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魔法学校の死神  作者: 國沢梨保
入学編
5/5

ルームメイトー1

ー周囲の光景が輪郭を持ち始めた。まず初めにカルムの目に飛び込んできたのは窓だ。部屋自体広いわけではわけではないので窓は一つしかないが、そこから差し込む日光は十分明るい。もっとも、暗ければ蝋燭なり魔法なりで光源を確保すればいいのだが。次に視界に映ったのは壁向きに並べられた二つの机だ。それなりに大きいため、勉強スペースが足りないなんてことにはならないだろう。その上には親切に自分の荷物が置かれている。サンヘルムに来る前に送っておいたのだ。そのまま視線を横に移せば、木製の二段ベッドがある。二段目に上がるためのはしごもついている。ただ、一段目と二段目の間隔が広くはないため、一段目を使うことになったら起きる際に頭をぶつけないように心掛けなければならないだろう。

そして最後にその視界に捉えたもの。それはカルムの左に立つ人物、ルームメイトだ。カルムは「レスターみたいな気さくな奴だといいなあ」などと考えていたが、そこに立っていたのはー


「………。」

「………。」

「女!?」「男!?」

「え、ちょっ、ええ?? 男子と同じ部屋なの!?」

「いやいや、それはこっちの台詞だ。てっきり同性同士なのかと思っていたぞ…。」


女子だ。紛れもなくそこには女子が立っている。この事実に、カルムは一瞬気を失いかける程の衝撃を受けた。 

一つの部屋に二人がともに住む。そしてここは学校だ。これらを踏まえれば、普通は同性同士で部屋を割り振るものだろう。すくなくともカルムはそう考えている。ましてや、カルムを含む新入生の大半は15歳だ。カルムはそこらへんのことには常識的な倫理観を持ち合わせているつもりだが、若い男女を一つの部屋で生活させるなど、ろくなことになるはずがない。


(やってくれたな教師ども……)


カルムは心の中で姿の分からないサンヘルムの教師たちに罵声を浴びせ始める。

永久に続くかと思われる罵詈雑言の嵐が止んだのは、その女子が話し始めたからだ。その声、表情からは不機嫌さが十分に伝わってくる。


「…まあ、こうなってしまった以上仕方がないわ。先生方が決めたんだから。とりあえず、挨拶はしておくわ。フィルシィ・アネットよ。よろしく。」

「よろしく。カルム・エルトライトだ。」


カルムは軽く微笑んで見せるが、フィルシィはプイッとそっぽを向いてしまった。彼女と上手くやっていける未来が全く見えない。


「…とりあえず荷物の整理をしようか。」

「ええ、そうね。」


二人は靴を脱ぎ、部屋の床に上がる。この“靴を脱いで部屋に上がる”というのは元々東洋の文化だったらしいが、カルムは小さいころからそうしていたのでそれに馴染んでいた。

カルムは机に置かれた四角い鞄を開け、荷物を取り出す。衣服や魔法書、予備の杖などが入っている。勉強道具は学校で配られることになっているので準備はいらない。

カルムが荷物を取り出している横では、フィルシィもまた同じ作業をしている。その姿を、カルムは横目で観察する。真っ白なポニーテールは彼女が動くのに従ってゆらゆらと揺れている。顔立ちも整っており、その横顔は絵に描いたように可憐だ。同年代の女子と比べれば身長もある方で、スラっとした印象を受ける。誰もが一目見た時には純粋に「可愛い」と思うだろう。カルムだってそうだ。最初に見た時はそう思った。だがその眼の鋭さと気の強さを知った今は、素直にそうは思えなかった。


(可愛いのは認める。だがなぁ…。怖いんだよなぁ……。)


それがカルムの本音であった。


「……何か用?」

「すまない、何でもない。」


どうやらしばらくの間、彼女のことを見てしまっていたらしい。ただでさえ機嫌が悪いというのに、これ以上悪化させては殺されかねないので、カルムは再び作業に戻る。


しばらくして荷物の整理が終わったので隣を確認してみれば、フィルシィは既に整理を終え、椅子に座って読書をしていた。とても集中しているように見える。カルムも読書は好きだ。だからそれに関して思うところは何一つとしてない。しかし今は互いに知り合ったばかりだ。カルムは自己紹介なり何なりで、もう少し相手のことを知りたいと思っていた。


「な、なあ。せっかくだし話をしないか? これから六年も一緒なんだ。食事会までまだ時間もあるし、君のことを教えてくれよ。」

「……分からない? 私は本を読んでるの。話かけないでくれる?」

「すまない………。」


(泣きたい…)


フィルシィの冷めきった返答に、カルムの心は粉砕される。カルムはおとなしくフィルシィと同じように机の前に置かれた椅子に座り、杖の手入れをすることにした。


(本当にどうすればいいんだ…。食事会までまだまだ時間があるって言うのに……)


気付けば無意識にため息をついていた。

カルムは憂鬱な気分を誤魔化すように、かつてないほどに全力で杖の手入れに取りかかる。



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