにするさー。もはや世界に一枚とか二枚とか言っても馬鹿しか信じねぇべさ」
コレクションをする上で避けられないのが流出問題だ。大会で一枚しか配らないカードもアンカットシートで印刷する都合上数十枚は同じ物を作る。昔の大会景品になったステンレス製のカードも六四枚が印刷された巨大なステンレスの板を切り分けたという噂だし、大会のカードはどれも二桁は生産されている。配布されなかった余りを関係者が売りに出したものが流出カードだ。【抹茶ゼリー】が持ち込んだのも大会で配布されたクリスタル入りのものではなく、何枚も流通が確認されているクリスタルに入っていないカードだ。正規のルートから市場に出た物ではない為、盗品だなんだと批判的な目で見るコレクターも少なくない。
天壌に正論を言われても尚、彼は強気な態度を崩さなかった。
「ふふ。カードコレクターなんて馬鹿ばっかりですから正しい情報を探そうとする人はあんまりいませんよ。公式の出す本に世界に一枚と書かれていたら鵜呑みにします。一握りの本物のマニアを除いてね。それに、流出を気にするピュアなコレクターなんて実際はいませんよ。口先だけです。他人が持っていたら文句を言うだけで、自分のは流出じゃない証拠が無いとか都合のいい見方しかしないでしょ。ですから大丈夫。これも買取お願いします」
心の笑っていない笑顔でカードを天壌へ突き出す。
うわぁ、清々しいクズだな。まあ、一理あるけど。カードの流出はなにも大会のカードだけじゃない。市販パックのノーマルカードまで全てのカードが流出している。故に、カードをコレクションしている全員に流出カードを所持している可能性が存在する。可能性に過ぎないから無罪とし、確実な流出カードだけを叩いているがそれはどうなのだろうか。
二人は買い取れ買い取らないで押し問答を繰り広げていたが、結局諦めて店内をぶらつきだした。暫くして呼ばれたかと思うと、
「このオリパ、残り全部買います」
「え、全部...」
一瞬耳を疑った。
「全部です」
もう一度言われてショーケースを見た。それは二日目に一パックだけ売れた内の一つだった。オリパというのは少量だけ買って大当たりを狙うギャンブルが醍醐味だが、当たり次第では全部買って得をする場合があり、金持ちが全部買う場合がある。
「全部...」
嫌な予感がした。全部買いはトラブルが多い。オリパは当たり抜きが恒常化しているからだ。全部買ったのに当たりがいくつか無いとか、そういったケースが有名チェーンでさえ起きている。そして、店長は自分は作成に関与していなかったとか高校生みたいな屁理屈を並べて責任転嫁をする。潔く非を認めたり誠心誠意謝罪する奴はいない。【抹茶ゼリー】もSNSで総額数百万のオリパを何度も販売するオリパ屋の一面があるが、当たりを引いたのは普段オリパなんか買わない怪しいサブ垢だった。彼には確実に裏がある。そんな奴が全部買いとか、天壌を嵌めようとしてるのが見え見えだ。そして何より、天壌はヤってる!抜いてるだろ当たりを!けれど、購入したいと言われれば拒否する訳にもいかない。
「お買い上げありがとうございます」
「店内に開封するスペースってありますか?その場で開けるのが好きなんですよ」
白々しい。買ってその場で開封して当たりが無ければ店は言い逃れ出来ないからだろうに。
「そちらのテーブルなら使っても大丈夫です」
レジ横のテーブルを案内すると、彼は監視カメラを一瞥してからレジへ移動して会計を済ませた。
「いやー、楽しみですねー!」
彼は監視カメラに映る角度で商品の開封を始めた。天壌を横目で見ると凄く嫌そうな顔をしていたので僕は確信した。彼女はヤってると。
ああ、終わった。
開封から二十分が過ぎた頃、全ての中身が判明して彼は声を上げた。
「あれ?大当たりのカードが無いんですけど?」
案の定、当たりが出なかった。不服そうな顔をしながら天壌を見据える。対する天壌は、圧倒的に不利な立場にありながら不敵に笑っていた。
ま、まさか。
またしても嫌な予感がする。こういうケースではカドショはある常套句を馬鹿の一つ覚えで発する。その言葉とは...。
「先に一つ売れていたから、それが大当たりだったんだべさ」
天壌は悪びれもせず、腰に手を当てて生意気に言い放つ。確かに先に別の人が一つ買っていった。しかし...。
「そんな都合よく大当たりを一パックで引けますかね?大当たりの場所を教えてサクラに買わせたんじゃないですか?」
そう。普通はそう考える。
「お前とそいつがグルじゃなかと?店の評判を落とそうとしてんじゃねぇよな?はい論破論破ロンロンロンロン!」
発想を逆転しやがった!店との関係を証明出来ないのをいいことに、客とグルだと押し付けた!確かに可能性としてはある。しかし、可能性があるというだけで、接客業としては天壌の態度は最悪!別問題でやばい!そこを突かれると何も言い返せない。
が。
「うーん、証拠を出せないので諦めます」
「ったりめぇだ」
え?
