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038.オレンジ色




 メラルドさんから心の踊るような提案をしていただいた数日後。

 魔石商会で、その宝飾職人と会うことになりました。


 イオライトさまが港へ出かけた後、わたくしも外に出ます。

 約束の時間までたっぷりと余裕があります。

 海辺に寄ってから魔石商会へ向かうことにしました。


 海に近づけば近づくほど、風に含まれる潮の香りが濃くなっていきます。


 今日のワンピースは淡いグリーン。襟がレースで縁取られているものにしました。

 いつものように靴を脱ぎ、ワンピースの裾をまくり上げて結びます。


 砂浜は足の裏が触れる度に少し熱く、ようやく波打ち際まで辿り着くと一気に涼しくなりました。


 青い空、透明な海。

 浅瀬で泳ぐ魚は心地よさそうです。もっとも、自分が泳ごうとは思いませんが。


 そのときでした。


「ぷはーっ!!」

「!?」


 沖の方から頭が飛び出て、大きく息を吐いたのです。

 遠浅とはいえ人間が潜っていたことに驚いて、そして、視線が合いました。

 オレンジ色の強烈な輝きを放つ大きな瞳は三白眼。

 顔立ちは女性なのに一瞬戸惑ったのは、スキンヘッドだったからです。


 ……視線が合って、数秒。

 距離はあれどもじっと見つめられるのも気まずくて、とりあえず挨拶してみることにしました。


「こ、こんにちは」

「こんにちは!」


 女性が海から腕を出すと勢いよく水しぶきが上がりました。

 その両手には、勢いよく跳ねる魚がいます。

 魚へ視線が移ったことに気づいたのか、女性は歯を見せて笑いました。


「あ、これ? 今日の晩飯」

「ばんめし……」

「久しぶりに人里に降りてきたから、たまには魚でも食べようと思って」


 女性にしては低めの声で説明されます。

 人里?

 どうにかして会話を続けてみようと試みます。 


「お刺身ですか? 焼き魚ですか?」

「あははは! そうやって尋ねてきた人間は初めてだね」


 女性が勢いよくこちらの方へ歩いてきました。


 黒いセパレートの水着を着ていて、体の凹凸がはっきりと表れています。

 背丈はわたくしより少し高いくらい。

 かなり目立つ容貌をしているのに、初めてお会いしました。

 女性はさらに言葉を続けます。


「ワタシはクライオフェン。アナタは?」

「アネットと申します。初めまして、クライオフェンさん」


 わたくしが名乗ると同時に、クライオフェンさんは持っていた魚をぱっと離して、わたくしの両手首を掴みました。

 後方で、魚はこれ幸いと言わんばかりに沖の方へと消えて行きます。


「もしかして腕輪を作りたいアネット!?」

「えっ!?」

「ちょうどよかった。今日この後、魔石商会で会うって予定だっただろう?」


 ……まさか。

 変わった女性、というのは。

 もはや答えがひとつしか浮かびません。


「……もしかして、クライオフェンさんは、宝飾職人さんですか……?」

「いかにも。よかったよかった、じゃあ早速行こうか」

「えっ。ど、何処に?」

「ワタシの工房以外にどこがある? これも何かの縁。魔石商会は窮屈だから、すっ飛ばしちゃおう」


 確かに、変わっている方、です。


「いえ、それでは紹介してくださったメラルドさんに申し訳が立たないので……!」

「あの坊やなんて気にしなくたっていいよ。どうせカネの話しかしてこないんだから」


 メラルドさんが、坊や?

 クライオフェンさんは一体おいくつなのでしょう。


 年齢不詳のクライオフェンさんはわたくしに顔を近づけて、鼻を動かします。


「今回は珍しくカネがメインの案件じゃなかったら乗ってみようって思ったのさ。うん。あなたからはカネのにおいがしないね、最高だ。たまにはあの坊やもいいことをしてくれる!」


 変わった方というか、強引な方というか。

 イオライトさま以上にマイペースな方と、初めて出会いました……。


「決まった決まった! さぁ、行こうか」


 クライオフェンさんが戸惑っているわたくしの手首を掴んだまま宣言します。

 これは、メラルドさんに後日謝罪をしに行かねばならないでしょう……。

 

 

 

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