《最終話》〜“密ヤカ”ナル・封印。〜
其の“目撃者”は、シランだった。
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王からの申し出に、悩みをみせていたシランだったのだが、王妃の言葉で、“それもそうか”と、思ったらしい。つまり、腹を括ったのだ。
シランには所謂家名が無かった。ただのシランと名乗って在た。それは彼が誘拐された故に、本当の両親の名を知らずに育ち、そして一時でも親の仇の自分を育てた人間達を親と思い、又、親愛に近い感情すら抱いた事が在るが故に、その彼等から伝えられた“字名”は、二度と名乗らないと決意したからであった。勿論、シランの実の両親と思われる者達は此の国の王の、部下で在った者達なのだから、当然シランの本当の“字名”は分かっているのだが、シランに云わせれば“確証が無い”のだ。故に彼は其れを名乗る事は、しなかった。寝床を与えて貰っただけで、十分だと。それも彼は状況が落ち着いたら、其処からも出て行くつもりでいたのだ。勿論理由ならば、
“此処は王宮だから”と。
一般人の自分が、長く留まるべき場所では無いのだと。シランは王達にそう言ったのだ。自分の決断ミスでシランの実の両親を死なせてしまう事に為ったと考えて在るブラックベリー王は、当然納得しなかった。王にしてみれば“王宮をシランに謝罪としてやってもいい”位の、本音だった。其の位部下の訃報に心を痛めた王であったのだ。ただ、物を与えたからといって、何か解決する訳でも無く、其れはただの自己満足なのだとも、ブラックベリーは理解って在た。故に無理強いしなかった様だ。シランとて例え貰ったとしても、広すぎて扱い切れないのが、現実だった。彼とてやはり理解って在る。だから王と王妃の申し出を素直に受け、王宮の片隅で暮らして在るのだ。だが、
“出たい”にも、理由は在った。
彼とて行く行くは“結婚はしたい”ーーのだ。つまり。
想う相手が“出来た”のだ。
シランは実は、ペルウィアナへの想いに敗れた事が在る。敗れたと云うより其れ以前に“伝わらなかった”のだ。ーーーーペルウィアナは、鈍かった。ーーーーさておきで、
其の鉄を踏まえて、二日鉄を踏まぬ様にと、彼とて考えた。“今回”は、な・ん・と、好感触な・の・だ。ーーーー
但し。“相手”の住む場所に、今回は問題が在った。問題と云う程では無いのやも知れぬが、彼女の住まいは“国外”なのだ。ーーーー
隣りの国に、住んでいる。いや、正確に云うならば、隣りの国で『商売』しているのだ。××××つまりだからシランは隣国に移り住もうと考えて在たのだ。××××其処を“ブラックベリー王”達は、知ったのだ。
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知ったうえで敢えて、ブラックベリーとアゲラタム王妃はシランに“家族”に為る事を、持ち掛けた。此れには意味が在った。先に述べたがシランには“名字”が無い。家名さえも無い者は流石に相当な訳有りと見なされ、恐らくだが結婚等、相手側に許され無いのだ。××××ブラックベリーとアゲラタムの“提案”とは、そう云う事だったのだ。××××××××ーーーー
“家族”と成っても、“家から出るなっ”などとは、「言うつもりは無いよ」ーーと。××××
ブラックベリーはそう言って、王妃を見て、微笑んだのだった。××××
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悩んだシランだったが、イチゴに後押しされ、決めたのだった。
そして。
イチゴが“和希の妻”以外の、此の“星”に住む“姉達”に“連絡する”というので、彼女達が此方へ来る前に、肝心の“プロポーズ”を済ませねば話にも為らんと思ったシランは、つまり“出掛ける準備”をしていて、正に“出掛け様として”、ーーーー“ウメ・サクラ”と遭遇する羽目と為ったのだ。××××
そして彼は“目撃”たのだ。“和希”だった。“犯人”は。ーーー
