入学式準備
サンヘルム魔法学校。魔法の更なる発展を目指す様々な研究、次世代育成のための最高水準の教育を誇り、魔法を学ぶものなら誰もが通いたいと願う最高峰の魔法学校である。
そんなサンヘルムの教師たちにとって、入学式というのは自身の誇りにかけて何としても成功させなければならない一大行事である。世界最高の魔法学校の式典が平凡なものであるなど、断じて許されてはならないのだ。
道に、花壇に、噴水に…。教師たちはいたるところに魔法をかけ、歓迎の準備を進める。揺れる道、局所的に降る豪雨、襲い掛かってくる植物等、それらはバラエティに富んでいる。
各人が作業を進める中、一人の教師がぽつりと疑問をこぼした。
「今年の新入生は優秀な子が多いと小耳に挟みましたが、そうなのですかセルギール先生?」
そう言ったのは魔法薬学担当のアリス・ウィリーズだ。しわも汚れも何一つない清潔な白衣を纏った初老の女性教師であり、その温厚な人柄から生徒からの人気も高い。
「ええアリス先生、その通りです。筆記・実技の両試験共に大変すばらしい成績を収めた生徒が多数おり
ました。僕も期待しているのですよ。」
微笑みながらアリスに答えるセルギール・ウォレットもまた生徒からの人気が高い教師である。担当は魔法学であり、その職業柄からか左手は常に腰の左に携えた杖を触っている。若い・美男・高身長というスペックの高さから、特に女子生徒からの人気が高い。
「やはり事実でしたか。セルギール先生が太鼓判を押すのですから、相当なものなのでしょうね。」
「ええ、本当に期待していますよ。」
サンヘルムの入学試験は一次審査・二次審査の二段階審査となっている。一次審査の筆記試験では魔法や魔獣、薬の調合などに関する問題が出題される。そして二次審査では実際に魔法を使ったり、調合をしたりする実技試験が執り行われる。それらは決して簡単なものではなく、特に実技試験に関しては失敗すれば命を落とすような危険な課題ですら当然のように出される。筆記で7割、実技で6割の点数を取れたならば‘優秀'という評価になるのだが、その優秀な人材が今年の新入生の中には数多く存在た。人には優しいが評価には厳しいことで有名なセルギールですら「今年の新入生には期待している」と言ってしまうのには、そういった背景がある。
二人は少しに間雑談を交わしたのち、再び作業を開始した。アリスが植物に対し喋るようになる魔法をかけている横で、セルギールは落とし穴を作っている。もちろん穴は見えないように魔法がかけられている。
曰く、「この程度の小細工、見抜けなくては魔法使いを名乗ることは出来ない」とのこと。毎年数十人の新入生が保健室にやって来るが、大半はこの落とし穴による怪我のせいだ。
セルギールは今年の新入生の高い能力を考慮し、例年よりも念入りに落とし穴の作成に取り組む。今年は保健室が新入生で埋まることだろう。
(そういえば、一人だけ抜群に魔法技術が高い子がいたな。)
セルギールは二次審査を担当しており、その際に見かけた一人の男子のことを思い出す。筆記の点数は平凡なものの、実技の点数は9割を超えた稀に見る逸材。実際に彼のことを見ていたセルギールも、その魔法技術の練度の高さに感服せざるを得なかった。
(…本当に楽しみだ。)
セルギールは更に念入りに落とし穴を作り始めたー。
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