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005.騒動




 魔石の種類。

 火、水、風、地。

 これは守護竜さまの加護と同じです。


 そして、色もその四種類に大別されます。

 赤、青、緑、黄色。


 濃度や明度、彩度の差はありますが、瓶につまった青色の屑魔石は光を受けて煌めいています。

 まるで海が固体になって詰まっているようで、いくらでも眺めていられます。


 イオライトさまが感嘆を漏らしました。

 恐れ多いことに、共感していただけたようです。


「小さくても瓶に詰まっている様は壮観だな」

「ありがとうございます」


 どんどん陽が昇って、じりじりと暑くなってきました。

 わたくしたちが向かうのはパライバ魔石商会です。


 初めて訪れたかのように、イオライトさまは物珍しそうにされています。


「町並みも随分と変わったものだ」

「宜しければご案内いたしましょうか?」

「うん。そうだな、アネットの視点でパライバを見てみたい」

「そんな大それた町案内はしませんが、お気に入りのアイスクリーム店ならお連れいたします」

「アイスクリーム!」


 パライバは一年を通して暑いので冷たい食べ物のバリエーションが豊富なのです。

 これはわたくしの故郷とは真逆です。アイスクリーム以外にも、生活環境が違うと食生活も違うのだということは驚きの連続でした。


「ほぅ。アイスクリームは変わらずにあるのか」

「季節の果物も美味しいですが、おすすめは塩バニラです。しょっぱさと甘さを交互に感じられて、とても美味しいですよ」

「塩バニラ!? 食べたことがない! とても楽しみだ!!」


 子どものようなはしゃぎようです。

 不覚にも少しかわいらしいと思ってしまいます。お相手は、水竜王さまだというのに。


 海岸を抜けて、遠くに漁港を臨みながら市街地へと向かいます。

 足元は砂から踏み固められた土へと変わります。

 

 そして、広がるのは鮮やかな色彩。

 鈍色をした石造りの平屋こそシンプルですが、軒先で商売を営んでいる住民が多いのです。


 机の上にずらりと並べられた野菜、肉、魚。

 海岸で拾った貝などを使ったアクセサリーを売っている方もいます。

 日よけのためにテントのように張られた布は色も柄も自己主張の激しいものばかり。

 眺めているだけで楽しいのが、パライバの中心部です。


「活気があるな」


 気がつけば、イオライトさまの装いは高貴そうなものから変化していました。


 襟のない丸首の白い服は、綿と麻が混じった素材のようです。風通しがよさそうで、暑いなかでも着心地のよさそうなものです。袖丈は七分ほどで、両腕にたくさん腕輪がはまっているのが見えました。

 ズボンも綿麻のようですが白ではなくオリーブ色。こちらはゆったりとしていて、スカートのように膨らんでいながらも足首の部分はしまっています。

 布靴はズボンよりも濃いオリーブ色で、紐で調整するタイプのもの。パライバでは一般的な靴です。


「あれはなんだ?」


 不意にイオライトさまが歩みを止めました。

 近づいて行ったのは、軒先の店のひとつ。

 果物の実部分をくり抜いて果汁を絞り、皮部分に戻したジュースを売っています。


「いらっしゃい! おや、アネットさん。連れがいるなんて初めてじゃないかい?」


 恰幅のいい女店主がわたくしに笑顔を向けてきました。

 一年ほど暮らしていると、だいたいの住民が顔見知りになるものです。


「こんにちは。はい、そうですね、……」

「私は水竜王イオライトだ。数百年ぶりに地上へ戻ってきた」


 どうやってイオライトさまを紹介しようか考えるも、すぐに無駄となりました。


 いえ、ですが、わたくしと違って女店主はタツノオトシゴ姿を見ていないのです。

 信じずに笑い飛ばすことでしょう――


「水竜王さま!? ほほほほほ、ほんとうだ……。その瞳の色……。伝説の通り……!!!」


 大きな音を立てて女店主がしりもちをつきました。

 立っていただけなのに何に足を滑らせたのかまったくわかりません。


 そして音に反応して、周りの人々が集まってきます。


「どうしたー? 大丈夫かー?」

「みんな! この御方の瞳をよーく見ておくれよ! 伝説の水竜王さまが戻ってこられたんだ!!!」

「なんだってぇ!?」


「皆の者、私はこれからこの者と共に暮らす。地上は数百年ぶり故に勝手の分からぬこともあると思うが、宜しく頼む」


 黙って騒ぎから離れようとしたわたくしの体をイオライトさまが引き寄せました。

 強い力に驚き言葉を失っていると、歓声がひときわ大きくなります。


「アネットさん、どういうことだい? 詳しく聞かせておくれ!」

「めでたいな! 宴だ、宴をしよう!!」

「あ、あの、皆さん……?」


 わたしの声は虚しくも歓声にかき消されてしまいます。

 元々港町で暮らすひとたちは声が大きく反応が大げさな傾向にあります。

 一気に周囲はお祭り状態となりました。


「酒を持ってこい! 今日はもう店じまいだぜーっ!!」


 あぁ……。どうしてこんなことに……?

 

 

 

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