023.友人
「ピネルがそんなことを?」
目が覚めるほど鮮やかな色で溢れたアイスクリーム屋は、今日も満席です。
今回は、トリンさんと訪れていました。
髪の毛はお団子ではなく、三つ編みにして後ろへ流しています。
「だからあんなに上機嫌だったのかな」
アイスクリームを頬張りながら、トリンさんの瞳がいっそう大きく丸く輝きました。
トリンさんは細長いスプーンを軽く振ります。
上機嫌だった、というのは。
数日前に海辺でピネルさんと会ったことを話した感想です。
わたくしにはいつも同じようにしか見えませんが、やはり双子だけあってピネルさんの無表情からトリンさんは多くを読み取れるようです。
「上機嫌だったのですね」
わたくしが頼んだいちごのアイスクリームは果肉入り。口に入れる度に優しい甘みが広がります。
正しくはバニラ、チョコレート、いちご。
浅く広いグラスに小盛りで三種類のアイスクリームが載っている様は、目にも口にもささやかな贅沢です。
バニラの美味しさは言わずもがな。
チョコレートは濃厚で、時々、チョコレートの欠片が舌に当たります。
どの順番で食べても味が混ざることはなく、毎回新鮮な感動を味わえます。
トリンさんは塩バニラアイスクリームをあっという間に完食していました。
細長いスプーンを回しながらわたくしへ視線を向けます。
「アネットは、どう思った?」
「どう、とは?」
「魅力的な人間だって言われたことと、逃げ出したくなったらいつでも言って、って言われたことについて」
心なしか、トリンさんはにやにやとしているように見えました。
「気にかけてくださってありがたいと感じました。ピネルさんとトリンさんがこうやってよくしてくださっているからこそ、わたくしはパライバで生活できているのだと改めて思います」
「あああ~。そっちか~」
そっち、とは?
疑問に思いましたが、問いかけるよりも早くトリンさんがテーブルへ身を乗り出しました。
「あたしこそ同い年の友人っていなかったから、こうやってアネットとアイスクリームを食べられるのがうれしいんだよ」
「ありがとうございます」
「いやいや、こちらこそ」
何故だかふたりしてお辞儀をし合います。
なんだかおかしくて、どちらともなく吹き出してしまいました。
「さて、そろそろ行こうか」
わたくしが完食したのを見計らったように、トリンさんが麦わら帽子を被りました。
ストローハットで、黒いリボンが巻かれているタイプ。よく似合っています。
「はい」
立ち上がったトリンさんの着ているワンピースは、上が黒のノースリーブ。下がアイスクリームに負けないくらい鮮やかな花柄。
わたくしと違ってトリンさんは体の凹凸がはっきりとしているのですが、体のラインに沿ったラインがとてもよく似合っています。
足元のサンダルはピネルさんと同じもののようです。
「いいの見つかるといいね」
「そうですね。よろしくお願いします」
陽ざしの照りつける道を並んで歩きながら向かうのは、パライバで最も大きな広場です。
目的は、月に二度ほど開催されるフリーマーケットで麦わら帽子を買うこと。
広場は魔石商会の近くにあります。
近づくにつれて、賑やかな音が耳に届きます。
どうやら中央で楽器の演奏会が開催されているようです。打楽器のリズムに合わせて、笛の音が軽やかに響いています。
音楽に混じって歓声も聞こえてきました。
不意にトリンさんが立ち止まりました。
そして人だかりの中央を指さします。
「アネット、あれって!」
「……!?」
歓声の理由が分かりました。
広場の中央で演奏に合わせて踊っていたのは、イオライトさまだったのです。