犯人と呼ぶかは、彼には“判らない”が。××××××××
兎も角だ。当人も知らぬ間に。つまり“気付かれず”に、其れは成された。一瞬だった。だが、
目撃者“シラン”は、其れが何だか“解らなかった”のだ。有り体に云えば其れは単純に“封印”だったのだが、
強いて云うならば和希と云う人物が普通では無く、
会話していた周囲に気付かせないスピードとテクニックで何でも無かった様に片付けた様だったーーと、だけ。……………………………。
シランが観た“光景”を敢えて此処に書き記すならば、先ず“陽藍”が隣国の王弟の“カビダード”と“レザード”を連れて歩いて在た。その時だった。出掛けねば為らぬ故に、シランが其処を離れたのだが、ふと、不意に何故だか彼は振り返ったのだ。少し離れ難かったのかもしれない。理由は兎も角彼は振り返って気付いたのだ。和希が在た事に。
一瞬見間違いかとも思ったが、確かに在た。居ないかの様な朧気な希薄さを纏って。珍しくも彼が“ふっ”と笑うのを目撃したのだ。又錯覚もした。和希がとても魅力的に“みえた”のだ。嫌、言い方が可怪しいのだが、一瞬で惚れてしまいそうな魅力的な“気質”がみえたのだ。××××××××
一瞬だった。
そして“気のせい”と思う程のそれこそ儚い刻のそれの“後”に、本当に直ぐ後に、
“ウメ・サクラ”からは一瞬にして、気付か無い程の、気付け無い程の“魂”が、抜けた。つまり“其れ”が“原因”だったのだ。
原因だった其れは、和希に魅了されて彼に惹き込まれたのだ。ーーーーーーーーーーーーーー惹き込まれた《其れ》は和希の《中》で既に《形成》されてしまいーーもう、無い。
“死神”の上位神の存在で在る和希は“魂”を扱える故に、サクラ令嬢だった“過去の魂”を“本来の形”に戻したのだ。 おそらく“此れ”は、
『そんなお話』〜なのだ。ついでに“彼”はもう一仕事した。憑依や干渉され易い何処ぞの箇の御令嬢君を、そっと其の“干渉力”を〜封印しておいたのだ。直に“影響力”も〜消えて、
ウメ嬢も立派な“淑女”に成れるーーーーーーーーとは、思うのだが。其処は又、『別の話』〜と、しようかと。 〜fin.
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《私》は思い切った。《聞いてみる》ことに《した》のだ。
「ボンベイレッド様……………」 「何かしら、ウメ?」
「……………あの…………“シラン”さま……………、なのですが。…………」 「何?」
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「“素敵”な方ですよね。………………お顔がお美しくて…………っ」 「だからどうしたの?」
「だっ、だからですねっ」
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「あ、ケイトウ、“シラン”は? まだ戻らないのかな? 姉上達が、着いたのだけれど…………」
「!」
「まあ! イチゴ殿下っ。シランでしたら未だです。まあまあ“姫様”達が! 直ぐに“おもてなし”の支度を致してまいりますわっ」
「ははっ。慌てないで? ケイトウーー大丈夫だよ。 姉上達は“ウィアナ”に夢中だから。あ、
それとね?」
「はい、殿下。」
「うん。今度“シラン”が、僕の嫌、“私”の弟と成る事に為ったから。敬称で宜しく頼むよ。人前では特にね。 まあ、当人は“要らない”と言いそうだが、其処はケイトウが厳しくしてくれ。“頼んだ”よ。では、
シランが戻ったら、姉上達の件、伝えてくれ。今の処、“母上の部屋”に、居るから。頼んだよ。」と、
“イチゴ・シャリンバイ”は言ったので在った。後に“ウメ・サクラ”は、彼こそ求めし、いや“求めた”『王太子』なのだったと、知る事と成るが、今は未だ彼女は『何も』知らないので在る。
閲覧、有難う御座いました! 余興ですね(笑)ふと、息抜きに書きたくなりました作です。ではでは!ぺこりm(_ _)m