056.許可
運ばれてきた熱々のフライドポテトには、透明な塩がまぶされ、煌めいています。
見た目と共に、香りも食欲をそそります。
わたくしの頼んだ塩チーズケーキは、デザートプレートになっていました。
グレージュの丸皿。カットされたチーズケーキは見るからにねっとりとしていて美味しそうです。
周りにはアートのようにベリーソースが添えられています。
そして、たっぷりのホイップクリームには数種類のベリーが飾られていました。
丸皿とおそろいのカップとソーサーで塩キャラメルラテは湯気を立てています。
「お待たせいたしました」
運んでくれたソベリルが恭しく頭を下げます。
「ありがとうございます、ソベリル」
「ごゆっくりおくつろぎください」
微笑むと、ソベリルは去っていきました。
「美味しそうだ」
イオライトさまが手を叩きます。
その手には塩レモンソーダ。
細長いグラスにはレモンの輪切りが添えられ、底からは細かい泡が立ち上っています。
「いただきましょうか」
「そうだな。フライドポテトは揚げたてが一番美味い」
イオライトさまがかごに盛られたフライドポテトに大きな手を伸ばしました。
贈った腕輪が、穏やかに光を反射しています。
雪の透かし模様の入ったプラチナ。
両端には純金線で覆輪留めされた、イオライトさまの瞳と同じ色の魔石。
目に眩しく、まだ少し気恥ずかしく。視線をテーブルに向け、カップを手に取りました。
息を吹きかけ、少し冷ましてから口をつけます。
ほろ苦く甘いキャラメルラテ。しょっぱいのではなく、甘さを引き立てるための仕様が風味を引き立てています。
「美味しいですね」
「うむ、そうだな」
どんどんイオライト様がフライドポテトを口に頬張っていきます。
見ていてなかなかに爽快です。
「熱々のフライドポテトとキンキンに冷えた塩レモンソーダ。これはたまらない組み合わせだな」
進み具合通り、とても気に入っているようです。きっとカフェが正式にオープンしたら、この組み合わせは流行ることでしょう。
わたくしはキャラメルラテを口にしながら、改めて店内を見渡しました。
やはり視線は奥の絵画へと向かってしまいます。
開店前にソベリルがわたくしたちを招いてくださったのは、イオライトさまが水竜王さまだからと考えていました。しかし、もしかしたら人のいない空間であの絵画をわたくしに見せたかったのかもしれません。
「お味はいかがでしょうか」
「とても美味しいです」
一度は下がったソベリルがわたくしたちへ近づいてきました。
「この店は確実に流行る、塩の博物館は安泰だな」
「恐れ入ります」
ソベリルはイオライトさまに頭を下げた後、わたくしの方を見ました。
「おふたりでおくつろぎのところ申し訳ございません。実は、アネット様にお願いしたいことがありまして……」
「はい? なんでしょうか?」
すると、ソベリルはイオライトさまの腕輪を確認するかのように眺めてから、口を開きました。
「アネット様がお作りになった宝飾品をいくつか、ユークレース公国へ持ち帰りたいと考えています」
「……え?」
「公主様へ水竜王祭の話をしたところ、とても興味を抱いておりました。アネット様が作る宝飾品を是非ともその目で見るだけではなく、公国で広めたいとお考えのようなのです」
「素晴らしい提案だな」
「お待ちください、イオライトさま」
イオライトさまは予想通り、何故? といった表情でわたくしを見つめてきました。
「わたくしはまだまだ修行中の身です」
「だからこそすばらしい提案なのではないか」
抱きしめかねない勢いでイオライトさまが両腕を広げました。
「勿論、アネット様が遠慮されることは想定の範囲内です」
「ソベリル……」
ほっとしたのも束の間。
「クライオフェン様に許可はいただいております。まずはこの塩の博物館で、いえ、このカフェで、展示会を開きましょう」
ソベリルからもたらされた提案は、信じられないものでした。




