最終話
一週間のうちの三日目が経った昼休み、バチンッと教室の中で大きな音が弾けた。あいは特に興味もなかったが不快に思いながら首だけを回してそちらを見た。
「もう一回言ってみろ……」
彼女が、ぼろぼろに泣きながら男の胸ぐらを掴み上げていた。
「もう一回言ってみろ!」
彼女の怒声が教室中に響き渡る。歯が欠けそうなぐらい強い食いしばっていた。彼女のグループはどうすればいいか戸惑っておろおろしている。そのうち掴まれている男の方がキレた。
「吉川ってバカだよな って言ったんだよ! 勝手にいじめられてると思って死にやがって、いい迷惑だよほんとっ」
「ふざけんなぁっ!」
彼女は男に掴みかかって押し倒した。
「吉川はお前のことが$¢£%#&*」
怒鳴り散らしながら彼女は泣きじゃくった。途中から言葉になっていなかった。
その姿は強かった。美しかった。
吉川の死で彼女もあいと同じ負っていた。だけど彼女は死を感じさせなかった。忘れたわけでもなかった。後悔の満ちた中でただひたすらに生きていた。吉川を連れて生きていた。
わたしもあんな風になれたら。
あいは思う。彼を連れて生きていけたら。
彼女やあいは気づくのが遅すぎた。吉川はもう死んでしまっていた。だけど戸上は違う。戸上はまだ生きている。
わたしもあんな風になれたら。
違う。わたしもあんな風になりたい。なろう。彼を連れて生きて行こう。
戸上は図書室のいつもあいが座っている向かいの席に居た。あいが近づいて来るのを見つけると冷たい表情のままで片手を挙げた。
「決めてくれたかな?」
もう恐くない。あいは思った。彼の無表情に呑み込まれることはもうない。
「うん、決めた」
あいは静かに、少し大きく息を吸い込んだ。
「夏になる前ならわたしもあなたと一緒なら死にたいと思ったかもしれない」
彼はわずかに目を伏せた。あいに興味を無くしたんだと思ったがそうではなかった。「どうして?」彼は打ちのめされたような表情で声を絞り出した。
「あいを思い出したから…… だと思う」
あいは“愛”を知っていた。忘れていただけだった。両親が死んだとき二人は“あい”を庇った。
叔母が大学まで行くためのお金を貯めておいてくれたのは世間体のためではなく“あい”のためだった。
あいは彼を単純に好きなのではなかった。愛していた。彼に死んで欲しくなかった。
「わたしはあなたに“あい”を知って欲しいと思う」
あいは何年も見せていない笑顔を彼に見せた。笑い方を忘れていないか不安に思った。
「死なないで。きっといつか違う見方ができるから。いえ、違う世界をあなたに見せるから」
あいは泣いていた。彼も泣いていた。
あいは笑顔のままで、彼は無表情のままで。
長い沈黙が二人を包んだ。やがてぽつりと言った。
「一つ、知ったよ」
彼はぼろぼろに泣いたままキレイに笑った。それは彼が幼い頃に無くした、偽物でない、ましてや寂しそうなんではない、本物の笑顔だった。
「あいは笑うととても綺麗だ」
はい、「あいをください」って言う某超有名曲のフレーズからなぜかポツリと浮かんだ「あいをしらない」でしたm(_ _)m
んむ、暗すぎだ。しかも4000文字ぐらいだった短編よりなんとなく薄い気がする。
正直期待外れだった人はごめんなさい。タイトル負けとか言わないで……
まあこれはこれで月島 真昼だろ、ではm(_ _)m