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048.報告




「収まるところに収まったね」

「いやぁ、心から安心しました」


 翌日、工房。

 作業の合間。

 おやつにドライフルーツを食べていたところ、メラルドさんが現れました。

 今日はライトグレーでストライプ模様のスーツを着ています。


 マンゴー、パイン、アップル。

 噛めば噛むほど濃い味を感じるドライフルーツを勧めると、メラルドさんはマンゴーを受け取って口に放りました。

 わたくしはクライオフェンさんと向かい合ってダイニングの岩に座っていましたが、メラルドさんはクライオフェンさんの隣に腰かけます。


 心配されているだろうと思い、かいつまんで事の顛末を話していたわたくし。

 メラルドさんから気遣われていたのもあって、改めて、ふたりに向けて説明します。

 当然ながら抱きしめられたことは話していません。しかし、クライオフェンさんとメラルドさんは満足そうに大きく頷きました。


「公開プロポーズを取りやめるというのは残念な気もするけれどな」

「アネット嬢の心情を考えれば当然の判断でしょう」


 昔からの知り合いであるというおふたりのやりとり。その軽妙さは見ていて楽しくなりますが、内容が内容なのでなんともいえない表情になってしまいます。

 メラルドさんがわたくしへ視線を向けました。


「それで、ここに来ているそもそもの理由は話したのですか?」

「やりたいことができたのです、とお伝えしました。形になってから報告したいと言いましたら、納得するどころか喜んでくださいました」

「すばらしい! では、そのためにもこちらをお受け取りください」


 何故だか興奮した様子のメラルドさんが小箱を岩の上に置きました。

 なんと、わざわざ工房まで研磨した魔石を持ってきてくださったのです。


「できあがったのですね。ありがとうございます」


 黒い箱を開けると、あおい魔石がふたつ並んでいました。

 爪の大きさほどのカボション型の宝石。つるりとした表面からは、元の形がいびつだったとはとても想像できません。

 色は空の青と、海の青。イオライトさまの瞳と同じものです。

 透みきって、強い光を湛えていました。


「これは……!」

「アネット嬢の魔石ですよ。偶然にもひとつの魔石からこのふたつが生み出せたので、もうこれしかないと思いましてお持ちしました。まさしくイオライト様の瞳の色です」


 メラルドさんは軽快に片目を瞑ります。


「腕輪の完成を楽しみにしていますよ」

「はい。楽しみにしていてください」


 すると、きょとん、とした表情に変わります。

 つられて首を傾げると、メラルドさんは、落ち着いた笑みを零しました。揶揄(からか)うようではない微笑みを初めて見たような気がしました。


「晴れたようですね、心が。では今日はこれで失礼します」


 メラルドさんが帰ったのを見て、クライオフェンさんは大きく伸びをしました。


「さて、やるとするか」

「お願いします」


 わたくしは拳を強く握りしめました。。

 ついに、これからプレゼント用の腕輪をつくるのです。


 さらさらとクライオフェンさんが図を描きます。


「輪っかではなく、バングル。金属はプラチナ。魔石は両端につける。雪の結晶を透かしで全体的に入れる。これでいい?」

「はい。イメージ通りです」


 クライオフェンさんは絵も上手で羨ましく思います。


「まるで船乗りたちのタトゥーみたいだ。水竜王そのものと、アネットのモチーフでもある、雪」

「クライオフェンさん!?」


 船乗りのタトゥーを引き合いに出されて、声が裏返ってしまいます。

 たとえ、海で命を落として見た目で判別できなくなったとしても。所属の船と愛する者のモチーフで、誰なのかが判るようにという、自身のアイデンティティーを示すためのものです。


「今、そんな大それたもんじゃないって思っただろう」

「どうして分かったんですか」

「思考回路はだいたい解ってきた。あのね、アネット。大事な人間へ心を込めて贈るものなんだ。もっと胸を張りなさい。()()()()()()()()()()()()()

「命を渡す覚悟……」


 そうでした。

 誠実であろうと決めたのは、わたくし自身です。


「はい。うつくしいものを創りたいと、思います」

「よし」


 向かいに座るクライオフェンさんは腕を伸ばして、わたくしの両肩に手を置きます。


「その気合いがあれば、十分だ」


 クライオフェンさんが立ち上がりました。

 わたくしも作業場へと戻ります。


 元になるプラチナの板は完成しています。

 ローラーで薄く伸ばして、ちょうどいい長さと薄さになっています。


「魔石は魔石で、周囲を純金の線で覆って上方を被せるように沿わせておく。繋ぎ目はロウ留めで最終的に分からなくするよ。透かしを一気に入れたら、魔石をつけよう」

「は、はい」


 すらすらと説明してくれますが追いつくのが精いっぱいです。

 一方で、昂揚している自分がいるのもまた、事実でした。


 改めて魔石を手に取り、翳してみます。

 よく見つめると青だけではなく、黄色や紫色、緑色などの色も浮かんでは消えていきます。

 まるで、イオライトさまの様々な面を表しているかのようでした。


 クライオフェンさんが勢いよく手を叩きます。


「早速はじめようか!」



 

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