【抹茶ゼリー】は速やかに荷物を片付け、颯爽と出ていった。
「いいのかそれで!」
モヤモヤが爆発して地団駄を踏む。
「わ!どした御仁!」
「証拠が無くても完全に店が怪しいだろ!なんなんだよこの証拠を出せなきゃ無罪みたいな風潮!アーッ!」
天壌は呆れた様子。
「馬鹿に対して思考することは時間の無駄という結論に至るまでの思考すら時間の無駄」
「かぁ~っ!イラつくっ!」
閉店後。
「う~ん」
彼女は両手でヨーヨーを振り回しながら売上を見て唸っていた。成果が芳しくないのだろう。今日の様なオリパ全部買いはそう何度もあるもんじゃない。それが無くても黒字にならないと厳しいのではないだろうか。僕はヨーヨーの弾幕をかわしながら話し掛けた。
「まだオープンしたばかりだよ。認知されれば売上は自然と伸びるさ」
ヒュン!と口のすれすれをヨーヨーが通過した。
危ねぇ!
「う~ん」
床にぶつかったヨーヨーが床を滑って足下にやってきたので飛び退く。ヨーヨーはそのまま壁にぶつかって登っていき、更には天井を走っていく。
つか、なんでヨーヨーやってんだろう?まあ、いいか。
「経営者だから売上を気にするのは当然だけど、あんまり考え過ぎない方がいいよ」
「う~ん」
何をそんなに考えているのだろうか。以前からよくわからない奴だったが、遂に壊れたか?
「じゃ、僕は帰るよ」
ロッカーへ向かう途中、後ろからヒュオッと風を切る音を耳にしたので咄嗟に屈むと、頭の上をヨーヨーが通過した。さっき天井を走っていた奴だ。それは一直線に天壌の手に戻っていった。壁を走っていたもう一方も手に戻っていき、二つのヨーヨーは彼女の手に納まった。
「なあ、売上が思うほど伸びてないんだけどさ」
何事も無かったかの様に話し掛けてくる。
オープン初日から詐欺やっといて何言ってんだと思いながらも振り返った。
「あたしが思うに、SNSでの宣伝が貧弱、陸に打ち上げられた魚に等しい」
なんでだよ!お前の詐欺が原因だろ!
とは流石に言えず。
「つまり、プレ企画を増やせってこと?」
コレクターの個人垢でも年に数回プレ企画をしてフォロワー数を増やしている人はいる。数千人くらいなら余裕で集まる。ただし、虚栄に過ぎない。天壌もそれはよく理解しているだろう。彼女自身フォロワーが五千人もいるが、グッドボタンは数十が限界。普段は一桁だ。殆どのフォロワーはフォローしているが彼女に興味が無い。プレゼントを貰えるときだけ湧いて出る。そんなものを増やしても何の意味も無い。
「乞食の餌やりは比類なき虚無の極み。次善策の担当者チェンジくらいが現実的な落としどころかなぁと」
んーと、つまり、SNS担当を交代ってことかな?
「ええ~」
「実力乞食には本物の手腕から学ぶ時間が最も大切だということが身に染みる頃には手遅れお粗末様太郎」
頭大丈夫か?日本語話せや。はぁ、心配だなー。こいつだけじゃないけど、コレクターの中には他人を馬鹿にする発言をして恨みを買ってるのに店を開いたりする奴いるからなー。正直に言って、天壌への復讐目的で嫌がらせしてくる奴が未だに現れないのが奇跡レベルだね。詐欺の被害者が襲ってこないことを祈るばかりだ。
「いいよ。交代しよう」
帰ってから速攻で店のアカウントを確認した。天壌の情報発信第一号は入荷情報らしく、値札の付いたカードが並べられていた。
意外と普通だなと思って文章を読んでみると。
『レアリティマウント猿をシバキあげる武器入荷チェケラ!』
うっっっわ!
「きっっっしょっっっ!!」